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下準備

※ルキウスside※


「これはこれはぼっちゃま、

ようこそおいでくださりまして。」


昨村長は嫌な顔ひとつせず、ぼくを迎え入れた。

いまはまだ早朝ではあるけれども昨夜のうちに使いをだしておいたのは正解だったようだ。


馬車を外に待たせ、着いてきた侍女長と護衛二人を共に村長宅へと入った。

質素ではあるけれど、あの子の家よりは全然大きい。

家の中も簡素であれども綺麗に掃除されている。


客間に通され、コの字型に並べんだ長椅子の1番の上座に促され、そこに座る。

当然のように共のもの達はぼくの後ろに控え、村長はその横の席にゆったりと腰掛けた。


「早朝からすまない。」


「いえいえ、坊ちゃんほどの高貴なお方にお越し頂けるとは、我が家にとって名誉でございます」


と、深々と頭を下げてきた。

嫌味を一切感じないこの男の態度に歓心をおぼえつつも、あの子に会いたさに焦るぼくは、早めに要件を切り出し、つぎに向かいたかった。


「要件だけ手短に話す」


「かしこまりました。」


「村長、そなたがぼくに紹介してくれた少女の話だ。」


「プリューラでございますか。

なかなかの賢さに可愛らしい少女と思い口利きを致しましたが...

なにかご不便をおかけでしょうか?」


と不思議そうな顔をする。


「いや、いま言われた通り、賢く可愛い少女だ。

おかげでかなり救われた。良い子を紹介してくれたこと、感謝する。」


「これは有り難きお言葉...!」


っとまたかしこまって頭を下げる。

どこまでへりくだるのか、でも嫌な気がしないから不思議だ。


「うむ。

それでさしあたっての頼みなのだ。」


「はっ。」


「実は、プリューラを僕の身辺に、そばに置いておきたいと思っている。その事について、プリューラの家族に口利きを頼みたいのだ。」


「身辺に...ですか」


「...そうだ。」


くっと、堪えたけれど、顔が熱くなるのを感じた。分かってはいるけど、やはり恥ずかしいものだ。


「もう少しお聞かせください。」


村長は椅子からおり、床に膝をついた。


「プリューラをお傍に、とはどういう意味でしょうか?」


「意味、とは?」


「たとえば、女中としたいのか、側妻としたいのか」


「そばめ?」


カッ!と感情が怒りに変わった表情を村長は見逃さなかった。


「2つとも違うようですね」


「当たり前だ!」


「では、どのような意味でお傍に起きたいとお考えなのか、お聞かせ願えますでしょうか?」


と、膝をついたままの村長が尋ねてくる。

どうやら彼も本気で聞いているようだ。


「...ふぅ。

あなたも僕が人身売買するなんてお疑いか?」


「は?人身売買?まさか」


と苦笑いをする


「プリューラはプリウスの大事な一人娘なのです。お側仕えともなれば、とても名誉な事でしょう。ですが、その立場によっては、プリューラも苦労が重なることと思います。ましてやあの子はまだ5歳。親に甘えたい年頃です。そこまでして稼がなくとも、プリウスの家は貧困しておりませんので、対応次第では仲介しかねます」


...なるほど。

これは確かに信頼のおける男だ。

自分が納得出来なければ仲介しないというその態度も気に入った。

だいたいの大人は、金をチラつかせれば乗ってくるものだ。

だがしかし、この村長は違うようだ。


逆に言えば、この男を納得させ味方につければ、あの子の父親をちゃんと納得させられられるということだ。

これは良きなり。


ぼくはほくそ笑んだ。


さぁ、どう説明しよう。


「侍女や女中として働かせるつもりはない。

ましてや奴隷なんて以ての外。

それから、ぼく自身もまだ8歳である。

幼いプリューラを練習台として弄ぶつもりもない。従って側妻や側室という半端な扱いをするつもりもない。」


「それでは...?」


「変な話だとは思う。

ただただ純粋に、ぼくの友人として

傍に、傍らに、居て欲しい。

それだけなのだ。

分かってもらえるだろうか。」


キュッ。と、切ない想いが胸を締め付ける。

「好きだから」

って言ってしまえればこんな簡単なことは無い。


だけど、ここに恋愛感情を介入させて話をすれば、また側妻だのなんだのとめんどくさい話と勘ぐられる。


ただただ純粋に、傍に居たい。

居て欲しい。

もっと長い時間を一緒に過ごしたい。

ぼくの願いは、ただただそれだけなんだと、

誰が理解してくれると言うのだろう。


案の定、村長はキョトンとした顔をしていた。


それから少しの間考え込むような仕草をし、

口を開こうとした途端、入口のドアが激しく開いた。


「とうさん!たいへんだよ!」


見ればぼくより少し年上の少年が肩で息をしながら叫んだ。


「ぼっちゃんの屋敷から使いの方が来て、プリューラが森に入って行ったって!」


「なんだって?!」


「ぼくの屋敷のものが?

その使いは何処に?」


「いまこちらにお通ししてもよろしいですか?」


「もちろんだ!はやく!」


通されたのは、うちの料理長だった。


「ぼっちゃま、すみません!

わたしが余計な一言を言ったせいで、

プリューラが森の中へ...!」


「...なんだと?」


「すぐに追い掛けたのですが、姿を消してしまいまして...!」


「森とは御屋敷の後ろのでしょうか?」


「ええ、そうです!はやく見つけなければ!」


「ぼっちゃま、この時期は、森の生き物たちは出産時期で苛立って凶暴化しています。プリューラが危ない!」


「...村長、この話は後でまた!

人手を借りたい。手配を頼めるか?」


つかつかと外へと向かって歩き出す僕の後ろを村長がついてくる。


「もちろんですとも!

かしこまりました!」


「それとすまない、プリューラの御家族へも...」


「は。一報を入れます。ですが、この時間ではまだおそらく漁に出ているかと」


「いや、たぶんそれはない。

プリューラがわが屋敷に来たのならば多分家出をしてきたのだろう。

あの父親ならば、漁に行かずに探しているはずだ。」


「...かしこまりました。」


外に出て、ひらりと馬車にのる。


「では村長!捜索隊の手配と指揮を頼む。」


「はっ!」


返事を確認し、侍女も馬車に乗ったのを確認し、慌てるかのように馬車を走らせた。


「馬車など壊れても構わない!急いでくれ!」


と御者を急かした。


あの幼い、柔らかそうな体を森に住む腹を空かした野生のものたちが放っておくだろうか。


恐ろしい想像が容易についてしまう。


どうか無事でいてくれと、

誰にともなく願った。


気持ちばかりが焦って、行動に出るのではなく、家で待っていればよかったと悔やまれてならない。


プリューラ!

プリューラ...!!

どうか無事でいてくれ!

君に何かあったら、ぼくはどうしたらいいんだ


ぐっと握った拳の中で、爪が手のひらを傷つけても、この時は痛みさえ感じることが出来なかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


人には2通り居ると思うのですよね


自分のために頑張る人と、人のためなら頑張れる人。

ルキウスはきっと後者なのかなと思いましたが、これ、自分のためでもありました(笑)


次回、「プリューラ森で迷う」です。挿絵付きです。

よろしくおねがいします。


※次回「森の中で」になりました

(2019.10.31追記)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ぷりゅたんの一大事ですね! それにしても、ルキウスの推理力はすごいですね。 そして、溺愛力(?)も。 次話、森で迷うぷりゅたんを見守りたいと思います。
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