誓い 〜トピ〜
「無茶だよ。何針縫ったと思っているんだ」
ティアは床から起きたその日から槍を握り始めた。案の定構えから顔を歪めて槍をとり落す。
「大事にしないと治るものも治らないだろう。全く」
十四の娘とは思えない。振り返ったティアは見たことのないような凄まじい顔をしていた。
「大丈夫だ。少し痛んだだけだから」
これが嘘じゃなかったらこの世に真実というものは存在しない。
「いくらやるせなくても自分の体は大事にしろ。なんのために手当てをしたと思っているんだ」
怖かった。体をぼろぼろにしても、ティアが闘い続ける気がして。
「強く、なりたい」
ティアがそう言った。己を責めるように爛々と目を光らせて。
「ちゃんと寝ろ。今逸っても己の体を壊すだけだ」
そう言うとティアは無言で岩穴に入って行った。慌てて追いかけると火のそばにぼんやりと膝を抱えて座っている。氷のように無表情だった。青みがかった黒の瞳に炎が映る。その向かいに腰を下ろすとティアが呟いた。
「強く、なりたい」
また、睨むように。木枯らしが吹く音がする。
「ティアは強いだろう」
そういうとティアは首を振って言った。
「もっと強くなりたいんだ」
膝を抱えたまま。
「どうして」
「絶対に殺したい人がいるから」
一瞬空気が凍った。ティアが絶対に殺したい人。それは。
「それは、お前の叔父だね?」
質問ではなく、確認。
「そう。私の叔父。父をはめ、母を騙して村長となり、おばばを幽閉して私を殺そうとする人。あの男さえいなければ、私は父を殺さずに済んだ。あの男さえいなければ、私は、トピも、こんな風に追われる事もはなかった。キィナも、死ななかった。殺さずに済んだ!」
一言一言に憎しみがこもっていた。
「絶対に許さない」
血を吐くような、それは叫びだった。大声を出すこともできぬほど憎しみの、呪詛のこもった叫び。いけない。ティアに人を殺したいなんて、願って欲しくない!それは言葉にならなかった。人を憎んで、人の死を願って、それが救いになった時もあった。だけど、それに自分の全てを預ける様な事はして欲しくない。僕は、知っているから。
「キィナを差し向けたのだってあいつに決まっている。どこまでも卑劣な男なんだ」
絶対にこの手で殺してやると、そう言った。命にかけても殺して見せると。そう誓っていた。
だから、僕も一つの誓いを立てた。誰にも、ティアにさえ言わない。僕がこの誓いを守れば、きっとティアは怒る。絶交されるかもしれない。そう思うと身が震えるほど怖い。誓いたくないと思ってしまう。だが、ティアのためだ。僕はティアに知って欲しくない。あの、闇を。
だから、命と、この名にかけて貫いてみせると、誓う。絶対に、これだけは。




