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狼の仔  作者: 加密列
第五章 蒼穹の鷹、地の狼
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強くある事 〜トピ〜

日が暮れぬうちに街に入れてよかった。再び男装にもどしたティアを見ながら思う。幅の広い布で頭を包んで長髪を隠していた。あえて目立つところに刀を差し、そこに目が行くように装っている。


日が暮れた街で寝床を探すのは大変だし、まだ若い僕たちは木戸をくぐる時に目立つ。ただでさえ異国の者だと分かるような容姿だし、旅装だ。親も連れていないとなると呼び止められても文句は言えない。


「ほら、何を考えこんでいるんだ。急がないと馬借屋が閉まるだろう」


ティアが急かしてくる。その目が光を反射して一瞬光った。大股でずんずん歩き、女っぽさはかけらもないが、もともと中性的な顔の彼女は男装しても人目を惹く。時々振り返る女がいる事に自分ではまったく気づいていないようだが。


(この木石が)


殺気には敏感なくせにこんなところは鈍すぎるほど鈍い。何より印象的なのは、たぶんその目なんだろう。何か必要なものはないかとあたりを見回すティアの顔を盗み見ながら思った。


勝ち気そうなそれは相変わらずで、この逃避行中に、修羅場を己の腕で切り抜けてきたものが持つ油断のなさと、決して折れない強さが加わったようだ。腹に一物あるような者なら間違いなく彼女が容易に手玉にとって操れるような者ではないとわかるだろうし、腕に覚えのある者ならその強さがわかるだろう。


(僕が腹に一物あってしかも腕が立つみたいじゃないか)


腕はそこそこ立つだろうが、腹に一物というのはうなずけない。まだまだ幼い十四の少年なんだ。考えている途中で虚しくなってやめた。幼い?思ってもいないことを考えたものだ。幼いところからはとっくに卒業しているはずなのに。いや、卒業しなければならないと思っていた筈なのに。考えながら無意識にティアの顔を見つめていたようだ。


「私の顔に何か付いているか?」


怪訝そうな表情をされる。


「ああ。目と鼻と口、その他諸々が」


恥ずかしさを紛らわすために冗談で返した。だって気障な事を言える柄じゃないし、ティアなんてそんな事を聞いたら僕に襲いかかってきかねない。…冗談じゃないよ。


「私の顔なんてみても面白くないだろう。人並みに部品がくっついているんだから」


卑下している訳ではない。本当にそう思っているみたいだ。人並み?そう思ったが口にはしなかった。言ったところでティアが嬉しい顔をするとは思えないからだ。そもそも本気にするかさえあやしい。


(どうしてここまで自分の容姿に自覚がないんだろう)


確かに彼女が髪をくしけずったりする姿など想像もできないが。やれば綺麗なのにな。と、


「ここか?」


馬借屋に着く。ティックとダンミットを返さなければならない。この旅に欠かせなかった大切な相棒。だが、もう時間切れだ。大股で急いでいるように見えたティアだが、その目は寂しそうに陰っていた。


(相変わらず意地っ張りだ)


僕達は無言で顔を見合わせると、手綱を握り直して戸をくぐった。


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