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狼の仔  作者: 加密列
第三章 真名
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街と秘密 〜トピ〜

「おや、見かけん顔だね」


肉屋で干し肉を買っている時、そこの主人に言われて内心動揺した。よそ者だとばれたくない。よそ者はこの規模の街だと目立つ。追っ手に見つかりやすくなるかもしれない。


「親父が体壊しちまって。代わりに来たんだ。親父がよろしくってよ」

「そうか」


この程度の嘘は考える前に出てくる。嘘はばれなきゃ嘘じゃない。本当に嘘がつけないのはきっと自分自身のみだ、というのを信条にここまで生きてきた。実際それを身をもって実証もしてきた。


(すっごい悪い奴みたいだ)


内心苦笑しながらお釣りと品物を受け取る。


「ありがとう」


店を出る。買ったのは干し肉、干し飯、それから染料。それに長頭巾(フード付きマント)。蝋引きの紙。雨よけだ。本当は毛皮の方がよかったのだが、いかんせん値がはる。あいにく僕らは裕福には程遠い。金を稼ぐ手段がないのだからしょうがないが、それもなんとかしないとな。それから鉈。丈夫な革紐を二本。その他旅に必要な物だ。



(あ…)


遠くの店でティアが買い物をしている。おどおどはしていないが、長身もあって、なんとなく目立つ。僕に気づいていない様子だった。担いでいる袋は買ったのだろう。容量は大きいが色気のかけらもない、実用性だけを考えた袋だった。


(ティアらしいな)


その袋はわずかに膨らんで、おそらく服が入っているのだろう。肌着のみを身につけて身一つで逃げてきたのだ。


突際に刀を拾ってきていたのはさすがだが、それでも買わなければならないものが沢山あるだろう。もっともそれを最小限に抑えるのがティアなのだろうが。


(何を買っているんだ?)


ほんの好奇心で目を凝らす。視力には自信があるのだ。


(え?)


ティアがいるのは化粧を売る店だ。彼女はそこでなにやら店の者と話していた。ティアが金を払う。買ったのは白粉、頬紅、口紅、そして、


(嘘だろ…)


遊女が使うような墨だった。目元に差す物だろうが、あんな濃い墨、堅気の人間は使わない。あまりにも濃すぎるからだ。


(馬鹿なのか、あいつ…)


そもそも化粧なんてする機会があるとは思えない。というか、あのティアが化粧?対極すぎて想像もつかない。


(おっと…)


ティアが歩き出す。僕も待ち合わせ場所へと足を運んだ。歩くのが早い。僕は小走りでティアに追いついた。



「ティア、何買ったんだ?」


肩を叩くと彼女は振り向いた。


「長くなる。夜話すよ」


一瞬彼女の目元を影がかすめた。


「え?」


ティアは唇を噛み締め、それ以上説明をしようとしなかった。


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