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狼の仔  作者: 加密列
第八章 血に染まる
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譲れない道 〜ティア〜

木漏れ日の差し込む森の中。二本の棒が打ち合う音が響きわたる。私達がやっているのは二人一組で行う槍の型だ。私が受け、トピが打つ。ゆっくりな動きから加速していく。


「そこ!」


一瞬できた隙を打つ。


「トピ、だいぶ良くなったとはいえ、その右脇に隙ができる癖はなんとかした方がいい」


「今日はいいところまで行ったと思ったんだけどな…」


たしかに格段に強くなってはいる。さすがトピだ。だんだん余裕がなくなってくる。追いつかれるのも遠くない。


「よし、午後はティアの剣の稽古だな」


…それがあった。槍以外の得物といえば刀、と育ってきた私にとって、なんとなく剣は扱いづらかった。似たような形なのに、なにかが決定的に違うのだ。が、あるものを利用しなければ生きてはいけない。そして…


「っと」


首をすくめると礫が風を切る鋭い音がした。


「さすがの反射神経だな」


呆れたような声。軽くとはいえ、そんなに近くから礫を打たないだろう、普通。呆れるのはこっちだ。


「お前はよく体力が持つな」

「ティアはもう限界なのか?」

「…そうは言ってない」


口の端に笑みを浮かべるとトピの方へ駆け出す。迎え撃つように腰を落とした彼にこの手が届く少し前に、思いっきりかかとを地面に食い込ませ、止まった。秋に入り地に積もった枯葉と乾燥した土が一気に舞い上がる。


「わ!」


トピの狼狽した声がした。目くらましを利用して回り込もうとした刹那


「なっ」


目を閉じたままトピが蹴りを放ってくる。こうくるとは思っていなかった。仰け反って躱すと拳を突き出した。その拳が掴まれるのも予想の内。引っ張られて前に動き、体が回転して空中でお互いの蹴りが交差した。地面を転がって体を起こすとトピと目があった。その目がかすかに赤い。


「目が充血している」

「そう言うティアは肩が擦れている」


言われてみると肩が擦れてかすかに血が滲んでいた。受け身を取り損なうなんて耄碌したな。血を指ですくってぺろりと舐める。金臭い味が広がり、目を細めて隣を見やるとトピが目を洗っているところだった。手元に得物がなければ素手で闘うしかない。やり方さえ心得ていればたとえ指一本でも人は殺せる。この瞬間を生き延びるために、強く、強く。ただそれだけを。


(獣か、私は)


それでも、私は私だ。誰にも譲らない。この生を、手放したりはしない。闘うことに、人殺しに悩んでいた霧が払われる。悩むことはないんだ。道を、選んだ。もう後戻りは出来ない。

案外悪い気はしないものだと、そう思った。


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