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狼の仔  作者: 加密列
第四章 敵襲
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結ぶ手 〜トピ〜

「ここを出ようか」


そう言ったのはどちらが先だったのだろう。


「もう、一度見つかってしまっている。一か所に定住しない方がよくはないか?」

「そうだな」


そんな事を話したのが三日前。僕達はもう、根無し草として生きる他ないのか。いや、案外悪い気はしないものだが。流れ者の子ども。目立たなければいいのだが。


「アトマイアとワイメア、どちらに入ろうか」

「近いのはどっちだ?」

「アトマイアだな」


ティアは周辺国の情報が全て頭に入っているようだ。


「どれくらいかかる?」

「八日。私達ならもう少し早く着けるかもしれない」


なるほど。だが何も歩く必要はないだろう。


「馬を借りればいいんじゃないか」

「馬?あの、馬?借りられるのか?」


そうか。ティアは街の事は知らないんだったな。そこは僕がしっかりしなければ。


「国の中なら大丈夫だ。馬借屋ならいたるところにある。どんなに小さな街でも一つはあるよ。国境まで五日で着ける」

「馬借屋ってなんだ?」


ティアが言う。そうか、そこからか。


「馬を貸す商売だよ。組合になっているから国内ならどこで借りた馬でもどこにでも返せる」

「へえ、そんな商売もあるのか」

「案外儲かるみたいだよ。何より情報が手に入りやすい」


ティアは頷いた。指をくるくると回しながら目を少し上向けて考え込み、もう一度頷く。


「分かった。ただ、国境まで馬で行くのはやめよう。網にかかりやすくなる。一つ前の街まででどうだ」

「そうだな。慎重になるのに越した事はない」


それから手分けして買い出しに出かけた。と言っても、食料が少しなのだが。旅に必要なものは一か所で買わない。子どもがそんなもの買っていたら見つけてくれと言っているようなものだ。相変わらず少ない荷物をまとめて眠りについたのが昨日。



「この家にも世話になったな」


朝早く、そっと戸を閉める。もう二度とここに来る事はないだろう。


「その棒、目立たないか?」


布で荷物を包んで背負った自分と違い、ティアは槍の柄に荷を引っ掛けている。かろうじて刀は隠しているものの、この棒だってティアの得物だ。短めで穂先も付いていないとはいえ、見るものが見れば武器だと一目で分かるだろう。


武術をやるものは何故だか武器がしっくりと馴染む。隙のない身のこなしも、怪しまれる要因にしかならないだろう。なにせそこそこ見られる顔の女だ。…本人に自覚はないのだが。


「この街を出るまでは歩くんだろう?大丈夫だ」


意味がわからない。僕達はこの街の外れで馬を借り、国境の二つ前の街まで馬で行く。それが棒と何の関係があるんだ。森を出て街が見えて来ると、ティアが立ち止まった。


「いいかい?今からトピは私の兄だ。それを忘れないでくれ」


一体何を言っているんだ。


「鍵は私の名前。馬借屋を出たら呼んで。必ず」


僕の手を握りしめる。必死な様子だった。そうか。確かに自分の自我を一度手放すのは恐怖だろう。その手を握るのもいつのまにか不自然ではなくなっている。


「『仮面』を使うのか?」

「ああ」


そう言うと手を離し、いきなり自分の足を持って関節を外してしまった。


「おい!何しているんだ」


それを意に介する風もなく、ティアは何やら印を結んでいるようだ。やがて…。


「お兄ちゃん?」


ティアの顔した、ティアにはありえないほど無邪気な表情の少女がそこにいた。




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