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狼の仔  作者: 加密列
第五章 蒼穹の鷹、地の狼
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許しを乞う 〜トピ〜

戸が開いた。


(ティアか)


表に出て行った人影はよく知る彼女のものだった。が、


「おい」


ふらふらと頼りなげに歩く姿は正気とは思えなかった。ティアはいつも真っ直ぐ、大地を踏みしめて歩く。その彼女があんなにも隙だらけで歩くなどありえない。あれは本当にティアか?無意識に「仮面」を使ってしまう事もあるのだろうか。もしそうなら、名前を呼ばなきゃ。


「ティア!おい」


身を起こす。それでも彼女は止まらない。冷水を浴びせられたようでぞっとした。もし、無意識に仮面を使って、鍵を作らなかったとしたら?いつかの話みたいに一昼夜暗示をかけ続けないといけなかったら?僕にはできない。それでも、必死に追いかけた。


「どこ行くんだ。待てよ」


後を追い、転がるように外に出る。


「待てって」


その肩に手をかける。闘う時はあんなに大きく見えるティアの肩は年相応に小さかった。初めてではないのに、この感触はいつも慣れない。彼女が無理をしているのではないかと、自分が頼っていた者の思いがけない弱さが感じられて怖くなる。いつか潰れてしまうのではないかと、そんな風に思わせる。


(ティア)


まるで僕の手が岩となったかのようにティアが地面に崩れ落ちる。糸の切れた人形のようだ。彼女のそんな姿はぞっとする。


「ティア!」


とっさに抱き抱えた。


「ティア、帰ってこい!」

「…さい」

「え?」


つぶられた目。口だけがかすかに動いていた。


「ごめん、な、さい」


謝る以外のことを忘れてしまったかのように、許しを乞う。


「ティア」


両腕に力を込める。


(戻ってこい)


あらん限りの祈りを込めて。と、唐突に彼女が目を開けた。その焦点が自分に結ばれる。


「どうして、私はここにいるの?」

「何も、覚えていないのか」


疑うことを知らないようなその瞳が、信じられないというように見開かれる。頭を上げて干し草小屋を振り返った。


「まさか」


彼女を見られない。彼女に目を合わせられない。


「嘘だ!」


恐怖に目を見開いて。彼女は気づいてしまう。自分は、疑うことを知らないまま生きていく事は出来ないと。ティアの表情は逆光で分からなかった。



ちらりと彼女を見やる。屋根のあるところに居られる事などほとんどなく、もう少しここに居ても良かったのだが、二人ともなぜか急き立てられるように荷造りをしていた。彼女は、ほとんどしゃべらない。唇を噛み締め、一点を睨みつけて僕には頑なに目を向けなかった。


「行くぞ」


短く言う。いつも以上にぶっきらぼうで、僕は頷く事しか出来なかった。


(待って!)


どうしてそんなに寂しそうな背中をしているんだ。僕には、打ち明けられないのか?小屋からまろび出ると、眩しい日の光が目を刺した。ティックが、いなないた

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