何気ない日常
およそ二か月ぶりの更新となってしまい、誠に申し訳ありませんm(__)m
これからは毎週日曜に確定で更新、それ以外の日は余裕があれば更新というスケジュールでやっていきたいと思います。
先に述べていた通り、グリモアの街には街の外と内を繋ぐ門が東西南北の四箇所に設置されている。そして街の中心部からは、その四つの門それぞれに直通する形でメインストリートが真っ直ぐに伸びていて――結果、グリモアの街は、メインストリートによって街全体が4等分に仕切られているかのような構造となっていた。
で、その4等分されているエリアには各々に名前があって。
交通量の多い南門に近い南西と南東の地域は、宿や商店、屋台が並ぶ”商業エリア”。
北西は冒険者ギルドや鍛冶屋等が軒を連ねている為、”冒険者エリア”。
北東は街の住民の家屋が密集していることから”居住区エリア”と呼ばれている。
そして――現在。
レティアから二人きりでのお出かけ(断じてデートではない)に誘われ、冒険者ギルドを後にした俺は、彼女と共に街の南部にある商業エリアへと足を運んでいた。
グリモアの街の北西に広がる冒険者エリアの中でも、ほとんど街の中心に立地するギルドから、商業エリアへの移動には然程の時間を必要としない。よって俺たち二人は、比較的短時間で商いの声が飛び交う商業エリアに辿り着くと、街の散策へと繰り出した。
まず手始めに、手近な屋台で腹ごしらえを済ませる。しばしレティアと二人で協議した結果、手近な屋台で昼御飯を購入。それから近くの広場に移動すると、三人がけのベンチを確保し、食事と相成った。
ちなみに今回チョイスしたのは、”グリモアサンド”という名の、俗に言うご当地B級グルメ的な立ち位置らしいサンドイッチだ。
食べた感想としては……なんだかBLTサンドっぽい、かな。外見的にも、味的にも。というか、名称が違っているだけで、BLTサンドそのものだった。
唯一、サイズだけが日本にいた頃に見たそれとはかけ離れていて、一個で軽く標準的な”BLT”の2人前分くらいはありそうだったけど、逆に言えば相違点はそのぐらいで。
俺は、どこか懐かしささえ感じさせる味わいに感慨深い思いを抱きつつも、ものの数分でBLTサンドもどきを完食した。
そして俺に遅れること数分。レティアもまた食事を済ませたようで。
「ふぁあ……食べた食べた……美味しかったぁ」
と満足気な声を上げるなり、彼女はルビーのような瞳を伏せ、少し俯き、何か考え込むような体勢を取り始めた。
その様子を見て、俺は彼女にそっと耳打ちする。
「……どうかした? 何か悩んでるみたいだけど」
呆然とした表情で顔を上げたレティアは、次の瞬間、堰を切ったように首を横に振った。
「――あ、ううん。違うの。この後はどうしようかなーって、そう思って。ユウト君は、何か今のうちに買っておきたいものとかはあったりする? ファニールからガイドを貰ってるから不要かもだけど、何か希望があるなら、私がそれを売っている店まで案内するよ?」
「何か必要なものか……」
しばらく思案し、俺は答えた。
「色々買っておきたいものはあるけど、服は特に急いで補充しておきたいかもしれない。替えの服があまり無いし」
「ふむふむ、なるほどね。じゃあ、どんな用途の服が欲しい? 大まかに普段着、寝間着、戦闘用ってあるけど」
「その中だったら……普段着と寝間着かな。戦闘用は他人からもらったものが結構あるから」
なお、その”他人”とは、シェリルさんの事だ。実は悠久の館で過ごす間、俺は彼女から古着をいくつか譲って貰っていたのである(勿論、譲って貰ったのは、女物というわけではなく。かつて彼女のマスターが来ていたという、少々古臭いデザインではあるものの、れっきとした男物の服だ)。
戦闘服はその中でも大きな割合を占めており、その理由としては、生地が薄く、吸汗性の良い素材の物が殆どだった為に、渡されたものは全てありがたく受け取ったからで、それに対し、普段着や寝間着は……なんと言うか、全体的に趣味の悪いデザインが多く、ごく一部のまだ”控え目”だった品のみを譲って貰ったのである。
「へぇ……じゃあ、買い物をするならあそこの方が良いかな」
「あそこ?」
「うん。ここの近くにある”ファッションブティック・マム”っていうお店なんだけどね。あそこなら、戦闘服以外にも、可愛いかったり、カッコいい普段着が置いてあるんだー。あ、ちなみにだけど、今、私が着てる服や靴も、全部そこで買ったものなんだよ?」
「へぇ」
俺は感嘆のため息を漏らしながら、改めてレティアの装いを眺めた。
こんな俺が言うのも何だけど、現在のレティアの格好は贔屓目に言ってもかなりイケてるし、可愛いと思う。こう、西部劇のヒロインみたいな感じで。
そんな彼女を見ていると、俺自身、服装に特にこだわりがあるという訳ではないというのに、これほど良い服が置いてあるなら、一度くらいはその店に行ってみたいなという気持ちになってきて――。
「――じゃあ、そこに案内してくれないかな、レティア」
「うん。こっちだよ」
そう言って、レティアはベンチから立ち上がり、こちらに手を伸ばしてきた。
「一緒に行こう」
「……あぁ」
俺は一瞬躊躇いに似た感情を覚えながら、その手を取り、立ち上がった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――『ここの近くにある”ファッションブティック・マム”っていうお店なんだけどね』というレティアの言葉通り、ファッションブティック・マムなる店は、昼食を食べた広場からほど近い場所にあった。
人通りの多いメインストリート沿いに存在し、店名の割には質素な外観を取っているその店にやってきた俺達は――というよりレティアは、店内に入るなり、陳列された商品の吟味を始めた。
一瞬、俺も服を見て回ろうとしてみたけど、自分のファッションセンスのなさを思い出し、すぐに断念。レティアは嬉々として――かつ無言で服を物色しているようなので、彼女の傍に佇んでしばらく待ってみることにした。
すると、それほど広くない店内を回り始めて十分程経った頃。
レティアは一枚の服を手に取ってこちらに近づいてきた。全体的に茶色が目立ち、所々に赤いラインの入った、長袖トレーナーのような服だ。
「ねぇ、ユウト君。これ、試着してみてくれる?」
「分かった」
レティアから差し出された服を受け取り、店員に声を掛けて試着室に案内してもらう。それから例の服に着替えてみたんだけど……どうなんだろ、これ。試着室に備わっていた姿見で確認してみるが、似合っているのかどうか判別がつかない。
疑問を抱いたまま試着室の外に出ると、すぐ側にレティアが待機していた。後ろ手に何か隠すような素振りを見せる彼女は、試着室から出て来た俺を見て、満足げな笑みを浮かべる。
「うん、よく似合ってるよ。ユウト君はスラリとした体型だから、そういうのが良い感じに映えるよね」
「そう……なのかな。俺、服装とかはあまり気にした事ないから、よく分からないんだけど」
投げ掛けられた賛辞と、同年代の女子に自らの着こなしをまじまじと観察されるという慣れない状況がごちゃ混ぜとなり、どこか小っ恥ずかしいものを感じながら、俺はそう問い返す。
すると、レティアは「勿論だよ」と大きく頷いてから今まで身体の後ろに隠し持っていた物を突きつけてきた。
「じゃあ、次はこれを着てみて。その後はこっち。その次はこれと……あと、これも着てほしいな」
彼女の手には男物の服が大量に握られていた。
それらを意気揚々に押し付けてくるレティアの勢いは正しく怒涛のそれで――。
「……う、うん。了解」
――その後、レティアによって何着もの服を試着させられたことは言うまでもなく、二時間ほど着せ替え人形の真似事を強制された後。俺は個人的に気に入った服、上下合わせて6着を購入した。
今回も読んでいただきありがとうございました




