キィナ 〜ティア〜
物心ついた時には常に髪を結わえていた。母さんに「それ」を誰にも見せてはいけないと言われてたから。何故なのかは知らなかったし、考えようとしたこともなかった。「それ」は多分印なのだろう。巻きつけた布が解ける。緊張をみなぎらせているトピに声をかけた。
「大丈夫だよ。少なくとも今は」
後のことは、考えないことにしよう。
「お前、それ…」
振り向いたトピの顔が信じられないというように歪む。無理もない。うなじのところ、髪が生えうる一番下のところの髪が一房、白銀だから。誰にも見せてはいけないと言われていた私の印。
「だから、お前はいつも下の方で髪を結わえていたのか」
相変わらず察しがいい。束にした髪に白銀のところを巻きつけ、その上から布を巻けば「それ」は見えない。
「それは星の子の印。確かなもの」
キィナが言った。でも、ちょっと待った。
「彼は、髪を結わえてない。彼は違うのか?」
「そうじゃない」
そう言ったのはトピだった。彼が苦笑いのような顔をして振り返る。
「染めているんだ」
「いつ」
「かなり強い染料。服に縫いこんで持ち歩いている。一月に一度、染めている」
ちっとも気付かなかった。
「この事をお前は知っていたのか」
「意味までは知らなかった。ただ、見せてはいけないものだと、母に言われていた。おそらく父さんも知らない」
私たちは普通じゃなかったんだ。もう元には戻れないと、普通には戻れないとそう思っていたのに、根っこのところからもう違った。争いを、生む子だった。
「何か質問は?」
キィナが問う。ひとつだけ、答えは分かりきっているかもしれないけれど。
「私たちに闘わずに生きる道はないんだね?」
「ない」
そう。トピが再び剣を構え直した。
「最後にひとつだけ言わせて」
最後。その言葉にキィナは何を込めたのか。そして、私は。
「岩屋のおばばは幽閉された」
「まさか」
おばばに、あの人に限ってそんなことになるはずがない。
「本当。あんたについて、何も言わないから」
一瞬キィナが睨むようにねめつけてきた。
「おばばは、ずっとあなたの味方をするつもりだよ。…その命の尽きるまで」
そんな、おばばの味方なんて私にはもったいなすぎる。ふと疑問が湧いた。
「私たちを殺そうとしているのは誰だ」
おばばを閉じこめてまで私を殺したいと望む人で、父さんの後釜。それは、誰?キィナが迷うように目を少しつむった。
「村長が死んで、その妻が残った時、次の村長にはその妻の次の夫がなる」
そうなのか?知らなかった。ん?
「じゃあ、今の村長は私の母の次の連れ合いだと?」
母さんが私を殺そうとする人と結ばれるとは思えない。
「そう」
「誰なんだ、それは」
図らずも詰問口調になった。母が無事だったのはよかった。だけど、きっと騙されている。だが、何故キィナが言いにくそうな顔をするんだ。
「五番目の娘、あんたの叔父だよ」
え?頭が追いつかない。
「あんたを殺したがっているのは、あんたの叔父。あんたの父の弟だ」
世界が崩壊する音が、はっきりと聞こえた。




