お人好し 〜トピ〜
「どいたどいた!」
がらがらと頭上を荷車が通っていく。早朝の橋は店をだす者たちが行き交い、賑わいがあった。壁際に背を預け、棒をついて座ったまま寝ているティアは疲れきっているように見えた。
(当たり前だ)
自分より大きな少年達と立ち回りを演じた挙句に怪我をした少年を担いで走り、さらには傷を縫うことまでしたのだから。
(全くもう少し体を大事にしたらどうかね)
いみじくも花咲く年頃の少女なのだから、もう少し体をいたわってもばちは当たらないと思う。もっとも、彼女はそんなことを望んでいないのだろうが。と、
「寝過ごしてしまったか?」
寝起きとは思えないほどはきはきとした声だ。
「いや、もう少し寝てもいいくらいだ」
鼻で笑ったティアは
「こいつは?」
少年の方へあごをしゃくった。
「起きてない。ずっと眠り続けている」
「そうか」
再び荷馬車が走りすぎていく。少年がかすかに身じろぎした。
「薬を飲ませるかな」
そう言って薬草を煎じ始める。
「不味さで目が覚めるかもな」
「馬鹿言え。仮にもこれで命が救われ…あっ!」
慌てた様子で口を押さえる。そこまで言われては聞き逃すわけにもいかない。
「ティア?」
声をかけると
「なんだ」
不承不承という様子を隠そうともしない。
「僕は本当に命が危なかったんだね?」
これは質問じゃない。確認だ。
「命が危なかったかはわからない。ただ、危ないくらいの高熱があった事は確かだ。お前に死なれちゃ困るからな、絶対に治ってもらわないとならなかったんだ。だから嘘をついた。…許せ」
いつも以上にぶっきらぼうで、目を合わせないのは困っているのだろう。
(へえ)
こんな女にも可愛いところがあるんだな。こんな女?僕にとっては最高の片割れだけどな。
「第一男が高熱ほっといたら子が成せなくなるんだよ。もっと体を大事にしろ」
とってつけたように憎まれ口をたたくのは照れ隠しだろう。
(体を大事にしてほしいのはそっちだよ)
と言うか、
「子が成せなくなる?」
聞き返すと、
「知らないのか?」
抑揚のない口調だが、顔がかすかに赤い。しまったと思っているのが丸わかりだ。
(どうした?)
そう思ったのは口を滑らせてばかりいるティアに対してか、それとも、可愛らしいなどと考えてしまう自分にか。
「もっと別な忠告がなかったのか?」
なぜかこの少女をもっと困らせたい衝動に駆られて、少々意地の悪い口調で言う。
「お前暇なのか?」
本気で怒らせてしまったようだ。
「すまんすまん」
ティアが薬を少年に飲ませる。こくりと喉が動いて、彼が薬を飲み干したと分かった。
「ところで…」
ティアがなにを訊きたいのかは分かっている。帰ったら説明すると言っておきながら結局家に帰らなかったのだから。
「分かっている。ここじゃ人の耳があるから書いておいた」
紙を手渡す。隣の人とは布やガラクタで仕切られているだけだ。
「お前いつのまにこんなもの書いていたんだ?」
「ひどく暇、だったものでね」
暇、のところを強調して言う。苦笑したティアが紙を開いた。読み進めていくその目が次第に真剣みを帯びていく。
「お前」
顔を上げたティアは呆れたような顔をしていた。
「本当に悪いやつだな」
「お褒めにあずかり光栄だよ」
二人の笑いが消えぬうちに、少年が目を覚ました。




