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狼の仔  作者: 加密列
第九章 想う人
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手負いの狼 〜ティア〜

「ティア?」

「なんだ」


トピは黙って首を振る。


「やっぱりなんでもない」


椀をことりと置く。

立ち上がるときにトピの体が不自然にかしいだ気がした。


(ん?)


悪い予感がする。


「トピ、ちょっと来い」


そういうと火を回り込んでトピが隣に立った。


「向こうを向いて座れ」


大人しく従う所を見ると私が何を思っているのかが分かったのだろう。だが、無言で服をめくるとさすがに狼狽したようだった。


「ち、ちょっと待て。早まるな」

「今更何を言っているんだ。見られて困るものなど何もないだろう」


それよりもお前の体が心配だ。…それとも


「お前ひょっとして実は女だったとか言わないよな」


もちろん冗談だ。


「そんなわけないだろう!」


が、案外動揺させてしまったようだ。意外だな。私よりよほど冗談が上手いのに。


「ごめんごめん。それよりほら…」


絶句した。背にくっきりと痣が入り、鬱血している。ところどころ裂傷もあり、腫れて熱を持っていた。骨は折れていないようだが、手当ての跡は見られない。傷跡は赤黒く染まっている。


「私だね?」


トピは観念したように黙って頷いた。


「すまない」


本当にごめん。キィナの事はどうしてもトピに任せてしまいたくなかった。甘えてしまいたくなかった。とっさに殴ってしまったけれど、こんな事になっているなんて。自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。どうして殴ったんだ。が、言いたいことは言わせてもらう。


「馬鹿かお前は!」


岩穴にその声はおもいがけないほど響いた。


「どうしてこの傷を放っておいたんだ。折れてたらどうするんだ。私の手当てだけじゃなくて自分の体をもっと労われ!」


トピが情けなさそうに眉を下げる。


(器用な眉毛)


怒るに怒れなくなり、ため息をついた。とにかく手当てをしなければいけない。薬草を取ると口に含んで噛み砕いてから水に混ぜる。


(サラシは?)


ああ、そうか。腹に巻いていたんだ、とっくに使い物にならない。新しく買いに行かなければ。ついでに胸にも巻こうかな。自分のものは小ぶりだと分かっているのだが、それでも邪魔なものは邪魔だ。


(しょうがないな)


トピが向こうを向いているのをいいことに服を脱ぎ、肌着の縫い目に拳を当てると思いっきり突き出す。糸が弾ける小気味いい音がして肌着が裂けた。歯で細く切り裂き、それをサラシの代わりにして背中の傷に薬草が当たるように袈裟懸けに巻いていく。


「三日も放ってたのか」


治りが遅くなるかもしれない。


「うん。ご…」

「ごめん。本当に。私が軽率だった。馬鹿だった。もうやらないように気をつける」


彼に謝らせてはいけない。それは絶対に駄目だ。私が許さない。


「終わった。もう動いていい」


軽く肩を叩くとかすかな呻きが聞こえた。


「ごめん。痛かったか?」

「いや、大丈夫。ありがとう」


木枯らしは、吹き続けている。


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