02 第二曲 飛翔
末っ子は再び龍と出会った。喪服をまとい、血を差し色に舞う小鹿の龍に。末っ子を認めた小鹿の龍は、憂いを忍ばせたその眉を静かに寄せて俯いた。
「僕はもうすぐ死ぬのかしら」
表情一つ変えることなく、末っ子は静かに答えた。
「あなたは死ぬよ。殺される。愛する教え子に殺される」
弾かれた龍のその顔は、悲しみで満たされたひどく痛いものだった。
「残されたあの子はどうなりますか。この世を憎んで惑いますか。人を恨んで迷いますか」
「大きな闇に呑まれます。周囲を巻きこみ、世界を巻き込み、混沌の時代を招きます」
「僕にできることはないのでしょうか。あの子の憎しみも恨みも、僕が育ててしまったもの。どうかあの子を助けたい」
己が死ぬことに惑いもしない小鹿の龍を、惑わせて仕方がないその望み。末っ子はそっと問いかけた。
「あなたはまだパピヨン・マカオンでいたいのか。辛く長い旅路を再び行き、再び傷付く勇気がまだあるの」
「もちろんです。僕には立ち止まることなんてできないの。僕を生かしてくれた人達のためならば、僕はいばらで傷つき涙したって、きっと誇って歩いていく。それが僕にできる精一杯」
それを聞いた末っ子は、紅薔薇の口で言葉を紡いだ。
「この世が危機に瀕した時 二人の少年巡り合う 一人は太陽を司り 一人は星を司る 彼ら二人の共を連れ 自らの命と引き換えに この世のすべてを救うだろう」
怪訝そうに首をかしげた小鹿の龍に、人形師の末っ子は手を差し出した。
「あなたに一つの寓話を預けます。どうかあなたは星になって飛び立って。地上に光を届けるまで、宇宙の闇を駆け抜ける、辛く暗い道のりです。でもどうか頑張って。あなたならきっと飛び立てる」
少年人形師の手元に灯った小さな光は、やがて二体の人形になった。赤い髪の少年人形と銀の髪の少年人形。龍に銀の人形を手渡し、末っ子は笑った。
「赤い子はあなたのよく知った人に預けておきます。どうか二人で乗り越えて。ちゃんと巡り合えるよう、刻印は目立つところにありますから。出会えたなら、光の異種族の元を訪ねなさい。エルフの国の山の中、そこにあなたの教え子はいる」
ある寓話が飛び立った、ある日の夢の、あるお話。