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狼の仔  作者: 加密列
第五章 蒼穹の鷹、地の狼
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鷹と狼 〜ティア〜

すでに街ははるか彼方。飛ばしたわけではないが並足で休みなく駆け続けたため、かなりの距離をきたと思う。さすがに馬たちが消耗するので、今は歩きで田舎道を進む。人気はなく、見渡す限り田畑が続いていた。


傾いた案山子はもう何年も立っているのであろう代物だし、当然とっくに鴉は彼らを止まり木としかみなしていない。どことなく哀れをさそう光景だ。この道をどこまで進めば人がいるのだろう。前にも後ろにも人影は見えないし、トピが地面に耳をつけても音は聞こえなかったそうだ。それはそれで気楽でいいのだが。


しつこくたかってくる虫を追い払う馬の尾が左右に揺れる。


「あの目には、なにが映るのだろうね」


はるか上に円を描く鷹をみながらトピが言った。


「知っているか?鷹はすごく目がいいんだよ。あんなに上にいるのに、ねずみ一匹逃しやしない」


ダンミットが首をふる。鷹はさらに上へと登っていった。綺麗に円を描いて、上へ、上へ。はるかな蒼穹へと登っていく。そのまま溶けていってしまいそうだ。


「私達は、鼠みたいだな」


あんなに上からでは人も鼠もそう変わらないのかもしれない。ただ生きようと、それだけに懸命になる小さなもの。飛べない、地に足を踏みしめるしかないもの。


「そうかもしれない。ちっぽけで、鷹の爪の間を逃げまどう、二匹の鼠」


自分がどこにいるのかも、どこにいこうとしているのかも分からない哀れな生き物。


「そうだとしても、私達は一人じゃない」


それがどんなに心強くて、同時にどんなに危ういことか。


「だけど、鼠だって、鷹に牙を剥いてもいいだろう?」


トピが言った。


「ねずみだって、狼を抱いてもいい」


群れから見放されて、それでも生きようともがく狼。一匹ではぐれている獣。なんとか弱くて、なんと愚かで、なんと…健気な。

そう、


「私達は、牙を剥いたんだな」


自分達以外の全てに。それが痛いほど胸にしみた。生きるためには、闘うしかない。空に目を転じると、鷹はもう随分と小さくなっていた。雲ひとつない宙に模様のように浮かんでいる。


「でもトピ。私達はきっとあの鷹でもある」

「どういう事だ?」

「信じられないほど自由だけど、信じられないほど孤独だ」


あの空を上り詰め、この世界は我が物と声高に叫んでも、きっとそれを聞きとがめるほど近くに仲間はいない。一人だけの空だ。私達も自由だが、お互い以外に頼れる者はいない。


「そうだな。そうかもしれない」


鼠で、鷹で、狼。私はそれでも人で居られるだろうか。(トピがいるんだ。大丈夫)揃ってもう一度天を仰ぐと、鷹はもう何処かへ飛び去った後だった。虚しいほど、ただ青い空。視界が一瞬、滲んだ。


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