三人の少女達
前回から三週間も開けてしまい、本当に申し訳ありません(土下座
大学への入学やら、受講する科目の登録やら、サークル活動やらをやっているとどうにも執筆の時間が取れず、悪戦苦闘しておりました……
今回は二日連続更新は確定で、余裕があれば更にもう一日更新。出来なければ、来週末に確定で一回以上更新とさせていただきたいと思います。
――少女達は何の前触れも無く、俺の前に現れた。
誰もいなかったはずの”そこ”。広場の中央に座する石像のような物体の丁度真上に、緑色の羽衣を纏う見目麗しい三人の少女達が浮かんでいる。
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???
種族:???
Lv???
MP:???
STR:???
DEF:???
AGI:???
INT:???
スキル
???
=========
咄嗟に発動した鑑定は、まるで意味を成さなかった。
俺の網膜に浮かび上がった三人の少女のステータスは、何らかのスキルが作用しているのか、それとも別の要因が介在しているのか、全ての項目が秘匿されている。
『――人間、久しぶりの人間よ。私たちが見える、久しぶりの人間よ』
三人の内、最も背が高い少女――青く光沢のあるロングストレートヘアを後頭部でポニーテールにしてまとめた、大人びた面持ちの少女がどこか嬉しそうな声色でそう言った。
『おう! 確かに久々の人間だな! あたいらが見えている、久々の人間だな!』
続いて、毛先が外に向かってカールした赤色のミディアムショートヘアを振り乱しつつ、白い頬を紅潮させた勝気な雰囲気の少女が興奮を隠せない様子で声を発した。
『うん。人間、久々の。人間、久々の、私たちが見える』
最後に、三人の中で最も幼い容姿を持ち、何とも眠そうな表情を浮かべる金髪ショートの少女が支離滅裂な文法の言葉を口に出し、目元をゴシゴシと拭い、欠伸を一つかます。
――そうして、三者三様の反応を見せる彼女達は現世離れしている美貌を誇り、俺や他の人々とは明らかに違う類の存在感を放っていた。
俺はその存在感を真正面から受けてしまい、半ば圧倒される。
それでも何とか己を律し、彼女達三人にその正体を問い詰めようとして――
「――……っ?! ――っ?!」
――声が、出なかった。
どれだけ気張っても、自分の口から吐き出されるのは、掠れた息が漏れる微かな音だけ。まともな言葉が一つも排出される気配さえしない。
余りにも唐突な失声に文字通り絶句する。
が、事態はそれだけに収まらない。
何故なら。
まるで、固められたコンクリートの中に生き埋めにされているかのように。膝を突き、少女三人を見上げる体勢のまま、自分の体が動かせなくなっている事にも気が付いたから。
(――嘘だろ!?)
失声と、金縛り。己の身に降りかかったオカルト的現象を両方とも自覚した、その刹那。胸の中で黒い感情が溢れ出す。
俺は慌てて”それ”に蓋をしようとしたが、到底間に合わなかった。
溢れかえった感情の渦を処理しきれず、俺は全く動けない状態のまま発狂する。
「――――っ! ――――っ!?」
今すぐ、声を上げたい。
今すぐ叫んで、胸中を掻き乱そうとする、この恐怖を残らず吐き出してしまいたい――。
心の奥底から噴き上がる、最早、嘔吐感に近い欲求。
更には、その欲求を糧に心の中で急速に勢力を伸ばす、不安。不安。不安。不安。不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安……。
――感受するのも億劫になる、膨大な不安の嵐。
それら負の感情に占拠され、大きく揺さぶられる心を持て余してしまった俺は、軽い過呼吸状態へと陥ってしまう。
『人間を動けなくしておいたわ』
――そんな、俺。無意識のうちに加速していく過呼吸に苦しみかけていた俺を指差しながら、大人びた少女は耳を疑うことを言い放った。
「――?!」
少女が発したその一言により、俺は更なる狂乱へと突き落とされる。
だがしかし、少女達がこちらを心配する素振りを見せる事は無かった。
「――っ! ん――っ!?」と。まともな言葉にならない声を漏らす俺を無視して、三人は姦しく会話を続ける。
『する、創造主の匂い、あの人間から』
『あぁ、確かに匂う! ムンムン漂ってるな! 創造主の奴と同じ匂いが!』
『そうね。私も感じる。きっと、あの人間は創造主様に選ばれた存在なのね』
……匂い? 創造主?
――何を言ってるんだ、彼女達は。
――あと、”選ばれた”って……どういうことだ。
混乱する思考の中にあって、僅かに残されていた冷静な部分で俺は疑問を抱く。
が、声が出せない俺の疑問が少女達に届くはずもなく。三人の会話は続いていく。
『――それにしてもよ、確かにあの人間から創造主の匂いはするが、なんだか別の匂いも混じってねぇか? こう、なんつーか、やたらと魔法くさいっていうかさ』
『うん。感じる、私も、魔法臭さ、ほんの少しだけ』
『そうね……これはきっと、創造主様に選ばれる以前から、この人間に付いていた臭いだと思うわ。臭いが少し古臭くてはっきりとは言えないけど、相当大規模な魔法の残り香みたいね』
大人びた少女はそこで言葉を止める。空中を浮遊し、金縛り状態の俺に近付いてきた。
『それに、この人間の中には二本の楔が見える。何か、大きな力によって選定された証である”楔”。それが二本。一本は創造主が打ち込んだ物だけど……もう一本は誰が打ち込んだ物なのか、私にも分からないわね』
『ふーん。て事はなんだ。このやろーはうちの創造主に選ばれる以前、どっかのどいつかに”何らかの存在”として選ばれていたって事かよ』
『考えられない、そうとしか。けど……あまりにも薄い、魔法臭さが、それにしては。どう説明するの、これは?』
『それは……恐らく単純な話よ。創造主以外の何者かに選ばれそうになったその時、この人間を対象に作用した魔法は、完全には発動しなかったんじゃないかしら。何らかの理由でその魔法は失敗に終わり、この人間は”ナニモノ”になる事も無かった。結果、”楔”は体内に残され、臭いが中途半端に付いてしまったのだと思うわ』
『なるほどな。確かに、それなら辻褄が合う。……って事で、残された問題は――』
『うん。――選ばれたのか、誰にどんな目的で、この人間が』
『だったら……その辺りの疑問は、本人に直接聞いたほうが手っ取り早そうね』
――という、大人びた少女の発言が引き金となったのか。三人の少女達が、ほぼ同時にこちらを振り返る。
深紅。空色。琥珀色――合計三対の双眸に射抜かれ、俺は自分の体を解剖されて直接内臓や脳を覗かれているような、どうにも嫌な感触を覚えた。
(なんだ……何をするつもりなんだ、この子達は……)
体中から嫌な汗が噴き出てきているのを自覚しつつ。それでも、現在進行形で金縛りに遭っている俺は、彼女達の視線から逃れる事は出来ない。
それから、俺と少女達、双方共に無言で見つめあうだけの静寂な時間がしばらく続いた。
正体も目的も……もっと言えば、話している内容さえも。その全て、一切合切が不可視のベールに包まれている少女達から一斉に視線を注がれるのは、ぶっちゃければ物凄く怖い。少しずつ落ち着いて来ていた思考が、また混乱の渦中に取り込まれそうになる。
だから、見られ始めてから体感で三分程経ったかなという頃、少女達が事前に示し合わせていたように全く同じタイミングでこちらから視線を外した時、俺は胸中でホッと溜め息を溜め息を吐いた。
何か危害を加えられたわけでも、変にプレッシャーを掛けられたわけでも無いのに……この数分で寿命が一年分ぐらい吹き飛んでしまった気がする。
『ダメね。あの人間にそれらしき記憶が残っていないわ』
『困った、とても……』
(記憶が残ってない……? それって、どういう事だ?)
よく意味の分からない事を呟き、大人びた少女と幼い少女の二人が頭を抱える中、勝気そうな雰囲気の少女は『うがー!』と気が触れたように頭を掻きむしりだす。
『あー! もうまどろっこしい! ……くそっ。こうなりゃ、最終手段しかねぇか』
『初耳。なにそれ、最終手段って?』
『んなの決まってんだろ!』
幼い少女にそう言い返し、勝気な少女は再びこっちを見る。
『こいつの体に直接聞くんだよ! ここまでくりゃ、記憶の内容は気になるからな。数発ボコっったぐらいじゃあ無理かもしんないが、数回半殺しにでもすれば、なんか不思議な力でも働いて何かしら思い出すんじゃねぇのか、きっと』




