現実主義 〜トピ〜
アトマイアに入ると空気が一気に猥雑になった。ティアは大丈夫かと心配したが、思ったより平気なようだ。いくつか街をまわってある程度慣れたのだろう。もちろん森のような元気はなく、人混みが苦手なのは相変わらずのようだが。それでもやはり慣れないより慣れた方がいい。今後街に全く頼らずに生きていくことはまず無理だ。
無論山にこもるのも無理ではないだろうが、やはり金はあった方がいいし、街で情報を集めたりするのも大切だろう。人である以上は。もはや皇帝に縛られる事はない。僕たちは、自分達が生き残るためにこの能力を使える。それってすごく強いんじゃないかな。いや、強くなれるんじゃないかな。
街で毛皮を売るのはティアに任せる事にした。彼女なら間違いなく自分より上手く取引ができる事は実証済みだ。僕は必要な物を物色していればいい。と言ってもあまりないのだが。あらかた必要なものはあるし、正直いうと彼女さえいれば裸で放り出されたとしても生きていける気がする。
(ティアと裸ではまずいか)
彼女は全く気にしないような気もするが。
(ティアの裸?想像もつかないや)
そんなくだらない事を考えながら気楽に待っていたのだが、戻ってきたティアは少ししぶい顔をしていた。珍しく交渉に失敗したのだろうか。そう思ったが、少し違ったようだ。
「ここじゃ毛皮があまり高くない。どんなにねばっても六十ガッサルにしかならない」
それはきついな。冗談ではなく飢えてしまう。毛皮だけが収入源なのだ。
「どうして?」
「この街は交易が盛んなんだ。ほら、港があるだろう?他の大陸や島国から安くて珍しい毛皮が手に入る」
そうなのか。それでは確かに僕達が獲った毛皮は売れないだろう。いかに物が良くとも所詮はこの国で獲れる物だ。一人で頷いているとティアはますます顔をしかめた。
「追っ手にも街の中なら見つかりにくい。そして私達は金が欲しい」
何かを決めた表情。一体どうしたのかな。
「だから、働いた方がいいと思うんだ」
「へえ」
ん?
「働く?」
ハタラク。じわじわとティアの言葉が頭にしみ込んでくる。それと同時に自体の深刻さも身に染みてくる。働く。理解に時間をかけている僕をティアは諦めたような無表情で見つめていた。確かに金儲けの手段は持っておいた方がいいと思っていたが、いや、理屈では分かるのだが…。
「状況を整理しようか?」
ティアが言う。
「それ、僕の台詞だよ」
冗談でごまかせる話じゃない。現実的な物事は時にかなり暴力的な力を秘める。彼女のはまさにそれだった。ティアが現実主義なのは知っているが。それにしても今度のは度が過ぎる。いや、誰も金を都合してくれない以上当然の事なのだ。だが、それでも、それでもだ!
「冗談だろう!」
頼むから冗談だと言ってくれ。
「残念ながら」
ため息をついた彼女が鬼に見えた。




