005
―――息が苦しい……
イズナのいた空間から転生し意識が戻ると、そんな感覚があった。
いつだったか、インフルエンザで高熱を出した時のような感じだ。
「うう……」
体を動かそうとすると、そんな声が出た。
だんだんと今の状況が理解できて来た。
俺はラグナという名前で、現在は8歳。0歳からの転生ではなく、ある程度育ってから記憶を取り戻すというような感じだった。
記憶が戻り、その負荷によって高熱を出しているようだ。
人格は2つに分かれているわけではなく、俺がラグナであり智也、という感じ。
記憶は戻ったが、やはり今までの生活が元の世界とはかなり違う事もあり、多少の混乱はある。だが、ラグナは勤勉だったようで混乱を解くだけの情報を持っていた。
「早く良くなりますように」
そう聞こえたと思うと、頭に冷たい感触がゆっくりと乗せられた。
状態から考えると、タオルだろう。
「ふふ、気持ちよさそう」
さっきは意識していなかったのだが、この声は母さんのルナだ。
「マ、マ……」
ふいにその言葉が口をついた。
そして、そんなことを言ったのが自分だと気づくと、かなり恥ずかしくなった。
年齢が30歳を過ぎたおじさんが、自分よりも年下の女性に「ママ」とかおかしいにもほどがある。それに、こんな年で「ママ」と呼ぶような奴は男じゃない。
「あら、そう呼ばれるのも久しぶりね」
母さんはそう言うと、俺の右手をそっと握ってきた。
俺の手は転生する前とは違い、かなり小さくなっていた。そのせいで、母さんの手のひらにすっぽりと収まってしまう。
「こんなに頑張ってやっていたのね……」
俺の手はところどころ硬く豆が出来ていた。数ヶ月前から父に剣や槍の使い方を習っているのだ。
最近は父さんについていくことが多くなり、母さんと話すことは少なくなっていた。
頭からタオルが取られ、近くで水の音がする。
そしてすぐ、頭に冷たくなったタオルがのせられた。
そのおかげもあってか、最初の息苦しさはかなり軽減されていた。
俺はゆっくりと目を覚ました。
「かあ、さん」
目の前には見慣れている感覚のする母さんの顔があった。
みなさんこんにちはyoshikeiです。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。