表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼の仔  作者: 加密列
第八章 血に染まる
91/451

宣戦布告   ~ティア~

前から少年が人混みの中を駆けてくるのが見えた。


(今ここで、急に店に入ったりしたら)


彼はどんな反応をするだろうか。ふとそんな意地の悪い想像をしたが、おそらく宣戦布告をしてくるであろう奴らから逃げるわけにもいかない。奴らは那幾の家を知っている。彼に迷惑がかかるのはなんとしても避けなければならない。


どん、と正面からぶつかった少年はそのまま謝りもせず手に何かを握らせていった。無理やりこじあけた感じだ。


(下手くそ)


お前、掏摸になるには十年早いよ。そのまま歩き続ける。宣戦布告である事はまず間違いなかった。一本路地に入り、懐を探る。丸まった紙に字が書かれていた。


「なんだこれ?」


トピが呟く。いつかのトピの字とは比べ物にならないほど汚い字だった。


「こ・・・んや、まち、の、・・・なんだこれ。ああ、木戸か。まちの木戸をでたところで、たつ?待つ、だろう。しっかりしてくれよ」


こんな短い文面をこんなに難しくするなんて才能じゃないだろうか。


「なんだ。要するに今夜街の木戸を出たところで待っていると?」

「そういう事みたいだね」


真面目な顔で応じると、一瞬ののちトピが耐え切れないというような様子で笑い始めた。


「なんだ?いきなり」


そう訊くと


「お前は本当に!あいつの懐にこっそり文をいれてついでに財布掏っただろう!」


笑い続ける。


「…ばれていたか」


ばれていたとは思っていなかった。まぁ、トピなら見えてもおかしくないが。しっているしな。


「いや、あいつ全く気付いていなかったよ。おかしいのなんのって」


ようやく笑いをおさめたトピが目元をぬぐう。笑いすぎて泣いていたらしい。


「ところで、お前森から出たことなんてなかっただろう?掏摸なんてどこで覚えたんだ」

「初めての街で財布を掏っている男がいたんだ。それを真似した」


トピはなんとも言えない表情になった。


「・・・お前がそういうやつだって忘れていたよ」


どういう意味だ?それは。ものすごく含みが感じられるんだが。


「変な遊び覚えるなよ。責任もって拐かしたのに、ご両親に申し訳がたたない」


言ってからすぐトピがしまったという顔をする。逆に私は自分でも驚くくらい冷静だった。


「わかった。慎みます」


おどけていうとトピは笑った。どこか安心したというように。


「それなりに入っていた」


財布を懐から出す。ほんのお遊びだ。今晩には返す。もっとも、中身に全く手を付けないという保証はないが。


「ところで、なんて書いたんだ、ティア。まさか、お慕い申し上げていますなんて書いたわけじゃないだろう?」笑いすぎだろう。口が軽い。


「年下の娘に喧嘩を売るなんて恥を知れと書いておいた」

「なるほど、的確な助言だね。奴らが活かせるとはおもえないが」


皮肉に関しては私より数枚上手なトピが真顔で言った。


「ところでトピ、お前はどうする?知らん顔していても問題ないが」

「僕?ティアの助太刀をするに決まっているだろう。ティア一人に負かされたんじゃ彼らがあんまり可哀そうじゃないか」


喧嘩を、するというのか。


「分かった。お前が傷つかないように最善を尽くす」

「それはこっちの台詞だよ」


右手を掲げる。私の方に向いた甲には十字の傷が走っていた。己の左手の傷をそれに重ねる。言葉など、必要なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ