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狼の仔  作者: 加密列
第八章 血に染まる
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宣戦布告   ~トピ~

「ところでさ、どの木戸だと思う?」


この街にいくつの木戸があるのかは知らないが、一つではない事は確かだ。


「どこでもいいんじゃないか」


その言葉に思わず振り返る。


「おそらく見張られている。私達が向かった所に先回りすればいいじゃないか」


言った内容はなかなかにすさまじいものだが、その笑顔は美しく、無邪気と言ってもいいほどだった。ため息がもれる。と、


「お嬢ちゃん」


声がかかった。


「預かっているんだよ。ほっぺたに傷がある綺麗なお嬢ちゃんに渡してくれってね」


歯のない口でにかっと笑ったその老婆は種を売っているようだった。ティアが眉をひそめる。


「人違いじゃないですか?」


いや、違うと思うぞ。


「いや、確かにあんただよ」


文を受け取り、礼を言ってその場を離れる前に、ティアが老婆を振り返った。


「ちなみに、どんな身なりでしたか?」

「そうさな、十八くらいにみえたよ。たしか・・・ここいらの酒場の小僧たちのほとんどを従えているらしいね」


思ったより大ごとなようだ。文を読んだティアが口を押える。


「なんだ、どうした?」


慌てて訊くと、


「っはははははは!」いきなり爆笑しはじめた。


「おい、なんなんだよ、ティア!」

「見てみろよ、これ」


そう言って手渡される。相変わらずの汚い字。まあ、字が書けるだけいい方なのかもしれないが。


「ひと、りでこ、い。ん?一人で来い?」


急いで口を押えたがもう遅い。道行く人が振り返るほどの笑い声が漏れた。


「なんだこれ?」

「噴飯ものだろう?十八にもなってこんな娘を一人でこさせる?笑止しょうし!」


ティアの目は新しい玩具を見つけた子どものように輝いていた。


(危ないな)


だが、僕は止めるすべを持たない。


「ちょっとばかりお灸を据えてやろうか」


つけられているのは分かっている。そのまま曲がりくねった路地に飛び込み、僕は酒樽の後ろに身をひそめると、気脈の中に気配を沈めた。ティアはそのまま路地を進む。程なくして、周りを見回しながら小柄な少年が路地に入ってきた。


(尾行開始っと)


後をつける。無論気配を消してはいるが、全く気付く様子がない。後ろを振り向きさえしない。ここまで素人だと、こっちが馬鹿馬鹿しくなってくる。と、いきなり横の細道からティアが少年の行く道をふさぐように出てきた。


「私に、なにか用か」


少年の背中が間違いようのないほど狼狽する。やましいことがあると言っているようなものだ。くるりと振り向いて逃げようとするが、


「それとも、僕に用があるのかな?」


悪いがおとなしくつかまってくれ。こっちも暇じゃないんだ。


「頼まれたんだな?私たちを尾けるように」

「お、俺はしらない」


この期におよんでとぼけるのか。少し揺さぶってやろうか。


「知っていることを吐いちまわねえと」


懐から一瞬短剣を見せる。


「こいつを使わねえとも限らねえぜ」


いつもは使わない伝法な口調で脅す。予想通り相手は簡単に落ちた。


「ナ、ナクトさんに頼まれた。お、お前たちは悪いから、しばかないといけないって」


ティアがため息をつく。


「これをナクトとやらに渡してくれるな?」


懐から出したのは文。隠れているあいだに書いたのだろう。無理やりその手に押し付けると


「ガノシュ、行こう」


そいつをおいて路地を出る。



「おっかないな、綺麗なお嬢ちゃんは」

「ほっぺたに傷のある綺麗なお嬢ちゃんでよく分かったな、あの婆さんは」

「どうしてだ?この上ない特徴だと思うぞ」

「ほっぺたに傷ならともかく、どうしてそいつが綺麗だと思う顔が分かったんだ?」


ここまで自分の容姿に自覚がないのか。まあ、鏡も高級品だ。当然と言えば当然だが、それにしても水に映したりはするものじゃないだろうか。


「ティアの顔は誰が見ても綺麗だ」


なぜ事実を言うのがこんなに恥ずかしいんだろう。


「私が?お前も変わった趣味だな」


確かに、無造作に束ねられた髪に色気のようなものはまるでないし、化粧はおろか装飾品すらまったくつけていないが、青みがかった黒の瞳と整った顔、丸みはないがすんなりと柔軟な体は誰が見ても綺麗だと思う。

密かにため息をついた僕は、すたすたと先をいくティアに早足で追いついた。陽は西に傾き始めていた。

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