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狼の仔  作者: 加密列
第七章 那幾
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進む道 〜トピ〜 挿絵有り

暑い。そう思って目を覚ますと、ティアはすでに目覚めて朝食を作っていた。今日はこの後那幾のところに行くんだったな。彼女はいつも起きるのが早い。僕もそうだが、眠りにはすぐついて起きるのはあっという間だ。特に彼女は日の出前に目を覚ますことが多い。そして二人ともこの逃避行中に気配だけで目が覚めるようになった。何故かティアの気配では目が覚めないが。


ティアは気配を消すのが上手いからな。僕を起こさないように特に気をつけているのだろう。そう言う優しさを持つ人だ。



「食べてから出るとなると昼過ぎにはつけるかな」


街までは五里(約20km)ほどだ。さして遠くはないが、近くもない。山道でもないから歩きやすくはあるだろうが。


「その事なんだが」


ティアが顔を上げた。すでに椀は空になっている。


「お前体力に自信は?」

「そりゃある程度はある」


いきなりなにを言い出したのだろうか。


「普通の人で半日だろう?わたしたちが走ればそれより短く済むんじゃないか、と思ってね」

「ちょっとまて、五里も走る?正気か?」

「だって早くつけたほうがいいじゃないか。体力はつけておいた方がいい。鍛錬になるだろう」


淡々というが目の中に面白がるような色と闘志に似たようなものが光る。僕もだんだんとやる気になってきた。…ティアに毒されたんだろう。困ったものだ。



簡単な朝食を食べ終え、ティアはいつもの巾着、僕は金を懐に入れ、森の中を駆け抜ける。すぐに流れをつかんだ。このままどこまでも走っていけそうで、隣を見やる。そして絶句した。ティアの顔には歓喜のような表情が浮かんでいる。一瞬その姿に、獲物を追う気高い、黒狼の影がかぶって、ティアがこのまま森の奥深くに駆け込んで行ってしまうのではないかと、狼となってしまうのではないかと、そんな恐怖に駆られた。冷水を浴びせられたようにぞっとする。彼女が森に、融けていってしまう!


「ティア!」


とっさにその手を取る。


「トピ?」


夢から覚めたような顔をしたティアが足を止めた。無邪気で、無防備な表情。


「ティアが、森に呼ばれてしまうんじゃないかと思ったんだ。それが、すごく怖かった」


そう、本当に怖かった。全身に鳥肌が立ち、今更のように冷や汗が噴き出す。どんなに抱きしめても体の震えが止まらなかった。


「お前を人に繫ぎ止めると、約束した」


お願いだ。どこにもいかないで。置いていかないでくれ!


「正直言って、自分がどう走ったのか記憶にない。たしかに、森に呼ばれていたのかもしれない」


ティアの手が、強く握ってくる。青みがかった黒の、その瞳がまっすぐに見つめてくる。


「私のこの手を、離さないでくれ」


その手を、しっかりと握り返す。


「離すわけないじゃないか」


挿絵(By みてみん)


しっかりと手を握り、僕たちは森の中を再び駆け出した。


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