ギルドマスターからの伝言
連続更新三日目です。
総合評価1000を突破いたしました!
読者の皆さま、本当にありがとうございますm(__)m
*第一部にあった”回想シーン”を削除しました。
削除に至った理由としては、今後の物語において確実に必要である訳では無い上に、物語の導入部分としてはあまりにも唐突過ぎるシチュエーションであると思ったからです。
突然の削除となり、本当に申し訳ありません。深くお詫び申し上げます。
ファニールから貰った資料と睨めっこしながら、グリモアの街を歩き回ること十五分。
メインストリートから少しだけ外れ、裏路地に入ったのか、もしくは入っていないのか――少々判断に苦しむような所に、依頼の現場はあった。
質素な趣の二階建ての木造建築物。
入り口は西部劇で見られるようなウエスタンドア。
ドアの上の年季を感じさせる看板には、『豊穣の宿』とある。
間違いない。依頼書に書かれた立地や、ファニールから受け取った例の資料に記述された建物の外見に付いての説明の内容とも相違ない。
「ここか」
いつか見た、西部映画の主人公・カウボーイにでもなった気分を抱きつつ。ウエスタンドアを左右に押し広げながら宿の中に入る。
「おやおや、こんな早くからお客様かい」
すると、入り口の真正面に備え付けられていた簡素なカウンター、その中に座っていた、恰幅の良いおばちゃんに声を掛けられた。が、残念ながら、今の俺は客では無い。
「いえ、冒険者ギルドの依頼を受注してここに来ました」
言って、腰に下げた革製の何の変哲もないポーチ(悠久の館を出立する前にシェリルさんに譲って貰った物)から依頼書を取り出し、おばちゃんに見せつける。
「ふむ。それは確かに私が昨晩出しておいた依頼書だね。いやぁ、助かるよ!」
途端、おばちゃん(恐らく、ここの女将さん)は人の良さそうな笑みを浮かべ、喜びを露わにした。カウンターの中から出てきたと思うと、こちらの両肩をバシバシと叩き始め――って、痛い。無直茶痛い。
到底普通のおばちゃんとは思えない――それこそ、プロレスラーに張り手を貰ってるんじゃないかと錯覚するほどの威力を秘めた”肩バシバシ”を喰らい、俺は顔を顰める。
……だが、豪快に笑うおばちゃんは俺の表情に気が付く様子は無い。
あぁ、何という事だ。神は死んだのか――一瞬そう思ったが、直後、いや、あの少年みたいな見た目をした『神』は死にそうにないな、という事に気が付いた。てか絶対に死なない。多分、今は神様業をサボってるんだろう。で、その影響が俺に降り注いでいると。
(そう考えると、ある意味ロクでも無いな。『神』って……)
「それじゃあ、早速だけど中庭の雑草抜きを頼めるかい? 最近は腰痛が酷くて、あまり手入れが出来なくて困ってたんだよ」
俺の肩を十五、六発ほどしばいた所で満足したのか、中庭へと先導を始めるおばちゃん。
「あ゛……はぃ」
肩を苛む痛覚。それを気合で抑え付けしわがれた声で答えた俺は、おばちゃんの背後を付いて歩く。
(……痛い。肩が痛い……まさか、脱臼おこしてないよな、これ?)
そんな事を考えていると、おばちゃんが立ち止り、言った。
「ここだよ。ここがうちの中庭さ」
おばちゃんの体は横に大きい上に、身長が俺とあまり変わらない。このままでは前が全く見えないので、俺はおばちゃんの体の更に横から頭を出し、前方にあるであろう”中庭”を見た。と、そこに広がっていたのは――雑草、下草、ぼうぼうに伸びた『緑色の塊』。その数々が、およそ5畳ほどの広いとも狭いとも言えないスペースに所狭しと生え盛る光景。
到底”中庭”と呼べない惨状を晒した、”庭だったであろうナニカ”だったのである。
「……マジですか」
戸惑い、慄き……そんな感情を織り込んだ俺の呟き。
それを聞いたおばちゃんは、恰幅の良い胴体を揺らしながら「アハハ!」と、豪快な笑いを飛ばす。
そして、おばちゃんは掃除用具がすぐ隣のロッカーに入っている事。昼食は宿の方で提供する準備があるから心配いらない事。その他一通りの伝達を終わらせると、早々にカウンターへと戻ってしまう。
「……マジか」
一人その場に残された俺は、改めて中庭の惨状を視界に収め、呻き声を漏らした。
雑木林と見紛う程の雑多な光景を前に、やる気がごっそり削ぎ落されていく。
何度か中庭を見ては視線を逸らし、見ては逸らし――を繰り返し。やっぱ”あれ”が中庭なんだなぁと。本来なら絶望するところだが、一周回って変な感慨さえも抱いた。
「マジかぁ……けど、依頼受けちゃったしなぁ……やるっきゃないか」
まぁ、こうして面倒だーって駄々をこねてるのも時間の無駄だし。やることやらないとお金は貰えない。お金が無ければ、今日こそ野宿確定だ。
多分、『紅蓮聖女』のクランホームに駆け込めば泊めてくれるだろうけど、彼らの好意に一方的に浸っているのは良くない。それじゃ、『悠久の館』でシェリルさんにお世話になり続けるのと全然変わらないし、あそこを出立した意味が無くなってしまう。
「……やるか」
一つ大きな溜め息を吐き、俺は庭掃除に取り掛かった。
――この後、無茶苦茶庭掃除した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
夕方。
何とか依頼を達成し、冒険者ギルドに顔を出した。
街が夕焼け色に染まるこの時間帯は、依頼完了の報告を行う冒険者達が一番多い時間帯のようで、依頼受付カウンターには数多くの冒険者達が長い列を作っている。
俺もそんな彼らに習い大人しく列に並んでいると、十五分ほどで番が回ってきた。
「こんばんは。昨日ぶりですね。ユウトさん」
「はい、アリサさん」
丁度カウンター業務を担当していたらしいアリサさんに挨拶を返し、俺は浮かんでいる文字全てが黄色に変色した依頼書と自分のギルドカードを彼女に提出する。
「依頼完了を確認しました。では、こちらが依頼の報酬5000イェンです」
「ありがとうございます」
――それにしても、”イェン”って、なんだか”エン”に似てるな……なんて。そんなどうでもいい事を考えつつ、アリサさんから渡されたジャラジャラ音が鳴る小巾着を受け取り……その刹那。俺は、自分の丁度胸の辺りが小さく光った――そんな気がした。
(……なんだ? 今の)
光った、よな。俺。
……いや、でも本当に光ったのか?
目の前のアリサさんには目立った反応は無い。
彼女は現在、一瞬黙りこくってしまった俺を見て不思議そうに首を傾げているだけだ。
彼女は俺の胸が光った瞬間、確実に俺を見ていたはず。だから、本当に俺が光っていたのなら、彼女から何かしらのアクションがあるはずなのに……。
「ユウトさん、どうかなさいましたか?」
「――あ、あぁ。……いや。なんでもないです。はい」
とりあえず、この問題は横に置いておこう。そして、後でじっくり考えよう。
そう、思いながら。お金の入った小巾着袋を革のポーチに仕舞った俺の耳元にアリサさんがさりげなく口を寄せてきて、小さく囁いた。
「現在、ギルドマスターがここから離れた場所でユウトさんを待っておられます」
「ナタリアさんが……俺を?」
「はい。なんでも、ちょっとしたご提案があるのだとか。詳しい話は本人から直接言い渡すとのことですので、こちらへ向かってください」
アリサさんが二つに折られたメモ用紙のような物を差し出してきたので、俺はそれを受け取った。ちらりと中を見ると、そこには”ハイドラ亭”という文字。店の名前っぽいこの単語にどこか見覚えがあるな……と違和感を覚えていると、この”ハイドラ亭”が、ファニールに貰った資料に記載されていたカフェの名前である事を思い出す。
確か、全席が個室になっている落ち着いた雰囲気のカフェだとかなんとか。
――ナタリアさんはそんな場所に俺を呼び出して、何を話すつもりなのだろう。
疑問は尽きないが、彼女には昨日の内に幾つか借りを作ってしまっている状態だ。呼び出しには馳せ参じるべきだろう。
「……分かりました。この後、ここへ寄ってみます」
「目的地までの道程の説明は必要でしょうか?」
「いや。大丈夫です」
アリサさんの質問に手を軽く振って返答し、彼女と軽い別れの挨拶を交わした俺は、人でごった返している冒険者ギルドを出た。その足で『豊穣の宿』に戻ると、シングルの一番安い部屋を1000イェンで確保する。
そして胸中で様々な疑問を抱きつつ、街の南西部にあるという”ハイドラ亭”を目指して走り始めた。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
次回もよろしくお願いします!




