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星降る夜に ※親父side

「ひさしぶりにどうだ?

とっておきのワインがあるんだが」


ゾロゾロと、丘の上の屋敷から男達が歩いているなか、1人正装をしている男が1番体格の良い男に声をかけた。


「.......あー...いや、今日は帰るわ。

ちと疲れすぎた...」


「そんなこといって、プリウス、お前悩んでるんだろ?」


「まぁなあ...。」


「よし、じゃあ後でそっちいく。

たまには海でも見ながら呑もう」


「村長...悪いな。」


ゾロゾロと歩いてきた男たちは、1人、また1人と村長と呼ばれた男に挨拶をし、自宅へと戻っていく。


プリューラが無事見つかった後、屋敷でケーナと称し、捜索に加わった男たちに盛大に食事や酒がが振る舞われた。

村では自給自足で、自分たちの村で取れたものしか普段食べていない村人たちには、食材も、料理法も変わっていて、ふんだんにスパイスの使われた高級料理の数々は大満足の食事だったし、余ったものは家族へのお土産としてもちかえられた。

どの男達も、満足そうに自宅へと消えていく。

ただ1人、プリウスを除いて。


プリウスは、息子たちをゾロゾロと引き連れ、海辺の、自宅へと戻る。

途中、一言も話さない様子に、息子達もバツが悪そうだ。


まだ5月とはいえ、今日のような日には、少し肌寒くすら感じる。

本当に、プリューラに一大事がなくてよかったと、安堵しているはずなのに、気持ちは沈んでいるのだろう。

息子達が家に入ったのを確認すると、早く寝るように促し、自分は外に出た。


「...はぁー...。」


砂浜に足跡を残すように浜辺まで歩き、波打ち際にどかりと腰掛けた。

明かりは月と、満天に輝く星々のみ。

闇夜に目が慣れていなければ、薄明かりとしか感じない。

だが、これ程の月明かりが出ていれば、辺りを見回すのには苦労しない。


プリウスは夜空を見上げた。

悩みある男にはその輝きも半減なのだろう。

心ここに在らずのようだ。

心地よい波音を聞きながら、押し寄せるさざ波をぼんやりと眺めていた。


どれくらい時間がたっただろうか。

ようやく村長と呼ばれていた男があらわれ、どかりとプリウスの隣に座った。


「待たせたな」


両手にワインの瓶を計4本持っていた。


「ドルススさん」


「ほれ、今日は呑もう。

話しぐらいいつまででも聞いてやる」


そういうと、瓶をそのまま2本渡し、プリウスの背中をポンポンと叩いた。


「いつもすんません。世話になるばっかりで。」


瓶を受け取ると、1本は砂浜におき、慣れた手つきで蓋をあけた。


「それじゃ、飲み直しで!乾杯!」


「はは、乾杯!」


2人は瓶を高く掲げ、勢いよくゴクリゴクリと飲んだ。


「これは美味い!」


「いや、屋敷で出された方のワインのが上等だったけどな!」


「あれは反則じゃないですか

上等過ぎて呑んだ気がしねぇや」


「もったいねぇなぁ。年に一度飲めるか飲めないかって酒なのに。ちゃんと味わっとけよ」


「はは...。正直生きた気がしなかったっスよ

プリューラが無事みつかったっつっても、隔離されたまま屋敷の奥へと引っ込められちまって」


プリウスは飲みかけの瓶をコツンと足元に置いた。


「それは手当の為だろ。実際お屋敷の女形さんたちが、風呂だのなんだのと身綺麗にしてくれたり、手当やら、しまいにゃ医者まで呼んでくれてさ。」


「...そーなんですよねぇ...

たかが田舎娘1人に医者まで。

なにか裏があるんじゃないかと勘ぐっちまわぁ。」


「いや、それは考えすぎだろ」


村長こと、ドルススはくくっと苦笑いをした。


「そうっすかねぇ...」


「屋敷じゃ、あれが普通の対応なんだろ。

実際、ぼっちゃんが病気療養するためにこの村にきてて、お抱え医者連れてきてんだからよ。」


「療養っつったって、ピンピン元気じゃないですか。」


プリウスは怪訝そうな顔をした。


「そうだな。元気そうに見えるな。今は」


「今は?」


「ぼっちゃんはな、今までほとんど屋敷から出られないくらい弱ってらしたんだよ。それこそ、たまに体調の良い時だって、『おこし』じゃなきゃ外に出掛けられない程だったんだ」


「そんなに?」


「あの肌やら髪やら、色素の薄い色みりゃ分かんだろ?

体力も生命力も無さそうなよ」


「確かに...。」


「ここに移動してくるのも、首都ローマから休み休みで何日も掛かったって言ってたなぁ」


「徒歩で?」


「いやいや、移動用の、馬車だよ

馬車の揺れが坊っちゃまのお体に響くっつってな」


「そんなに...」


「まぁ、健康バカの俺らには想像もつかねぇよな」


「健康バカ...それ誰の事っですか」


「少なくとも俺とお前とお前の家族だな」


「確かに!」


ガハハっ!と、景気よく笑う大男2人。


「それが、お屋敷の人の話じゃあ、プリューラちゃんが来てから、みるみる元気になったらしい」


「うちのプリューラですか?」


「あぁ。屋敷のだれもがビックリしてたらしい」


「はぁ...」


「それがな、初日の日、俺が連れてった日、あるだろ?」


「はい」


「あの日、実はプリューラちゃん。ボロボロ泣いちゃってさ」


「えぇ?!初めて聞きましたよ?」


「ははは。言わなかったからな」


「ちょ。そういうことはちゃんと教えてくださいよ」


「まぁまぁ。

それでプリューラちゃんはさ、どうやら辛そうなおぼっちゃんをおかあさんと重ねて見ちゃったらしくって、ぼっちゃんの横でわんわん泣きながら、薬飲めーとか、早く治ってーって真剣に付き添ってたんだよね」


「かあちゃんと...」


「それがどうもぼっちゃんに響きまくったらしく、それからあれよあれよと元気になったかと思いきや、乗馬やら剣術やらの練習までするようになってさ。お屋敷の一同みんなで涙流すほど感動したんだよね」


「そこまでっすか」


「あれだよ、女が男を変えるってやつだな」


「何言ってんすか。2人とも何歳だと」


「こういうことに、歳関係あるかね?」


「早すぎる!」


「まぁまぁ。とにかく賢いぼっちゃんだしな。

それと、屋敷の人間からしたらよ、皇帝のイチ子息を預かる訳だからな。」


「それも初耳だったんですけどね

あの金髪で、皇帝一族なんすか?それよりローマ人なんですか?」


「そこは間違いないだろう。お前知らないのか?」


「知らなかったっす」


「その様子じゃあ、あのお屋敷の持ち主もさては知らねぇな?」


「...知らないっす。」


「...こりゃ、話が長くなるなぁ...」


「...すんません」


「じゃあ、話は割愛しよう」


「えぇー?」


「知らんもんを1から説明するよりも、今日はお前の話を聞いてやりてぇんだよ」


「ドルススさん...」


「話たくないことは無理に話すな。だけどよ、溜め込んで体悪くするくらいなら、吐き出しちまいな」


「そッスね...」


プリウスは、視線を砂浜から夜空へと移した。

そして、大きなため息を1つついた。


「なんといいますか...」


「...。」


「俺にとってもプリューラは、アイツの忘れ形見なんですよ。

...まだ幼いなりに、アイツの面影もっててさ。

なんの病気なんだかもわかんないまま、『寝てりゃ治る』なんて強がり言ったまま何日も苦しんで、ぽっくり行っちまってよぉ...」


「...」


「いつかは嫁に行くんだとしても、まだ手放したかぁねぇよなぁ...」


いつのまにか空になったワイン瓶をコロコロと転がしながらプリウスは大きなため息をついた。


「...」


「あのぼっちゃん、賢そうだしなぁ...

金も権力もあんなら、息子らの言う通り、文句なしの相手だよなぁ...。」


「...」


「嫁になんか、出したかねぇよなぁ...!」


そういうと、プリウスは2本目のワインに手を出し、一気に飲み干した。


「おぉ、いい飲みっぷりだな」


「これが呑まずにやってられっか」


と、プハッと息を吐き、ゴロンと寝転んだ


「まだアイツが生きてりゃあなぁ!

アイツなら、なんていうかなぁ!」


「お前嫁さん大好きだったもんなぁ」


「ガハっ。アイツほどいい女、この世に2人ともいねぇですよ!」


「そうか」


ドルススはチビリとワインに口をつけると、ワインに蓋を戻し、プリウスと同じように砂浜に寝転んだ。


「あー、俺にわかるように、返事くれないかなー」


「...」


2人の男は静かに星空を見ていた。

その時、流れ星が一筋落ちた。


「おい、みたかプリウス今の!」


「はい、見ましたよ!

あれはみずかめ座のほうですね!」


「みずかめ座の流れ星か

みずかめ座っていやぁ、神のネクタルを注ぐ甁だったか?」


「はい。プリューラの話じゃあ、相当な美形らしいですよ」


「そこから流れ星かぁ」


「あっ!また!」


「おぉ!今夜は星降る夜だな」


「これ、アイツからのメッセージだったりしないかなぁ」


「...」


「あれ?」


「どうした?」


「空のワイン瓶が、中身が増えてる」


「なんだって?」


「流星が、瓶に?」


「...」


「かぁちゃん、もっと酔っ払っちまえっていってんのかなぁ」


「...」


「男なら、ウジウジ悩むんじゃないよっ!

って言ってんのかなぁ」


「...」


「へへ、アイツらしいや」


そういうと、プリウスは未開封の瓶をあけ、またチビチビと飲み始めた。


「しかもこれ、なんだか美味いや...」


ドルススは何も言わずにプリウスを見守っていた。


「そうだな、いつまでも考えてても仕方ねぇよな!

よし、ドルススさん!俺は決めたぜ!

結論はプリューラに任せる!

ぼっちゃんについて行くも、ここに残るも、プリューラ次第だ!

それでいいよな!

かぁちゃんも、それでいいって言ってくれてる気がする!」


「あ、あぁ...そうだな。」


晴れ晴れした笑顔になったプリウス。


「よし!そうときまりゃあ今日はもう、寝るとします!明日こそ漁に行かなきゃ、村人たちも食うもんが無くなるっつーもんですよ」


「あぁ、そうだな」


「じゃ、村長!ワインご馳走さまでした!」


「お、おう!」


スタスタとあっさりと自宅に戻るプリウス。

1人ポツンと呆気に取られたドルスス。


未開封のワインは自分の分だ、とはとても言えない引きつった笑顔のドルススであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

今回はおやじ回となりました(笑)


詳しくは知らないのですが、5月はみずがめ座流星群があるそうです。

昔から流れ星があると人が死ぬだの縁起が悪い方にもとられていましたがわこういうのも良いかなぁと思いました。


そして、プリューラはみんなに愛されてて羨ましいです。

プリウス(プリューラ父)も、早くルキウスを認めてあげて欲しいです。


全然関係ないんですが、生徒にイラスト頼まれてました。

描きなれてないキャラ(つり目)に悪戦苦闘しましたとも。ええ。

本当に関係ないないですね(苦笑)



次回、『君と食べる朝ごはん』です。

挿絵つく予定です。

よろしくお願いします。

頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 流れ星の使い方が素敵でした☆彡
[良い点] おやっさん×おやっさん! 良きですね( *´艸`) 一応のかたちで納得したとはいえ、一人娘の旅立ちはキツイものがありますよね( ;∀;) 泣けますね(;_;)
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