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狼の仔  作者: 加密列
第四章 敵襲
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約束と信頼 〜トピ〜


「おまえ約束破ろうとしただろう」


ずっと感じていた事だった。ティアが眉根を寄せる。もしかしたら、自分では気づいていないのかもしれない。だとしても、いや、だとしたらなおさら伝えるべきだ。言い出したらもう止められない。


「ティアが死のうとしているんじゃないかって思った」

「そんな事…」


目が泳ぐ。困ったような、笑いたいのに笑えないような、そんな顔をしていた。胸が詰まる。もしかしたら、傷つけてしまったかもしれない。それでも言葉を紡いだ。


「していないと言い切れる?危ないことは全部自分で背負って、それなのに、二人目を殺したティアは…」


いいよどむ。口にしたら、自分が傷つくような気がして。


(だからどうした?)


僕の事などちっとも問題じゃないだろう。ティアに言わなければ僕は絶対に後悔する。


「精気がなかった。全てを捨てたような、廃人のような顔をしていた。怪我をして、返り血を浴びて。それなのに、ティアは『トピが無事でよかった』って言ったんだよ。自分の事などどうでもいいとでも言うように。頼むから、お願いだから、生きようとしてくれ。僕はティアに生きて欲しい。だって、そう願ったから僕はお前を助けたんだよ。ティア、僕がどうしてお前に名前を授けたと思っている。十五まで生きている保証がないからじゃない。僕にとって失ったら二度と取り返しがつかない人だって言いたいから付けたんだよ。ティア。死に急がないでくれ。頼むよ」


支離滅裂なことをくちばしっているのはわかっていた。自分らしくない。ティアに出会ってから、感情に身を任せる事が多くなった気がする。話しながらどんどん動転していって、もう何を言いたかったのかも、ともすれば分からなくなりそうだった。


でも、僕の思いはきっと伝わったはずだ。伝わったと信じたい。じっと見つめていると、先に目を逸らしたのはティアの方だった。俯いて唇を噛む。悲しい。ティアは、とても悲しそうだった。目の奥に水が溜まっていた。しばらく躊躇うように口で息をし、かすかに首を振ってから顔を上げると口を開く。睫毛が震え、目は相変わらず笑えない自分に困っているような、懇願するような、そんな色を浮かべていた。


「顔見知り、だったんだ」


いつもより低い声。感情を、押し殺した声。


「え?」

「二人目の刺客。私が処刑される日に、処刑場まで護送したのが彼だった。…知っている人を殺すのは初めてじゃないのにね。それに、斬ってから、死ぬ直前に彼が名を呼んだんだ。『すまん…ヴェー…』って。それしか聞き取れなかった。彼にもきっと大切な人がいて、彼を待っている人がいて、それなのに私はあの男を斬ってしまった…彼の名すら、私は知らないのに。私は、人を斬って、奪って…私は!」


悲しさを抱えたまま自嘲し、叫ぶ。なあ、そんな顔するなよ!僕は、そんな顔をして欲しくない。そんなの、ティアじゃない。


「ごめんよ、トピ。もう、自分から逃げたりしない。約束する」

「…信じる」


彼女を信頼できなかったら誰も信頼できない。ティアが顔を上げた。


「『十字の誓い』をすることに同意してくれるか?」


ああ。


「いつ言い出そうかって思っていた」


十字の誓い。最も信頼を寄せる相手への誓いだ。一生に一度、一人の人としか出来ない、どんな誓いよりも優先されるもの。


ティア、僕のお前への思いが示せるのなら、なんだってするよ。僕にはお前しかいないんだから。


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