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森の中の孤軍奮闘

一週間ほど更新が途絶えておりましたが、およそ1万文字ほどのストックが出来ましたので、今日より三日間連続更新します。


*ステータスにおいて各魔法に『スキルレベル』の概念を追加しました。

 今更説明するまでも無いだろうが、森の中は危険に満ちている。

 毒虫やら毒草やらがわんさか存在している上、地形がやたらと凸凹しているからだ。

 まぁ、毒虫や毒草は、虫や雑草に不用意に近づかないようにしておけば問題ないし、地形に関してもシェリルさんから教わった、『これであなたも森マスター! 森を歩くにはどうすればいいの? 教えて、シェリル先生! 講座』を思い出して歩けば万事解決だ。


 ……講座の名前はもう少しどうにかできなかったのかという疑問は絶えないが、そこに突っ込んではいけない。勿論、俺もシェリルさんに指摘した。だが、彼女は何故か頑なにその名前を変えなかったのだ。それどころか、


『文句がおありでしたら、私が相手になりましょう……』


 と訳の分からぬ闘争心まで見せ始めたので、その時点で名前の変更は諦めた。ファイティングポーズを取るシェリルさんはマジで怖かった。それにしても、何であんなにあの名前にこだわってるのだろうか。……いや、どうでもいいか。


 兎にも角にも、森の中を歩く事自体はそこまで障害にはならない。講座自体は三日のみの開催で、その間に全てを習得できたわけじゃないけど、何も知らずに歩くよりは格段に楽になっていると断言できる。


 故に、差し当たっての大きな問題は、狼――グレイウルフを始めとした凶暴な魔物達だ。

 遥か昔の情報なので鵜のみに出来るわけじゃないが、シェリルさんの話によると、この森には、グレイウルフの様な狼系、ファンタジーではお馴染みの『ゴブリン』を代表格とする『亜人』系、と大きく分けて二種類の魔物が存在しているらしい。

 どちらも厄介な魔物だが、特に狼系の奴らはとりあえず数が多い上に、嗅覚が発達しているせいか、人がいる場所に好んで寄っていく習性がある。つまり、この森を進む以上、亜人系はともかくとして、狼系の魔物との遭遇は回避できないという訳で――


「……って、そんなことを考えてる内に出やがったな」


『ガルルルル……!』


 行く手から一匹のグレイウルフが姿を見せる。……いや、それだけじゃない。


『ガルルルル……!』『ガアアアアア!』


 更に俺の左右、それぞれからさらに一匹ずつの狼が姿を現す。

 最初のと合わせて、合計三匹。――囲まれた。

 全身灰色に染まった体長一メートル程の狼達は俺の周囲を囲むように立ち止まると、その強靭な四肢を固く緊張させ、こちらを上目で睨みつけてきた。三方向から感じる、鋭い視線。その様子から伺うに、どうやら、こちらを逃がすつもりは毛頭ないらしい。


「……やるしかない、か」


 俺は腰に差した鞘からナイフを抜き放ち、腰を落として低く構えを取った。

 数日前には危なげなく勝利したとはいえ、初日には最後の最後に油断して敗北した相手。それが同時に三体。……普通に考えるなら、絶体絶命だ。

 けど、この数日で俺自身の戦闘能力はそれなりに底上げされている。


========

ユウト・トガミ

種族:ヒューマン


Lv3

MP:66/66

STR:22

DEF:19

AGI:33

INT:25


スキル

「魔法才能:全」「無詠唱」「ステータス隠蔽」「鑑定」「魔力効率上昇(大)」「魔法複合(#”&)」「???」「火属性魔法:Lv3」「水属性魔法:Lv2」「闇属性魔法:Lv4」「光属性魔法:Lv2」「空間魔法:Lv3」「結界魔法:Lv3」

==========


「俺だって、この三日間、ただただシェリルさんにボコボコにされてた訳じゃないんだよ……ってね」


 体中を『怖い』という萎縮と、戦闘時特有の高揚感が包み込んでいく。

 正確には知覚できないけど、その割合は大体2:8といったところか。

 ……良い傾向だ。自分が傷つく恐怖心を、今は上手く抑え込めている。相手に対して委縮していなければ、動きは固くならないし。勝率はグンと上がるはずだ。

 だが、まだだ。自分状態が万全だとしても、まだ安心はできない。

 俺は胸中で強く念じ、一つのスキルを発動させた。


(――『鑑定』)


=========

グレイウルフ


Lv8

MP:13/13

STR:16

DEF:12

AGI:21

INT:3

========


 視界の端に小さく表示が浮かび上がる。

 これが、スキル『鑑定』のもう一つの力――相手ステータスの看破能力。


 このスキルを使った理由は単純明快。本来は知りようも無い敵の能力を知ることが出来れば、それだけで戦闘で大きなアドバンテージを得ることが出来るからだ。

 まぁ、このスキルの力も万能という訳では無く、『ステータス隠蔽』を持っている相手には無効化されちゃってステータスを見る事は出来ないんだけど……具体的にはシェリルさんとか。後は、俺も同じスキルを持っているので、敵が『鑑定』を使って来ても自分のステータスを見られないように隠蔽する事が可能だ。


 尚、シェリルさんによれば、スキル『ステータス隠蔽』は所持者がかなり限られているのだという。こうしてステータスを見る事が出来た事から考えるに、この狼たちも『ステータス隠蔽』は持っていなかったらしい。


 うーん、それにしても……、


「こいつら、昨日戦った奴よりもレベルが高くなってるのか……」


 昨日戦った狼のレベルは……確か『6』だったはずだ。対して、今回の三匹は総じて『8』。

 レベルアップ時のステータスの能力値の伸びは同じ種族、同種の魔物でも個体差は発生する。だから、一概にレベルが高い方が強いとは言い切れない。

 しかし、レベルが高いという事は、そのレベルに至るために多くの『戦い』を潜り抜けてきたことに他ならない。つまるところ、こいつらは昨日の狼よりも戦いを知っている可能性が高いのである。

 じゃあ、どうにかしてこの戦いを避けられるかといえば……実質それは不可能に近い。


 何故なら、俺には、まだ森の中でこいつらの追跡を振り切れるような足の速さは無いからだ。

 確かに、ステータスの数値だけを見れば、この狼たちよりも俺の方が圧倒的に足が速いように見えるかもしれない。だが、断言できる。俺は今ここでこいつらを振り切る事は出来ない……と。


 ――そう断言できる理由は主に三つ。


 ある程度教え込まれたとは言っても、俺はまだ森の中を完全に歩き慣れている訳では無いという事。


 逆に狼たちは森の中を走り慣れているだろうという事。


 そして――俺がまだ自分の体を完全に使いきれていないという事。


 シェリルさん曰く、ステータスに表示されているパラメーター値とは、その時点における当人の『成長限界点』を数値化したもの……らしい。


 ――そう。この世界のステータスのパラメーター値は、よくあるRPGゲームのそれとは決定的に違う。ステータスという形で羅列されたそれらは、現時点の純粋な『能力値』を表している訳では無いのだ。

 レベルを上げ、ステータスのパラメーター値――『成長限界点』を伸ばし、その上でありとあらゆる経験を積んで成長する……そうすることによって、初めて人は強くなれる。


 しかし、俺には経験が足りない。俺はまだ自分の成長限界点を伸ばしただけで、その限界点まで成長を遂げている訳では無い。

 だから、俺には、まだ森の中でこいつらを振り切れる程の足の速さは無い。

 故に、ここでこいつらを打倒しなければならない。この、昨日戦った奴よりも強いであろう、狼たちを。


 だったら――。


「――速攻で片を付ける」


 刹那、俺は動き出す。

 地を蹴り、狼たちの包囲網を一気に突き破った。

 確かに、俺にはこいつらを森の中で振り切るだけの速さは無い。けど、今みたいにまだ余裕のある状況なら、一瞬だけこいつらの視界から外れる事は出来るはずだ。


『――ガアアア?!』


 唐突な動き出しによってこちらの姿を見失ったのか、狼達は素っ頓狂な声を上げる。

 その声に釣られてチラリと後ろを振り返る。

 三匹の狼は辺りとチラチラと見回すと、すぐに俺を見つけたらしく、三匹揃って『ガルルル……』と低く喉を鳴らしながらこちらを睨みつけてきた。

 そして、三者三様の雄叫びを迸らせて、同時にこっちに突っ込んで来る。

 俺はそれを見て立ち止まり、奴らの方へ右手を向けた。続けて魔法の詠唱を開始する。


「『蒼と青、我が心を映す水面、我が意に従う水球と成りて、清浄せよ』」


 詠唱が完了するのと同時、空中に水球が生成される。直径およそ50センチ。数は三つ。

 初級水属性魔法――『ウォーターボール』。その、三連射。


「――行けッ!」


 俺は水球を狼たちに向かって一つずつ射出した。

 放たれた水球は木々を避け、無秩序な軌道を描きながら、三匹の狼にそれぞれ着弾。

 次の瞬間、三つの水球は水風船が破裂するように爆発する。バンッ! と短い破裂音が鳴り響き、その爆発で地面の土がいくらか巻き上げられ、砂埃土埃が発生。狼たちの姿を覆い隠し、

 ――次の瞬間、狼が三匹共に黄土色の壁を突き破り、こっち側に姿を現した。

 自分の体に迫る鋭い牙を生やした三つの咢を認め、俺は舌打ちした。


「やっぱ水属性魔法じゃ火力が足りなかったか……っ!」


 水属性魔法はその名の通り、水を操り行使する事を主体とした魔法だ。その性質ゆえ、純粋な攻撃力は火属性魔法よりも劣ってしまう。

 だが、火属性魔法はここでは使えない。ここは森の中、可燃性の物質に囲まれた世界。そんな場所で火を使えば、延焼に延焼が重なり、辺りはたちまち火の海になってしまう。

 それを懸念して水属性魔法を選択したのだが……やっぱり一撃で沈めるには火力が足りなさ過ぎたらしい。


「こうなるんだったら、せめて、水属性魔法より火力の高い風属性や地属性の魔法も覚えとくべきだったな」


 自分の失策に愚痴を吐きながら、俺は飛び掛かって来た狼たちと近接戦闘を開始する。











今回も読んでいただき、ありがとうございました。

次回は前書きにある通り、明日更新します。

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