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君が俺の前からいなくなった日の話

小説家になろうをご利用のユーザーの皆さま、お久しぶりです。あるいは、始めまして。そして、明けましておめでとうございます。

マジックライフ(以下マクラフ)シリーズを執筆しております、二十字悠です。

この度は拙作、『マジックライフ! ~異世界で調合師になった少年は英雄への道を歩む~』への興味を持ち、読みに来てくださって誠にありがとうございます。


こちらの作品は、以前自分が執筆しておりました『マジックライフ!~『生産職』兼『戦闘職』の異世界生活~』の大幅改稿&大幅加筆版です。

物語の大筋な流れは前作とは変わりませんが、新たな場面、新たな展開、新たな登場人物等が加わっておりますので、ある意味前作とは全く違う物語となっています。

故に前作を読んだことがある方でも、新たな気分でこの物語を読んでいただけると思っています。


さて、このマクラフシリーズは一人だけの主人公を描く物語では無く、全四部構成となっておりまして、一部一部それぞれで同じ世界、同じ時代に生きる別々の主人公を描く物語となっています。

つまるところ、この物語に主人公は四人存在しており、今回の『~異世界で調合師になった少年は英雄への道を歩む~』編は「戸上裕翔」という少年に焦点を当て、展開していきます。

この「戸上裕翔」という少年がどのように成長し、どのような活躍を見せるのか。そして、他の部の主人公たちとどのような絡みを見せるのか。その辺りに注目して読んでいただければと思います。


では。

長くなってしまいましたが、前置きはこの辺りで終わりといたしまして、本編をお楽しみください。

(2018/1/1)


*第一部にあった”回想シーン”を削除しました。

 削除に至った理由としては、今後の物語において確実に必要である訳では無い上に、物語の導入部分としてはあまりにも唐突過ぎるシチュエーションであると思ったからです。

 突然の削除となり、本当に申し訳ありません。深くお詫び申し上げます。

 ――”忘れられない記憶”。

 そう呼ぶに値する記憶は俺がこれまで十六年間生きてきた中でも片手で数えられるぐらいの数は存在しているが、その中でも一番鮮明に覚えているものはと問われると、仲が良かった幼馴染が行方不明になった時の事が真っ先に思い浮かぶ。


 当時の状況を少しばかり詳しく説明すると、今から時間を六年程遡ることになる。


 季節は夏に突入する少し手前。丁度、夏特有の蒸し暑さが顔を見せ始めた頃。


 六年前のその日、戸上裕翔――俺が目を覚ますと、見覚えのない天井が目の前に広がっていた。



 流石にその時は度肝を抜かれたのを今もよく覚えている。


 すぐさまに俺は毎日寝起きしているベッドとは違った寝心地のマットレスから跳ね起きて、辺りを伺った。


 パッと見る限り、どうやらそこは病室らしい。今の今まで俺が寝ていたベッドの側には二人そろって齢三十五を迎えたばかりの両親がパイプ椅子に座っていた。


「「――――裕翔(ゆうと)!」」


 開眼一番、名前を呼びながら両親が思いっきり飛びついてくる。


 こちらを押しつぶしてしまいそうな勢いに咄嗟の抵抗を試みるが、幼い子供が大の大人二人に敵うはずも無く。第二次成長期を迎える前の小さな体を大人二人がかりで抱きしめられ、息苦しさすら覚えてしまう。


「お父さん、お母さん……苦しいよ」


 そうアピールするものの、一向に離れる気配のない両親に俺の言葉が届いた様子はない。それどころか「良かった……本当に良かった……」と、二人して意味の分からない言葉を吐き出すばかりで、何故自分がこんな場所にいるのかといった状況を把握することが出来なかった。


 結局、両親が落ち着いて俺を解放してくれたのは、五分後のこと。尚、その間に俺は二人に力一杯に抱きしめられ続けたせいで危うく酸欠になりかけた。


「……ねぇ、何かあったの? というか、そもそも何で俺は病院で寝てるのさ」


 二人がようやく落ち着いて厚い抱擁から解放されたのを見計らい、問い質す。


 前日は確かに自分の部屋で寝ていたはずだし、真夜中に起きてどこかを徘徊していたなんて不良みたいなことをようやく年齢が二ケタになったばかりの俺がする筈も無かった。


 あるいはまだ俺は夢の中にいるかもしれないと一瞬疑いもしたが、それにしては感覚がやけにリアルだ。到底ただの夢で済ませられるレベルでは無かったし、何となくその辺りは察することは当時の俺にも十分に可能だった。


「ねぇ、何か言ってよ!」


「………」


 訴えかける俺を両親は驚愕の目で見つめてきた。


 何故だ。何故俺をそんな目で見つめる。そう思っていると、母さんがガラケーの画面を開いて俺に見せつけてくる。


「裕翔、時間を見て」


「え……うん」


 母さんに促されるままに携帯の画面、左上に表示されているデジタル時計を見た。


 現在時刻は……午後19時。

 午後19時といえば、普段は学校も終わり、家で宿題でもしている時間帯だ。


「何でもうこんな時間なのさ」


「……裕翔」


 文句を垂れる俺の両肩を母さんはがっちりと掴み、真正面からこちらの瞳を見つめてくる。


「落ち着いて、よく聞いて。――裕翔。あなたは今日、朝はちゃんと起きて、ちゃんと時間通りに学校に行ったわ。今は記憶が混乱しているようだけど、これは確かなの」


 ――母さんの言っている言葉の意味が良く理解できない。


「それでね、学校に登校するその途中であなたは――意識を失って倒れたらしいわ」


「……えっ?」


「倒れた所を見た人はいないし、裕翔の体にはどこにも異常が無かったから、お医者様でもあなたが意識を失った理由は分からないんだって」


「嘘……だよね?」


 あまりにも唐突な展開に頭がついていかない。

 俺は健康そのものなはずで、持病なんかも持っていない。なればこそ、本当に俺が倒れたのであれば何かしらの理由がある筈だが、お医者様にはそれが分からないのだという。


 そして目撃者が一人もいないというのかどうにも腑に落ちない。俺が通学路にしていた道は人通りがそれなりにある場所だった筈。それが今日に限って誰も見ていなかっただなんて……到底信じられる話じゃない。


 疑問はそれだけに留まらない。


 俺には毎朝一緒に登校している幼馴染の少女がいたはずなのだ。

 少女の名前は『篠咲(しのさき)美弥(みや)』。


 肩口で切り揃えられた黒髪。同学年の中でも一際整った容姿。無口で、どちらかと言えば引っ込み思案な性格をしておりーー実は俺が密かに恋い焦がれている女の子。


 保育園に通い始める前からの付き合いである彼女と俺は、互いを『ユウ君』『みーちゃん』と呼び合っており、家が近いということもあって毎朝一緒の時間に連れ立って学校に行く仲だった。


 彼女と今日に限って別々の時間に登校していたなんて、そんな訳があるまい。


 そう俺が指摘すると、母さんはそっと目を伏せた。


「……裕翔――」


 母さんは何か言いづらそうに数秒逡巡した後、言った。


「美弥ちゃんは今朝、あなたと一緒に学校に行った後、何処に行ったか分からないの」


「えっ?」


 今、母さんは何て言ったんだ?


 みーちゃんが何処に行ったか分からないって言ったのか?


 ってことは行方不明?


 ……そんなまさか。


 唐突過ぎるし、いったい全体、あの人通りが多い所しかない通学路のどこで行方不明になんてなるのか。


 あり得ない。あり得ないはずだ。そう自分に言い聞かせる。


 ……けど、何故か母さんの言葉を否定できなかった。


 心のどこかに『それは本当なのだ』という、確信めいた『ナニカ』が根付いていたから。


「今も警察の方や、美弥ちゃんのお父さんお母さんも必死に探してる。でも、美弥ちゃんはまだ見つかっていない……裕翔はその時の事は何も覚えてないの?」


「お、俺は……」


 母さんの言葉に促され、記憶をたどる。けど。


 ――何も覚えてない。


 比喩表現とかそういうわけじゃなくて、本当に何も覚えちゃいなかった。


 というか、今朝起きた時の記憶が無い。


 母さんが言うように、いつも通り起きて、いつも通り朝食を食べて、いつも通りに家を出る……そういった一連の日常の記憶が今朝のものに限っては残っていないのだ。


「どう? 何か覚えてる?」


「分からない……分からないよ……」


 しばらく頭を捻ってはみたが、結局俺は何があったのかを思い出すことが出来なかった。


「そう……」


 母さんは落胆の表情を滲ませながら肩を落とした。


 しかし、すぐに頭を振ってこちらの目をのぞき込んでくる。


「とりあえず、裕翔は今は寝ておきなさい。理由は分からなくても、裕翔が気を失った事は事実なんだから」


「でも、みーちゃんが……!」


「ダメよ」


 ぐずる俺の言葉を母さんは一刀両断にする。


 そして母さんはどこか悲しそうな表情を浮かべると。


「今は無理をしてはダメ。警察の方には母さんが言っておくから。まずは自分の体を万全にしておくこと。いい?」


「……分かった」


「もう少ししたらお医者さんも来ると思うから。とりあえずそれまでは寝ていなさい」


 ――納得は一切できなかった。だが、母さんが言っている事が正しいのも事実だ。


 小さな俺に出来る事なんてたかが知れているし、この状況下で俺に何かが出来るわけでも無い。

 (はや)る気持ちはあった。得も言えぬような焦燥感が心の中を支配していた。


 けど、何もできない。その事実は変わらないし、変えようがない。


 齢十にして、俺は自分の無力を心底痛感したのである。


「……はい」


 肯定の意を返した俺は再びベッドに潜り込んだ。


 そんな俺を横目に、母さんと父さんは病室を出ていった。


 ギギッ、と小さく音を立てながら、病室の扉が閉まる。


 それを見届けた俺は、改めて病室の天井を見上げた。


 本当に何もない、ただただ真っ白な天井がそこに広がっている。


 その光景は、まるで今の俺の心情を具体的に描写しているかのようだった。









今回は読んでいただき、誠にありがとうございました。

次回の更新は明日の同じ時間帯になる予定です。

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