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狼の仔  作者: 加密列
第五章 蒼穹の鷹、地の狼
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人との交流 〜トピ〜

「今夜だ」


マクレルが短く言った。思っていたよりも決行が遅い。ティアはもう忘れてしまっているのではないだろうか。今日中にもう一度連絡をとろう。


「おい、ガノシュ」

「何ですか」

「お前、喧嘩強いだろう」


は?


「冗談はよしてくださいよ」

「この前の喧嘩の後、おまえが一番しっかり歩いていた」


まさかそんなところを見られてるとは思っていなかった。油断大敵。


「買いぶりすぎです。僕は弱すぎてぶちのめす価値もないと思われたんでしょう」

「…そうか」


あまり信用はされなかったようだがなんとかごまかせた。嘘ではない。弱すぎると思い込んだのは向こうで、僕が実際にどうなのかは一言も言っていないのだから。酒場の少年達は皆どことなく落ち着きがなく、料理人の拳固があちこちで落ちる。落ち着いている僕はかえって異質だ。もう少しあたふたした方がいいのかな?真面目に考え込んでいると、


「ガノシュ」

「はい」

「油を買って来い。急げ!」

「はい!」


ちょうどいい。

「金梅草」の前を通ろう。そう思って走り出すと不意に呼び止められた。


「はい」


振り向くと、


「ティ…」


かすかに首を振っていた。何もいうな、そういう事だろう。


「落ちましたよ」


そう言って渡された巾着はたしかにたった今まで自分が持っていたものだ。


「なっ!」


驚いて腰を探ると確かに巾着がなくなっている。


「ありがとう」


ティアの顔を見やると一瞬片目を瞑った。


(まさか)


僕の腰から掏ったのか。信じられない。


「あの、何か?」


目が笑っている。ちくしょう、覚えてろよ。睨みつけながらも演技を続ける。


「すみません。失礼します!」


油を買わないと。再び駆け出し、店に着く。勘定を払おうとして…


「あっ」

「どうしたね、坊や」

「い、いえ、なんでもありません」


急いで店を出る。そのまま「猫足」に駆け戻り、厠に駆け込んだ。巾着を探る。小さくたたまれた紙切れが入っていた。


「今日が決行らしいな。怪我をさせるな。明日は給料日なんだがどうする?」


それだけ。今日が喧嘩の日だと言う情報はもう持っていたようだ。しかし…


(あいつ、巾着掏ってから返すまでの間にこんなもの入れてたのか)


信じられない。立派に掏摸で食っていける手先の器用さだ。僕でさえ気づけなかったのだから。呆れてため息をついた。真面目に働いているのが馬鹿馬鹿しく思えてくるが、それでもこの仕事が嫌いじゃない自分に気づく。


友人を作った訳でもないが、陰口を叩かれる事もないし、このまま猫をかぶり続けられればむしろ村よりも居心地がいい。無論ティアと二人の時とはおよびもつかないが。


「ガノシュ!」


しまった。


「今行きます!」


手紙を懐にしまいこむと僕は再び厨房に駆け込んだ。


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