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狼の仔  作者: 加密列
第七章 那幾
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いじめられっ子 〜ティア〜

馬を返して、口入屋に向かった。いきなり料亭にいくのはトピの事を考えると早計にすぎる。


「仕事の口を探しているのですが」


アトマイアなら十四は立派に一人前とみなされるだろう。


「名前は」

「ザンサ」

「ガノシュです」


本名を使うのがまずい訳ではないのだが、なんとなく偽名を使い続けている。真名は自分たちだけのもの。それがいつまで続くかは、まだ分からない。


「何か得意なことは」


紙に書き込まれていく。


「狩の腕には自信があります。それから、手先は器用な方です」


武術については黙っている事にした。足がつくかもしれないからだ。


「僕たち、旅の途中なんです」


突然トピが言った。


「それはまたどうして」


店主が上目づかいに訊いてくる。まさか、じつは追われていますなんて言えるはずもない。気が気じゃなかったが、


「あまり訊かないで下さい」


トピが懐から一瞬見せたのは


「!」


店主が一瞬目を見開く。


「これはこれは失礼いたしました。さっそく手配させていただきます」


揉み手でもしそうな勢いだった。


「住処は明かせない。二日後に来るよ。それから万が一僕たちの事を訊かれても明かさないでくれるな?」


心なしか言葉使いが横柄だ。胸を張って尊大な様子を醸し出している。


「へえ!もちろんでございます」


何故態度がこうもかわるんだ?内心首を傾げながら顔だけはトピに合わせ、横柄に取り繕う。そのまま金を払って表に出た。どういうことなのか尋ねようと口を開きかけた時、


「今は訊くなよ。あとで説明はするから」


トピが口を開いた。


「何故」

「口入屋の態度は大げさだった。おそらくいぶかしむ奴がいるだろう。見張られているとまでは言わないが、心配事は少ないに越したことはない」

「わかった」


このまま何事もなく街を出られると思っていた。と、


「喧嘩か?」


何やら向こうの方が騒がしい。


「避けるとものすごく遠回りだと思う」


トピが嫌そうに言った。やはり争い事は苦手なようだ。思い出してしまうからだろうか。それとも性分か?角を曲がると、


「やれ!」

「やっちまえ!」


喧嘩、ではなかった。ひとりの少年を五人の大きな少年が囲んで蹴り飛ばしている。一方的にいじめているようだ。道はふさがって、通ることはできなそうだった。関わる気はなかった。面倒ごとに巻き込まれたくない。目立ちたくもない。なんとかここを抜けようと試みる。いじめなんてそんなに珍しいことじゃない。素通りしよう。だが、…一人の一際大きな少年が刃物を持ち出し、考えが変わった。


それは大きくはなかったが、それでも素人が人を害するに十分な大きさは持ち合わせていた。野次馬が一気に冷め、番所にかけていくものもいた。変わり身の早い。さっきまで散々囃し立てていたくせに。


「間に合わない」


低く呟く。もう腹は決まっていた。


「今から番所に行ったんじゃ間に合わないよ」

「ティア?」


まさかといった、それでいてどこかわかっていたような声。トピには、もう分かっている。これから私が何をしようとしているか。伊達に半年一緒に暮らしてきたわけじゃない。トピ、こんな片割れでごめん。


「すまない」


そういうと私は人ごみを一瞬で駆け抜け、中心に躍り出た。


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