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狼の仔  作者: 加密列
第五章 蒼穹の鷹、地の狼
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空いた時間の使い方 〜トピ〜

前回と同じように路地に横たわり、喧嘩の音をぼんやりと聞く。頰にあたる地面は昼間の暖かさをほのかに残していた。


(劣勢だな)


そう思う。棍棒ならまだしも刃物や天秤棒まで持ち出してくるとは思っていなかった。「猫足」の少年達が一人、二人と倒されていく。ついにマクレルまでが崩れ落ちる。


(終わった…)


密かに安堵した。我ながら早すぎたと思う。油断していた。


「ったく、手こずらせやがって」


頭らしき少年、いや、少年と言うには大きすぎる。彼が一人ごちた。


「『海風』のやつらが世話になったそうじゃないか。あ?」


手下らしき少年がマクレルの髪をわしづかみにし、地面に叩きつけた。口が切れたのだろう。マクレルの口の端から血がたれる。


「きっちり落とし前つけなきゃ気がすまねえ」


短刀がかすかに光る。ぐるりと見回した彼と…目があった。


「お前にしよう」


凶暴な笑みが浮かぶ。彼が目をつけたのは、僕だった。生贄に選ばれたのは、僕だった。無理矢理立たされ、頭の前に引き立てられる。


「殺しはしない。ちょっと遊ぶだけさ。な?」


自分に酔った目。吐き気がした。


「なかなかいい顔してるじゃないか。傷がつけば箔も付くってもんだぜ」


こいつは馬鹿なのだろうか。そんなことを思った。傷つけられると分かった以上僕が抵抗しないわけにはいかない。軽く殺気を放つ。ティアならこの路地にいなくても間違いなく反応しただろうに、目の前のこいつは全く気づかない。狩られるのは自分だと、まだ理解しない。


「哀れな」


唐突に言葉が漏れた。


「あ?」


己の口から嗤いごえがもれる。


「可哀想に」


憐れみしか感じないからと言って許せるわけではない。


「なんだと?」


二の句は継がせない。短刀を弾き飛ばすと何もできないでいる彼に掴みかかり、受け身をとれぬよう短く投げる。鈍い音がして、一瞬奴らが動きを止めた。


「次は誰だ?」


短く、あざけるように誰何すると、一人目が突っ込んできた。体を開くとその手首に手刀を叩き込む。骨が折れる感触が伝わってきた。次に襲いかかってきたのは二人だった。


(掛け声が裏返ってるよ…)


片方を投げざまにもう一人へ叩きつける。と、一人目がよろよろと立ち上がった。顎を蹴り上げる。何も感じなかった。誰かが叫ぶ。相手の目は恐怖の色に染まっていた。


「復讐鬼!」


誰かが叫ぶ。仲間の復讐?笑わせるな。はなから仲間などと思っちゃいない。僕の仲間はただ一人、ティアだけだ。自分を殺しにきたやつが目の前で死んでいく、それをあんた達は知っているのか?本気で死ぬかもしれないと、思ったことがあるのか?こんな路地裏で目の前の相手を傷つけて喜ぶような奴らが僕にかなうとでも?笑止!


興奮が全身を包む。僕は強い。もう容赦はしない。僕は退屈だった。機嫌が悪い。どうしてくれるんだ。僕の時間を奪いやがって。逃げていくのを追いかけ、背中に蹴りを放った。


「うっ」


膝から崩れ落ちるそいつの首に容赦なく手刀を叩き込む。最後の一人のみぞおちを指一本で突く。


(終わった)


そいつが地面に崩れる音がした。喘ぐように息をすると、体の熱が冷えて次第に自分の周りが見えてきた。うめき、悶える「金梅草」の少年達。僕が、これを、やったのか。体が震えて止まらない。


(人殺しはティアにやらせておいて、何を偉そうな)


そんな声が聞こえた。明日には「猫足」の獣の話が街中に広まるだろう。もうこの街にはいられない。


(ごめん、ティア)


明日の朝早く、一人でこの街を発とう。

うめき声の響く路地で、僕は一人、枯れ木のように立っていた。


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