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狼の仔  作者: 加密列
第六章 結ぶ手
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怒りと想い 〜ティア〜 挿絵有り

「森に入れないか」


食事をとりながらトピにたずねると


「できるものならとっくにそうしているさ」

「…たしかに」


延々と続く田舎道。どこまでいっても変わらぬ風景に私もトピも辟易していた。今日手綱を操るのはトピ。後ろに座っていると自分が進んでいるのかさえわからない。


見えるのはどこまでも続く畑と鳥、農作業をする人が一日に五人ほどと鴉の止まり木以外の役目を果たさなくなった案山子ばかりだ。こうして座っていても動くものは空の雲だけ。川が近く食べ物には困らないが、毎日魚と干し飯というのもどうかと思う。


「このまんまじゃきっとひれが生えてくるよ、僕たち」


真面目な顔でトピが言った。


「冗談だと割り切れないところがあるな」


真面目な顔で返すと、彼は力なく笑った。


「もう少し行けば、森に出るはずなんだ」


頭の中で地図を描きながら言う。


「そうかい、じゃあひれが生えないうちに行こう」


トピが言って馬にまたがった。その後ろに飛び乗る。馬は不満をあらわにして鼻息も荒く足を踏み鳴らした。トピが首を掻いてやると渋々といった態で歩き始める。


「そろそろだ」


そう呟いた時、


(殺気?)


いや、そうじゃない。これは…獲物を喰おうとする気配。はっと目を転じると、道端から野良犬が飛び出してきた。歯をむいてうなる様からは敵意以外の何物も感じられない。


「茂みの向こう、まだいる」


トピが鋭く言った。


「とても喜ばしい情報をどうもありがとう」


背負っていた棒を外しながら言うと


「棒読みだ」


鼻で笑われた。と、馬が突然走り出す。恐怖に耐えかねたのだろう。


「なっ!」


とっさにトピの肩を掴み、体勢を整えた。逃げられてしまうとさとった数匹の犬が追いすがってくる。トピが必死に手綱を操っていた。闘えるのは私だ。


「トピ、手綱を離すな!」


かすかに頷いた気配を感じ、そのままあいている左手だけで棒をあやつり、犬を払った。左右に別れた犬を馬上から払うのは大変だ。トピと馬には当てられないから動きも制限される。こんな時は棒の短さがつくづく惜しまれた。犬が隣に並び、かすかに開いた口から牙が見える。ますます怯えた馬の口から泡があふれた。


挿絵(By みてみん)



どれほど走っただろうか、実際にはさしたる距離でもなかったのかもしれない。追ってくるのは一際体格のいい犬一匹のみだった。こやつが頭なのだろう。こいつは飢えている。その目を見てそう悟った。どこまでも追ってくるだろう。思い切って左手をトピの肩から外す。両足で馬の胴を締め、体勢を保った。でも、いつまで続けられるか怪しいな。


「ティア⁉︎」

「走り続けろ!」


叫ぶとともに全体重を棒にかけた。切っ先は狙い過たず肩の骨を打ち砕く。犬がもんどりうって悲鳴をあげ、私はそのまま落馬しそうになり、宙をかいた手が


「馬鹿かお前は!」


すんでのところでトピに捕まえられた。犬はもう追って来ない。馬が次第に速度を緩める。馬から噴き出す汗に混じって自分の汗も地に滴った。


「この考えなし!落ちたらどうする気だったんだ」

「落ちなかっただろう」


盛大なため息をつかれる。すっかり呆れられたようだ。


「本当にお前は考えなしというか、感情で行動するというか、妙に悪運が強いというか…」


悪運が強い?ご挨拶だな。


「お前だって人のこと言えないだろう。処刑場に単身乱入して罪人かどわかしたくせに、今でも生きているじゃないか」


トピが苦虫を噛んだような顔をする。何故だか笑いがこみ上げて、私は顔を伏せ、肩を震わせて笑い続けた。彼と共に生きている。それがたまらなく嬉しかった。

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