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狼の仔  作者: 加密列
第五章 蒼穹の鷹、地の狼
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街の刹那 〜ティア〜

毛皮を売った後も男装は解かないことにした。男二人連れの方が目立たないからだ。第一男物の服を着ている女というのはどこに行っても目立つ。だったら元から男であればいい。髪を隠すだけで男になりきる自信があった。下手すればこのままでも男に見えるかもしれないが。


(髪が切れたらな)


それなら楽なのに。それに体型も男と大差ない。



しばらく歩いているうちに、気になることがあった。


(私達の顔に何か付いているのか?)


時々振り返る人がいる。暇だから数えることにした。


(一人目)


玉飾りをつけた裕福そうな女。私とトピを見つめる。…親の躾がなっていないんじゃないだろうか。あんなに不躾に人の顔を見て。そんな事を考えている間にも次々と現れる。裕福そうな者。貧しそうな者。人種も様々だし、元々この国は沢山の人種が入り混じっている。私達の肌の色に目を惹かれたというわけでもなさそうだ。なんだろう。妙な物でも身につけていただろうか。だが、それにしたって民族の差の範囲だろう。


(五人目)


ああ、そうか。振り返るのが皆女だということに気づく。


(へえ)


さすがにこれだけ人目を惹くと変わった趣味とも思えない。さりげなくトピの顔を見やるとなるほど、柔和な優男でどちらかといえば可愛らしい顔だくらいに思っていたが、目は強い意志をたたえていて、二枚目と言えなくもない。意識した事もなかったが、明らかに不細工ではないだろう。たしかに人目を惹くのかもしれなかった。


(あんまり人目を惹くのもまずいんじゃないかな)


一応は追われる身な訳だし。


だが、一旦見る目を変えると、確かにトピは美男のうちに入る。栗鼠っぽい顔といえばそうとも言えるが。栗毛に、愛嬌があって。もっともそんな事を言ったらトピは怒るだろう。第一私は外面で名前を決めたわけじゃないからな。


トピではなく私を見る者がいるのは私が彼の連れだからだろう。私が女だと見破られる事は万に一もない。身なりでどれほど裕福か測ろうとしているのだろうか。それとも男であっても隣にいれば嫉妬するものなのだろうか。女の考える事は分からない。私を恋人にしてもなんの得もないのに。


私が奴らなら絶対に私を恋人にはしない。顔も普通。気はきかないし、内面はこんな獣だ。御免こうむる。殺気には敏感なのに、そういうところに鈍感なトピは飄々と道を進んでいく。真っ直ぐに前を向いたその目が一瞬私の方を向いた。そのままにっこりと笑みをつくる。無邪気な微笑みだ。


(なんだってこんな露骨な視線に気づかないかね)


この朴念仁。私はそんな事を思った。


(六人目)


ふとそいつをにらみ返してやりたいという衝動にかられた。


(そんな事してなんの意味があるんだ)


かろうじて思いとどまったが、私はそっと面を伏せた。耳が、ひどく熱かった。


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