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狼の仔  作者: 加密列
第五章 蒼穹の鷹、地の狼
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仕事 〜トピ〜

僕の働く「猫足」はティアの働く料亭よりも規模が小さい。料理よりも酒を売りにしている店だ。どちらかといえば酒場に近い。


(こんな所で何しているんだろう、僕は)


料亭、酒場の少年達は夜になると喧嘩を始める。毎晩というわけではないから知らなかった。…今夜まで。


(冗談きついよ…)


せっかく眠っていたのを問答無用で叩き起こされ、訳も分からぬままいきなり拳の降る路地に連れ込まれたのだ。寝起きでやや不機嫌だから、暴れても誰にも文句は言われないと思う。この場にいる誰よりも自分が強いのは確実だった。が…


(早く終わらないかね)


腕のたつ新入りの小僧がいるなんて知られるわけにはいかない。追っ手に見つけてくれと言っているようなものじゃないか。せっかくティアも僕も仕事に慣れ始めた時だというのにそんなもったいない事は出来ない。せっかく給料ももらえるというのに。


相手が殴りかかってくる。


(力が届いていないよ)


まともに受け止めても受け切れるような軽い攻撃だったが、受けてしまうと相手が倒れてしまうだろう。徹底的に目立たぬように。怪我をしないように衝撃を受け流すとそのまま地面に倒れこむ。じっとしていれば動けないように見えるはずだ。頰に地面が冷たい。


(こんな事して何が楽しいのかね)


所詮は真似事。子どもの遊びに過ぎない。それを大真面目にやっているのだから、僕に言わせれば噴飯ものだ。お笑いぐさと言うほかない。


こいつらは暗殺者になるために英才教育を受けるものがいる事など全く知らない。おめでたいな。だけどそのおめでたさがどこか羨ましいのも事実。付け焼き刃の喧嘩術は何より動きが汚い。無駄が多すぎる。ティアの動きをいつも見ている僕には目の毒だ。


目をじっと閉じて待つことどれくらいだっただろうか。やがて喧嘩は終わり、「猫足」の頭、マクレルが勝利の雄叫びを上げた。と、相手が逃げざまに言った。


「くそったれ。俺らには『金梅花(きんばいか)』の兄貴たちが付いているんだからな」


マクレルが青ざめる。「金梅花」?確かティアの料亭がそんな名前だ。まさか女を担ぎ出しては来ないと思うが…。


(ティアが出てきたら災難だな)


二人して地面に寝っ転がっているかもしれない。想像して、暗いのをいいことに苦笑した。…笑うしかないだろう。その場で明らかに強い二人が倒れている図と言うのは。


「動ける奴は動けない奴を担いで帰れ!撤収だ」


すぐに虚勢としれる声が路地に響く。月のないよるだった。


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