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狼の仔  作者: 加密列
第五章 蒼穹の鷹、地の狼
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許しを乞う 〜ティア〜

光の入り込まない小屋。壁のわずかな隙間から入ってくる光は弱く、夜目が利く私でさえ目が慣れるのに時間がかかった。それとは対照に聴覚は鋭さを増し、鼠が駆け回る音が聞こえる。


(鼠って食べられるのだろうか)


そんな事を考えながら眠りについた。トピはまだ起きているようだった。



しゃん。鈴の音が聞こえる。しゃん。哀しい旋律に禍々しさを感じ、とっさに逃げ出そうとした。


(いやだ!)


足が動かない。しゃん。一層鈴の音が響く。少しずつ、近づいてくる。目の前に現れたそれは人…のように見えた。


(まさか…?)


百鬼夜行のように連なって歩いてくるそれのいくつかに、私は見覚えがあった。


(まさか)


しゃん。ふと現れたその影を見て、それは確信に変わった。


(父さん…)


私が殺した人達。恨み言を言うでもなく、ただ淡々と歩いていた。しゃん。


(多すぎる)


私はまだこんなに殺していない。目をこらすと、見えない。たしかに人の形をしていたものが、崩れる。


(ああ)


そうか。形の定かじゃないこのモノ達は、これから私が殺す人々だ。それがどんな形をとるのかはまだ分からない。しゃん。恐怖よりも哀しさを感じた。目をおおうことさえ許されない。私の業から、逃げられない。と、不意に何かに包まれるのを感じた。この世界で一つだけの生者の温もり。その頼りない温かさにしがみつく。



「…ア!」


離さないで。…しゃん!。耳元でひときわ大きく鈴の音が響き、私は悪夢から叩き出された。目を開ける。金茶の目が見下ろしてきて、


「ティア」


疲れた様子のトピがいた。


「どうして、私はここにいるの?」


日が差し込む空き地で、私はトピの腕に頭を抱えられている。


「何も、覚えていないのか」


はっと起き上がり振り返ると、干し草小屋がたしかに見えた。


「まさか」


トピが露骨に目をそらす。


「嘘だ!」


私は、眠りながらここまで歩いたのか。


(しゃん)


置いてきたはずの悪夢が、たしかに聴こえた。


(嫌だ!)


声にならない悲鳴をあげ、私は小屋に駆け戻った。


「ティア!ティアノン」


その叫びにも振り向けず、駆け込んだ小屋の壁に背を預け、ずるずると座り込んだ。顔を覆う。どうして。私はそこまで追い詰められていたの?そんなに弱かったのか?強く握りしめた手の平に爪が食い込み、血が出る。そんな事をしても、起こってしまったことはもう取り返しがつかないというのに。


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