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再びの夢を。

 薄暗い.......。


 周りは壁.......?

 山?


 ちがう、これは本?


 小高く積まれた本の壁。囲まれた塀の中にまるで囲われたかのように一人少女が縮こまっている。その影はまとまってひとつの丸のよう。


 なぜ薄暗いのだろう。


 窓のない部屋。あかりはたったひとつの松明。薄暗い光がその影を、時々ゆらりゆらりと揺らしていた。


 やっと慣れてきた目を、よーく見開いて辺りをみてみる。


 広い.......部屋?


 普段、8人家族でキュウキュウに暮らす部屋しか知らないわたし。ここがひとつの部屋だとはすぐには思えなかった。



 たくさんの棚.......。


 棚にはずっしりと大量に本が並べられていた。


(これ、ぜんぶごほんだ!)


 その広い部屋に燃えさかるたった一つの松明と、その灯りを頼りにするように、真下に座る先程の少女と本の囲い。


 少女は背中を丸めて床に手をついていた。まるで人形のように身動きひとつしない。


(どうしたのかな?)


 少女の手元をそっと覗く。床には開かれた本が、数冊ズラっと並べられていた。


(このおねえちゃんも

 じがよめないから

 ながめてるのかな?)


 と、少し様子を見守る。



 松明の炎がゆらゆらと揺れる度、景色も影もゆらゆらと揺らめく。


 少女を見ているのにも少し飽きた頃、


(わたしもごほんよみたいなぁ...)


と、少女の前に広げられた本をながめてみる。そこに書かれた文字は何一つ分からなかった。


 が、途中に描かれた挿絵はとても綺麗で目をひいた。


(おんなのひとのぞう?

 きれい...。

 こっちははねがはえてる!

 わ、こっちのおんなのひとは

 ゆみをもって...

 わんわんといっしょだ!

 どこにいくんだろう?)


 それは後に魅了される女神たちの像。古代ギリシアでは、なんとも優雅で美しい女神像がたくさん作られていた。


 わたしたちローマ人にはないエレガントさにうっとりと憧れを抱けるのはもう少し先のこと。


 それでも今は、挿絵に夢中になって覗き込む。



 どのくらいの時間がたったのだろう


 松明の炎が弱々しくなり、壁の隙間から光が差し込んできた。


(ギギギ...)


 ゆっくりと、静かに開かれた扉から誰かがそっと入ってきた。


(だれだろう?)


 頭からすっぽりと布をかぶっている人影。そろりそろりと少女に近づいていき少女の前に屈んだ。


「ふふ。本を読みながらトリップしたまま、また寝ちゃったんですね」


 声からしてどうやら少年のようだ。


「しかしまたたくさん読んだねぇ」


 少年は小声のまま、少女の周りに積まれた本を

 呆れ顔で見回す。


「まったく、しょうがないんだから。」


 と言う少年の顔は、セリフとは裏腹に優しそうな微笑みを浮かべた。


「さて、家の者がくるまえに片すとしますか」


 と、少年はすっと立ち上がり、自分が被っていた布をふわりと少女にかけた。

 と同時に、あらわになった少年の姿。

 暗がりでハッキリとは見えないものの、端正で美しい。

 身を包む衣装も、庶民には手に入らない高価なシルクだ。宝飾品もシンプルな作りながらも大粒の宝石があしらわれている。そして髪色は珍しい明るい色をしていた。


(あれ、どこかで?)


 少年は、山積みの本のタイトルをすみやかにメモをとり、テキパキと棚に本を戻していく。



(スタスタくるり、たちしゃがみ

 おにいさんがうごくたんびに、

 かみのけがふわふわって)


(キラキラしてる)


(きれいだなぁ...)


 あっという間に本は元の場所へと戻され、少年はまた少女の前にしゃがんだ。


「さぁ、起きてください」


 そう言いながら少年は、そっと少女の方に手を伸ばしかけ、一瞬悩み、引っ込めた。


 屈伸するように小さくしゃがんだ少年は、自分の膝を抱えみ、少女をじっと見つめた。


「しかし、無防備ですよね」


 優しくわらっていた顔から笑顔が消え、真顔になった。


「だから、無防備なあなたが悪いんでス」


 暗がりの中ででもわかるほど、少年の頬が紅潮していく。


「あと、いつもこの僕に片付けなんてさせてるんだから。ご褒美、貰っとギマす」


(あ、おにいちゃん、かんだ。)

幼い私の突っ込みは少年の耳に入ることも無く、少年はしゃがんだ姿勢のまま、ぎこちなく、少女の方へと体を傾ける。


 ぐぐぐっと顔が近づけて...。


 ほんの数秒だろうか、少年の動きが止まった。



「くっ」


 っと悔しそうな声を上げた。


「無防備と思わせといて、角度がっ...!」


 そう。少女は真下を向いていたのだ。少年の狙いは惜しくも叶わなかった。


 少年は諦めたように、ふっと笑った。


「ちゃんと身を守ってるならいいですよ」


「今度ちゃんと起きてる時に、ご褒美狙うとしますから。」


 そう言うと少年は、ポンポンと少女の頭をたたき、黒髪のなかに自分の顔をうずめ、


「ちゅっ」


と軽く触れた。


「今はこれで」


 と言いながら、少年は自分の手の甲で自分の唇を塞いだ。照れているのか顔は真っ赤に染まっていた。


「いつか。本より何より、僕しか見えなくさせるから」


 と言った少年の瞳からは、あどけなさよりも逞しさを感じる真剣な眼差しだった。


「僕と同じくらい、僕のこと好きになってよね」


 と、少女の耳元で優しく囁いた。と同時に、


「起きてー!」


と、大きめの声を少女にかけ、床についていた少女の両腕の肘の内側をパーン!と叩いた。


「ふぇ!?」


 まるで膝カックンのように、崩れ落ちそうになる少女。役得とばかりに受け止める少年。


「砂漠の底なし沼が足を食べたから棒きれで」


「どんな夢見てるんですか。

 ほら、家の者が来ますから、もう起きてください。見習い居候身でこんなとこに侵入してるのバレたら、また怒られますよ」


 そう言いながらも少年は、ホクホク笑顔で少女をなでなでしながら抱きしめる。


「足と腕を、底なし沼から取り返すまでは.......!」


 少女はあの体制で本当に寝ていたのだろう。痺れて感覚が無くなってしまっているようだ。


「何言ってるんですか!今日はギリシアのアテナイにって、自分で言っていたでしょう?

 アテナイにトリップしたって砂漠はないですよ。ほら、起きてください!」


「う〜...」


「おーきーてー!」


 ゆっくりと少女の意識が戻ってくる。と同時に幼い頃の私の意識が離れていく。


「...はっ!」


 っとガバッと少年から少女が離れた。


「こっ、これは皇子さま!いかがいたしましたか!?」


「まだ寝ぼけてますね?ちゃんと起きてください。書庫から出ますよ」


 少し残念そうなルキウス。


「はっ!しまった!って本!」


「しまっておきましたよ。」


 にこっと微笑む少年。


「うわぁ、いつもありがとうございます

 ルキウスさま!」


「そんなことより、急いで!」


 ワタワタと大慌てで書庫から出ていく2人を、私はここで見送った。


 そして、幼い頃のわたしも無事自分の時代に戻った。


 こんな頃から愛されていたのね...。と、キスされた場所をそっと撫でてみる。


 甘酸っぱい。

 でも、この頃のわたしも、ちゃんとあなたを好きだったのよって、思わず笑みが零れる。



 でも。

 この幸せな一時には、わたしの分岐は見つからなかった。


 次の時代へ進もう。


 だから、頑張ってね。どちらの時代の私たちも.......。








「うわああぁ!!!」


 じぶんのおおきなこえでめがさめました。


「...?」


 ひくいてんじょうに

 せまいへや。

 たいまつなんてもちろんありません。


 そとからはバサバサと

 とりさんがとんでったおとがしました。



「なんだなんだ?どうしたんだ!?」


 わたしのおおごえで、

 おにぃも、

 とうちゃんも

 おこしちゃったみたいです。


 でも、わたしはまだ

 ゆめのなかに、いるかんじ。

 ふわふわしています。


「あのね、いまね、

 わたしね、ゆめをみててね」


「また夢みてたのか

 最近続くなー」


 と、しんぱいそうにしてくれる

 おにいたち。


「うん、でもね、きょうはね」


「今日は?」


「おにぃさんがおねーさんに

 ちゅーしようとしてて」


「は?」


「おにぃさんは

 おかおがまっかっかで

 かっこうつけて

 しゃべってるのに

 おことばが

 かみっかみだったの」


 それだけいうと、

 わたしはまたコテンッところがって

 すぅすぅとまたねむってしまいました。


「......」


 おにぃたちがあぜんとしてたとか、


 いちばんしたのおにぃが

 わたしのゆめを

 とうちゃんにいって、

 どのおにぃが

 よそさまのおじょうさんを

 たぶらかしてんだー!


 とか、かんちがいしてキレて

 あばれて、

 てがつけられなくて

 たいへんだったとか


 とりさんが

 チュンチュンなきだすまで

 ぐっすり

 ねちゃってたわたしには

 まったくしらないことでした。


(でも、あのおにぃさん)


(このあいだのおとこのこに、

 にてたかも)


(また、あえたらいいな)


 ってうふふってうれしくなりながら

 しあわせにねててごめんなさい。


最後までお読み頂き、ありがとう存じます。


前回までの主人公が5歳の女の子でしたので、文章全体がひらがなだらけて読みにくいと言われた反動で

今回はこのような形になりました。

なので、主人公が同時期に、3人登場してしまいました。

自分でもビックリです。

(計画的になんですけど)

そして、文中でかけなかったのですが、少年はもちろんルキウスで、

ルキウスからは他の2人の主人公は見えていません。

その時代の主人公が意識のない間は他の時代の主人公が覗きに来られる、という裏?設定があります。

今後もチョイチョイ起こる予定です。


次回はまた5歳時に戻りまして、いよいよ文字を習い始めます。

どこで、誰に習うのか。

そしてルキウスを登場させられるのか。

ひらがな地獄を抜け出せるよう、

なるべく早く成長させますので

どうぞよろしくお願いします。

頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おっ! 王子様! 設定もよいですね。キュンキュンさせてもらえます。 途中で人称が切り替わるところも斬新で、非常に勉強になりました。 次話も楽しみです。
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