003
温かく心地よい場所で目を覚ました。
驚くほど体が軽い。こんなに体が軽いと感じたのは初めてだ。
ワンッワンッ
犬の鳴き声が近くから聞こえた。その直後、近くに人の気配が現れた。
「あ、目を覚ましましたね」
なんだか聞いたことがあるような声だった。
「あら、まだ完全に起きるまでには時間がいりそうですね。先にご飯とやらでも作ってみましょうか」
声が遠ざかると、学食の調理室の前の廊下にいた頃と同じ音が聞こえ始めた。
「あの、もうちょっといい表現はなかったんですか? 多少はあなたの世界の勉強をしたつもりですけど、そんな表現をする人はいませんでしたよ?」
俺に対する回答なのだろが、いい表現と言われても他に思い当たる音がない。
「それは……なんか、すみません」
だんだんと記憶がはっきりしてきた。
そういえば、別の次元だとか言っていたような気がする。
「あ、覚えていたんですね。よかったです」
それと、寝る前に懐かしい言葉を聞いたような気がする。
「それは、覚えてなくていいです。むしろ、今思い出されると恥ずかしいので、覚えていても考えないでください。お願いします」
なんだか切実な感じで訴えてきているのが分かったので、考えるのをやめた。
とりあえず、起きたほうが良いだろう。
そう思い、俺はゆっくりと目を開ける。
「あ、もう大丈夫そうですね。それなら早く起きちゃってください。せっかく作ったご飯が冷めちゃいますよ」
目を開けると、真っ白なよくわからない空間にいた。
上下左右どこも同じ完全な白で包まれた不思議な空間。首を回すと、机と台所があり、少女がエプロンを付けて料理を持ってこようとしていた。
「君は?」
声が出ることに安心しつつ、見知らぬ少女に名前を尋ねた。
「え? 名前ですか? そうですね……じゃあ、イズナでいいです。私のことはそう呼んでください。平坂 智也さん」
自己紹介をした記憶は……
と考えたが、イズナは思考を読むことが出来たので、ついでに俺の記憶も読んだのだろう。
「さ、まずは腹ごしらえをしないとですね~」
なんだか背面に花が見えるような雰囲気を醸し出しながら、次々と料理を運んでいた。
「起きてそこに座ってください。今並べますから」
俺は促されるまま席に着く。
「それじゃ、手を合わせて、いただきます」
「い、いただきます」
箸を持ち一口目を口に運ぶと、それ以降は一心不乱にご飯をかきこんだ。
「ごちそうさまでした」
俺が食べ終わるころには、彼女はすでに食べ終わってニコニコとこちらを見ていた。
「その……とても、おいしかった、です」
「それはよかったです」
こんなにおいしいご飯を食べたのは久しぶりだった。
そもそも、誰かと食べるなんて職場ではなかったし、学生の時もあった記憶がほとんどない。
―――もしかしたら、この子と食べたからなのかもしれないな……
そんな考えが、ふと頭をよぎった。
みなさんこんにちはyoshikeiです。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
今回で本編に入る予定だったのですが、予想外にも長引いてしまいました。
どれもこれも、智也が極端すぎて、イズナが可愛すぎるのがいけないんです!
まあ、そんな作者の戯言はさておき、次話で必ず転生させます。
今後ともよろしくお願いします。
次回の投稿は11月24日正午です。