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狼の仔  作者: 加密列
第八章 血に染まる
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喧嘩と代償 〜トピ〜 挿絵有り

この前の喧嘩と違うのは僕が最初から相手を傷つけるつもりでいることだ。とはいえ、まさかティアがいきなり単身少年たちの中に突っ込むとは思っていなかった。もっともそれは少年たちも同じなようで一気に動揺が広がる。あちこちで悲鳴が上がり始めた。


(僕も行くか)


外側から攻め込む。ティアに集中している彼らの首筋に手刀を叩き込むだけで次々と崩れ落ちていった。


中を進むティアと一瞬目が合う。もともと夜目のきく僕たちは確実に相手を翻弄し、倒していく。と、目の前の少年が天秤棒を振り上げた。


(馬鹿なのかこいつ?)


こんな狭いところでそんな長いもの振り回したら味方に当たる可能性とてある。とっさに、振り上げたその先端を飛び上がって掴むと一気に地面に叩きつけた。後ろ向きに関節が決まったそいつは地面に激突する。


「もらうよ」


外側からなら天秤棒を使う価値がある。そのまま首筋や、ようやく僕に気づいた奴らのみぞおちに棒を突き込む。


(ん?)


少年たちの数はだいぶ減っていたが、まだ僕たちの倍以上いた。その中で刃物がひかる。


「ザンサ、気をつけろ!」


とっさに礫を打つと刃物は弾き飛ばされて宙を舞った。その柄を空中でティアが掴みあらぬ方向へ投げる。僕たちはこいつらを殺すつもりなどない。刃物は己の腕を縮めるだけだ。こいつらはそれが分かっていない。殺すつもりもなく殺傷能力の高い武器を振り回すことになんの利益もない。己の身を危うくするだけだ。


「死ね!」


棍棒が降ってくる。死ねと言ったところで人は死にやしない。本当に殺す気があるなら無駄口叩いてないでもっと確実に襲え。身を翻して避けるとその肩をきめ、関節を外す。脱臼はそこまで後を引かずにはめることができる。ただ…ものすごく痛い。案の定そいつは地面の上を転がりまわって悶絶した。


残りは、あと三人。そのうち二人はティアを囲んでいる。そしてもう一人は僕の真ん前に立っていた。僕と同じように天秤棒を構えている。僕はティアみたいに槍使いじゃないが、全く経験がないわけじゃない。早くティアのところへ行かなくちゃ。


「んあああああ!」


突進してくる。


(だめだよ、そんな腰が引けているようじゃ)


だらりと垂れるように持っていた棒を軽く持ち上げ、跳躍する。頭上を飛び越えざまにそいつの脳天に棒を突き下ろした。骨こそ折らなかったものの、過たず中心を突かれた彼はどう、と前に倒れた。


「ザンサ!」


最後に残っただけに、なかなか手強いであろうその二人のうち一人は、あの刃物を出したやつだ。手首の骨折は治ったらしい。やはり彼が頭だったようだ。ナクト、とかよばれていたかな。ティアは火かき棒のような物を地面に水平に体の前で持っていた。まるで幼い子どもが手に持ったものを持て余しているかのように、そこに立っていた。


「おいゲンナー。お前は向こうだ」


ゲンナーと呼ばれた少年はまっすぐ僕の方へ歩いてくる。こいつは多少遣えるようだった。僕と同じように天秤棒を構えている。構え方も堂に行ったものだ。僕は一気に動いた。前に。おそらくゲンナーは天秤棒のぶん僕が後ろに間合いを取ると思っていたのだろう。彼は僕に追いつけない。その顎を短く持った棒でぶち上げながら軽く跳び、膝をみぞおちに入れる。武器に固執しない。実戦的な戦闘を教えるナダッサにおいて叩き込まれたことの一つだ。


「終わったよ」

「こいつは私がなんとかする。起きるやつがいないか見ておいてくれ」

「分かった」


ティアに背を向け、あたりを見回すと


「見捨てられたんじゃねえか?」


彼女を嘲る少年の声が聞こえた。虚勢にしか聞こえない。


「見捨てたんだったら、お前は背後から襲われる心配をしなくていいってことだよ」


まるで言い聞かせるかのような穏やかな声。少年が気配でわかるほど怯えた。


「僕はそんな事しないよ。そいつはザンサ一人で十分だろう」


図らずも挑発するような物言いになった。足音がして、


「ガノシュ!」

「死ねぇぇぇぇぇ!」


背を向けたままの僕にまっすぐ突っ込んでくる。振り返らずに脇に力を込めた。振り返ってから構えるのは遅すぎる。膝をためると、


「や!」


直前に身を翻しながら右肩を蹴り抜く。


挿絵(By みてみん)


わずかに、ほんのわずかに蹴りが強すぎた。ほんのわずかに蹴る位置が外側に外れた。


(しまった!)


ほぞをかんだがもう遅い。蹴りの衝撃で彼の体が外側に回転し、衝撃が逃げたのを感じた。倒せなかった。そう思った時。


「トピ!」


動揺したティアの声がする。


(まさか)


体勢を崩して倒れた少年。


(嘘だ)


その手に握られた刃が


(いやだ!)


彼の首から飛び出る所を


(僕がやった)


見てしまった。



「僕が、殺した」

「…トピ」

「僕が殺したんだ」


呻き声が絶えまなく聞こえる。この少年だけは、もう二度と声をあげない。


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