05 第五曲 夜に
末っ子がその日聞いたのは、人形を求めるマカオンの王様の夜想曲。
「もし、おうさま、お呼びでしょうか」
尋ねた末っ子を振り返ったのは、半分人間、半分人形の仮面の王様。
「ああ、そうだな。作ってもらおうか、人形を」
王様は笑った。仮面を歪めてにやりと笑った。
「髪はぬばたま、肌は白菊、唇の赤は紅薔薇よりもかぐわしく、瞳は紫紺の玻璃玉だ」
それを聞いた末っ子は驚いて、ほっと息を吐き出した。
「ぼくが目指す人形とまったく同じ人形だ。マカオンに憧れるお人形。お人形に憧れるパピヨン・マカオン。おうさま、おうさま、仮面のおうさま、そのお人形をお作りします」
ある日の夜に思い出す、ある日の夜の、あるお話。
いくつ作っても、納得できない、満足できない、何かが違う。モールドを作り続ける末っ子と、作られ続けるヘッドたち。
「ちがう、ちがう。これはただのお人形」
末っ子はついに決心し、小鹿の龍に会いに行った。末っ子の瞳に映った小鹿は喪服をまとい、血を差し色に踊っていた。銀色の槍をその手に持って、独り舞台で踊っていた。
「これはみごとなパピヨン・マカオン」
末っ子の呟き声を聞き、龍がはっと振り返った。驚いた顔で振り返った。
「だれ」
「ぼくはただのお人形。あなたの人形を作ってます。マカオンに成りきれないパピヨン・マカオン。お人形に成りきれないパピヨン・マカオン。マカオンに成れないお人形。でも違う。あなたはどうやらパピヨン・マカオン。完全なるパピヨン・マカオン」
紫紺の瞳を覗きこみ、末っ子はこくりと首をかしげた。
「五月雨も封じ得ぬ蝶、紅道へ」
龍の旅のその在り方をじっくり瞳に収めると、末っ子は一礼を残して家路についた。
足りなかったのは覚悟の色。旅に対する人一倍のその覚悟。
ある日の夜に思い出す、ある日の夜の、あるお話。
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