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狼の仔  作者: 加密列
第三章 真名
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逃亡計画 〜トピ〜

彼女は、どう思ったのだろうか。顔にはなんの表情も浮かばなかった。だけどいつも表情が豊かな方ではないから分からない。もう少し感情表現が豊かでもいいのにな。内面は猪突猛進な所があるくせに顔に出ないからたちが悪い。驚いていても顔に出なかっただけかもしれないじゃないか。


化け物を見るような目で見なかったのは両親以外で彼女が始めてだ。もしかすると、よく理解できない話だったのかもしれない。別に不思議なことじゃないだろう。かくいう僕自身でさえよく理解していないのだから、人に理解しろという方が無茶なのだ。


いくら僕の片割れでも、こればかりはどうしようもない。こんな突飛で無茶で破綻しているような事を言われてすぐに受け入れられるのは、よっぽどの馬鹿かよっぽどの天才だろう。自分が考えなくともできる事を特別と言われて受け入れられるのもまたこれに然りだ。僕はどっちでもないからな。なりたいと思ったこともないし。


それでもやっぱり気になってちらりと見遣ったティアは、うつむいて考えこんでいる様子だった。ちょうど影になり、その表情を窺うことはできない。それに少し安心する。ティアにまで拒絶されるのはいやだ。だったら見なければいいと頭では分かっているのに、どうして見てしまうのだろう。怖いもの見たさというやつだろうか。そんなに気にしてもどうしようもないというのに。だってこれは僕の問題なのだ。ティアに答えを求めちゃいけない。所在無く視線を彷徨わせていると、考え込んでいたティアが沈黙を断ち切るように顔を上げる。一瞬身構えたが、


「いつ、ここを立とうか」


ティアが何事もなかったかのように言って胸をなでおろした。もしかしたら、僕が言った事など大して気にも留めていないのかもしれないな。そう思うと少し気が楽になる反面、なぜか少し残念な気もした。少し考える。だが、どんなに考えてもこれしかない。そもそもここに長居する理由の方がない。


「明日の朝」


二人の声がそろった。ティアも答えを出してから僕に訊いたのだろう。直感のティアと熟考の僕。二人の答えが揃ったら、そこに疑問を挟む余地などない。もし何かがあったら…その時はその時だ。そんな風に考える自分が新鮮で、でも悪い気はしなかった。なんでもはっきりしないと気が済まないたちだったのに。顔を見合わせてにやっと笑うと彼女も一瞬のちに笑い返してきた。


(あの間はなんだったんだろう)


頭をかすめた考えはしかし、言葉にする前に逃げていった。


(まあ、いいか)


僕はティアと、明日のために少ない荷をまとめ始めた。


急に慌ただしく動き始めた自分に驚いたかのように、火が大きく揺れた。


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