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狼の仔  作者: 加密列
第九章 想う人
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キィナ 〜ティア〜

物心ついた時には常に髪を結わえていた。母さんに「それ」を誰にも見せてはいけないと言われてたから。何故なのかは知らなかったし、考えようとしたこともなかった。「それ」は多分印なのだろう。巻きつけた布が解ける。緊張をみなぎらせているトピに声をかけた。


「大丈夫だよ。少なくとも今は」


後のことは、考えないことにしよう。


「お前、それ…」


振り向いたトピの顔が信じられないというように歪む。無理もない。うなじのところ、髪が生えうる一番下のところの髪が一房、白銀だから。誰にも見せてはいけないと言われていた私の印。


「だから、お前はいつも下の方で髪を結わえていたのか」


相変わらず察しがいい。束にした髪に白銀のところを巻きつけ、その上から布を巻けば「それ」は見えない。


「それは星の子の印。確かなもの」


キィナが言った。でも、ちょっと待った。


「彼は、髪を結わえてない。彼は違うのか?」

「そうじゃない」


そう言ったのはトピだった。彼が苦笑いのような顔をして振り返る。


「染めているんだ」

「いつ」

「かなり強い染料。服に縫いこんで持ち歩いている。一月に一度、染めている」


ちっとも気付かなかった。


「この事をお前は知っていたのか」

「意味までは知らなかった。ただ、見せてはいけないものだと、母に言われていた。おそらく父さんも知らない」


私たちは普通じゃなかったんだ。もう元には戻れないと、普通には戻れないとそう思っていたのに、根っこのところからもう違った。争いを、生む子だった。


「何か質問は?」


キィナが問う。ひとつだけ、答えは分かりきっているかもしれないけれど。


「私たちに闘わずに生きる道はないんだね?」


「ない」


そう。トピが再び剣を構え直した。


「最後にひとつだけ言わせて」


最後。その言葉にキィナは何を込めたのか。そして、私は。


「岩屋のおばばは幽閉された」

「まさか」


おばばに、あの人に限ってそんなことになるはずがない。


「本当。あんたについて、何も言わないから」


一瞬キィナが睨むようにねめつけてきた。


「おばばは、ずっとあなたの味方をするつもりだよ。…その命の尽きるまで」


そんな、おばばの味方なんて私にはもったいなすぎる。ふと疑問が湧いた。


「私たちを殺そうとしているのは誰だ」


おばばを閉じこめてまで私を殺したいと望む人で、父さんの後釜。それは、誰?キィナが迷うように目を少しつむった。


「村長が死んで、その妻が残った時、次の村長にはその妻の次の夫がなる」


そうなのか?知らなかった。ん?


「じゃあ、今の村長は私の母の次の連れ合いだと?」


母さんが私を殺そうとする人と結ばれるとは思えない。


「そう」

「誰なんだ、それは」


図らずも詰問口調になった。母が無事だったのはよかった。だけど、きっと騙されている。だが、何故キィナが言いにくそうな顔をするんだ。


「五番目の娘、あんたの叔父だよ」


え?頭が追いつかない。


「あんたを殺したがっているのは、あんたの叔父。あんたの父の弟だ」


世界が崩壊する音が、はっきりと聞こえた。


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