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狼の仔  作者: 加密列
第五章 蒼穹の鷹、地の狼
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刹那の夢 〜トピ〜

森は途切れてしまっているし、宿に泊まるわけにもいかない。結局小さな橋の下に一夜の寝床をこさえた。


同じく宿に泊まれないものや、元からここを住処にしているものもあり、そこはかなり狭かった。馬をとめる場所などとてもない。


街を出て馬預かり所に一晩預ける。ティアはこんな商売が成立するのかと訊いてきたが、これで結構儲かるらしい。ティアのわずかに見開いた目を思い出してこっそりと笑った。体を丸めて膝に頭を埋め、座るような姿勢で眠る。周りを見まわすと、自分達より年下のものはいないようだ。


(ティアが男装のままで正解だったな)


何か間違いがあると困る。幸い、しなやかではあるがあまり体型に丸みのないティアを女だと気づく者はいないようだった。言葉遣いから物腰まですっかり男の物だ。慣れているのだろう。もっともいつもと大して変わらないと言ってしまえばそれまでなのだが。


(それでも、僕が気にしておかないと)


彼女は僕の片割れで、彼女が傷つく事はしたくない。それに彼女が誰かを傷つけてしまうのもまずい。やるなら絶対徹底的にやるからな、彼女は。


「早く寝ろよ。明日がもたない」


ティア自身はまったく気にしていないようで、


(考えてもしょうがないか)


ティアの大胆さを見習った方がいいかもしれない。あまり緊張しすぎるのも却って危ないだろう。用心に右手首に短剣を縛り付けると、僕は目を閉じた。



たいして寝ていないように思う。なにかの拍子に目が覚めた。川面に映る月が明るい。眠る人々の顔が下から照らされる。そして、


(見つかった?)


跳ね起きる。ティアを起こすべきか寸の間迷った。一瞬誰かの視線を感じたように思ったのだ。短剣を抜き放つ。


(落ち着け、状況を整理しろ)


が、殺気はない。むしろ見守るような暖かい視線だった。しかし、僕が頭をあげるとその気配は一瞬で消えた。


(大丈夫だ)



ティアが何かをつぶやき、僕は再び眠りに滑り込んでいった。

馬を受け取りに向かいながらぼんやりと周りを見回した。昨日の事は夢だったのか否か。今思うと夢だったのではないかとも思う。だって、僕達にあんな視線を向ける者なんているわけないのだ。刺客なら間違いなく殺気を向けてくるだろうし、刺客ではなく僕達を追ってくる者などいるわけがない。


(夢と現実はどこが違うんだろう)


そう考えるのはもう何度目か。これが夢で、目がさめるのだとしたら、僕はその時どう思うのだろう。覚めるとしたら、いつなのだろう。


(ティアがいるところならどこでもいい)


だから今はここを、ティアと生きている今を精一杯生きよう。それが、永く続いていくように。死にたくない。ティアと、生きていたい。頭巾を跳ね上げ、僕は前を行くティアを追った。


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