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陽だまりのような君

作者: eiji

終了のベルが鳴り響く


みんな作業着から着替えて家路につく。

「お疲れした〜」

朝8時から夕方5時まで、働き通しの毎日。

へとへとになり最後の角を曲がる。

安アパートの二階の端の部屋に灯が見える。

その灯が俺の心を癒す。

疲れなんかどこかに行ってしまう!


「ただいま」

疲れてなんかない!って聞こえるように大きい声で玄関を開ける。


「おかえり」

台所から お疲れ様!と聞こえるように優しくその人は言う。


弁当箱を台所へ持って行き「ごちそうさま」「お粗末様でした」

これが、いつもの一連の流れだ。


今日、俺…仕事したよな?って思うくらい疲れなんて何処かに飛んでいる。



彼女と知り合ったのは去年の暮れ

年の瀬も押し迫ってきた時だった…


商店街が年末の福引きで盛り上がってる。


俺とすれ違い際に倒れる女性

「大丈夫か?」

抱え起こすと

「お腹が…」

すごい汗をかいている

野次馬が集まってくる…

「誰か救急車!早く!」

俺は、その人を抱えたまま叫ぶ


「母体の方は大丈夫なんですが…」

医者が言う。

(母体?妊婦さんだったのか…)

「お腹の子は残念ながら…」

「そうですか…」


成り行き上 俺が一緒に救急車に乗って来ていた。


「あの人は?」

「ん?旦那さんじゃないんですか?」

「違います 偶然通りかかり…」

経緯を説明した。


病室に入ると その人は薬が効いたのか寝ている。

よく見ると 俺と同じくらいか…それくらい


医者が出て行くとその人は目を開けた。

寝ていなかった…


「ありがとうございました」

俺は頷くしか出来ない…

母親として我が子が亡くなった…

この世に現れなくても我が子に違いはない

その人の気持ちを考えると何を言っていいかわからなかった。


「あっ…旦那さんに連絡しないと」

「いません…」

(えっ?だって妊娠してたって事は…)

「子供が出来たって言ったら音信不通に…」

ドラマの中の話だけだと思ってた…



俺は気になり次の日御見舞いに行った。

院内が騒然としている。

何かあったみたいだ。


昨日の病室に入ると誰もいない。

外が騒がしい…

窓から下を見るとみんなこっちを見てる…

いや…目線はその上


上に目を向けると あの人 が居た…

(な〜〜んだ あんなところにいた…)

「ん?」


俺は屋上に駆け上がる。

フェンスの向こう側にその人はいる…

フェンスのこっち側に居る医者達が説得している。


遠くから聞こえるサイレン

レスキュー隊か?


昨日の それ で命を絶とうとしてるのか?


彼女が居る場所はフェンスの角付近

俺は逆側からフェンスの外に出る。

気付かれないように その角付近に近づく。


俺は高所恐怖症…それを忘れていた。

下ではレスキュー隊がエアマットを準備しているのが見えた。

早く!心でそう叫んでいた。


昨日、母体 だけ 助けたんだ!

その人が目の前で 今度は自ら絶とうとしている。


俺は、下を確認してから

「どうした!飛べよ!本当は怖いんだろ?」

俺に気付き

「あんたに何がわかるのよ!なんで昨日助けたのよ!」

完璧に我を忘れている。

「わかるさ!俺だって死にたくなる事もある」

「今だって 昨日助けた人に死なれたら 助けた事を悔やんで死にたくなるさ」

「一人で飛ぶの怖いなら一緒に飛んでやるよ」

説得とは思えない事ばかり言ってる。


少しずつ、声を掛けながら少しずつ距離を詰める


「子供が出来た途端、態度を変えられて、一人で産もうとしたのに…もう生きて居てもしょうがないでしょ!」

後少しで…手が届く…

「ありがとう…さようなら」

その人は 何もないところに身を委ねた

「馬鹿野郎〜!」

俺は、咄嗟的に、一緒に飛んでいた…

空中で彼女の頭を抱えるように捕まえた。

その瞬間 バフッ! エアマットに包まれた。


彼女は震えている。

俺は彼女の頬にビンタをした。

俺にしがみついて泣いている。

彼女に怪我はなかった。

俺の肩が脱臼していただけだった…



脱臼の治療が終わり帰ろうと思ったが、気になり彼女の病室へと足が向いていた。

病室の外にはボディガードのように看護師さんが…まぁ 無理もないだろう。

さっきの 今 なのだから…


病室の中からは、怒鳴り声が聞こえてくる。

年配の男が彼女を叱っている。いや…怒っているのだ。

「おまえはどこまで 親を困らせれば気がすむんだ!」

父親か…

「あんたに関係ないでしょ!」

「どこの馬の骨かわからない 子供を産もうとしたり、挙げ句の果ては自殺未遂 いい加減にしろ!」

「俺の顔に泥を塗るな!」


「あの〜…」

「誰だ きさま!さてはこいつの…」


「違うよ!この人は昨日も今日も私を助けてくれた人!」

「…全く!余計な事して!」

父親が言った…自分の娘を 二度も 助けた俺に


「余計な事?」

「余計な事とは、どう言う意味かな?」

俺は こいつ を殴りたい

「おまえが余計な事をしなければこいつは…」

バシッ!

外に居た ボディガード看護師さんが 横暴男に平手打ちをした。

ボディガードに 選ばれただけあって

体がデカイ…

丸太のような腕から飛びでた平手打ちは 横暴男を吹き飛ばした!


倒れているその男の前にしゃがみ込み

「あんたね、さっきから黙って聞いてればさ、自分の地位や名誉の心配ばっかり。馬っ鹿じゃないの?会社があんたに何してくれる?歳を取って、寝たきり呆け老人になったあんたの紙おむつ取り替えてくれんの?あんたが死ぬ時、看取ってくれんの?社長だかなんだか知らないけどさ、会社引退したら鼻もかけらんねんだよ!」


横暴男は恥ずかしそうに病室から出て行った。


丸太ん棒看護師さんは、グッ!と通常の二倍ありそうな親指を立て、慣れないウィンクをして持ち場に戻った。

彼女が笑った。


「なんだ、笑えんじゃん」

「なんか…馬鹿みたい」

「だな…馬鹿だな」


「二回も助けてもらって…」

「腐れ縁ってやつかな?」

「本当は怖かった…あんな高いところ 今考えると震えが止まらない…あの子はこの世を知らずに逝ったのに…」

「それは、神様からのプレゼントなんだよ。この世に生まれてくる事ばかりがいい事じゃないよ。お腹の中で生を受けた。そして、産まれる前に亡くなったけど…貴女はその子を一人で産もうとした、その気持ちを最高の思い出として、嫌な思い出なんて一つもなく旅だったんだよ」

彼女が笑顔になる。そして涙を流した。


「明日も来ていい?」

黙って頷く。

「もう馬鹿な考え起こすなよ!」

黙って頷く。

「んじゃ また明日」

目に涙をいっぱい溜めて笑顔で手を振る。


病室を出ると丸太ん棒看護師さんが下を見てる

軽く頭を下げ通り過ぎようとした時

背中にダンプカーが突っ込んで来たような衝撃と共に、俺は5m程飛ばされた…


「あんた良いこと言うね〜」

丸太ん棒が泣いていた。

話を聞いて、感動のあまりに手加減なしで、背中を ど突いた のだった。


不意を突かれ、呼吸困難になる俺…


(看護士のくせに、殺人未遂だ〜!)

怖くて、心で叫んだ…




次の日また病院に…

自分の脱臼の治療を受けて、彼女の病室へ向かう。


病室の前には 大木 が居なかった。


病室に入ると 外を ボ〜〜っと見つめていた。

「どう?」

俺に気付き ちょっと笑顔をみせる。

昨日までの 笑顔 とは違う…何かを忘れた…いや、忘れようとしているような笑顔。


「肩…大丈夫?」

「大丈夫だよ」

俺は腕を上げグルグル回してみせた。

「現場 が、病院だったからね!すぐ 入れて貰えばなんともないんだよ」

「ごめんね」

「別にもういいよ」

俺は笑顔を絶やさないようにつとめた。


「私なんかの為に一緒に飛び降りるなんて…」

冷静に考えたら、足の震えが止まらない…

「下にエアマット準備されたのわかったからね」

「そうなの?」

「えっ?気づいてなかったの?」

この人は本気だったんだ…

俺は、その気 はないと思ってた。

そんな簡単に命を絶つなんて事を…

それだけ周りが見えず、必死だったに違いない。

「もう大丈夫だから」

笑顔で言う。

安心させる為の 笑顔 ではないようだ。

「んじゃ 指切りだ」

「うん」

子供と約束をするように、指切りをした。


「明日、退院するよ」

「そっか 早いね」

「無理しなければ、退院していいって言われたの」

「良かったじゃん」

「でも…」

「どうした?」

「退院はしたいけど…帰るとこが…」

あぁ〜〜あの横暴男か…

「仲悪いの?」

「見たでしょ…あんなのと仲良くなんか出来ないよ」

「お母さんは?」

「やっぱり我慢出来なくて、私が小さい時に出て行った…」

「そっか…」


「俺んとこ…来る?」

何を言ってんだろう…

「いいの?」

えっ?冗談で言ったわけじゃないけど…

「いいんならお願いしようかなぁ…」

俺の反応を見てる…

「狭いよ…」

「全然大丈夫!」

決まってしまった…


翌日 迎え?に行く。

「どうも ご迷惑お掛けしました」

ちゃんと挨拶をしてる。

俺も頭を下げる…(何故だ?一番迷惑かけられたの俺だぞ…)そんな事を思いながら

丸太ん棒看護師さんが ウィンクしながら 倍の親指を立てるのを見ないふりをした。


「ただいま」彼女が言った。

「なっ!狭いだろ」

「ん〜〜…大丈夫」

何故考え込まずに「大丈夫」と言えない…

そんなに狭いかなぁ…


「ところで、衣類とかどうする?」

「そっか…」

「それだけでしょ?」

「うん…下着とかも」

「黒のレースの?」

あっ…

「何故知ってる!」

「だって…あの時 下からみえたから…」


そう あの時、病室から見上げた時に見えたのだ。


彼女は、顔を真っ赤にしてる。


「買いに行こう」

彼女はうつむきながら頷いた。

さて…いくらかかることやら…


「ふぅ…買ったねぇ〜」

ボーナス全部使わなくて良かった〜…

「箪笥の下二段使っていいよ」

「これは?」

「洋服ダンス使っていいよ!俺のほとんど入ってないし」


「あぁ〜〜!」

「どうした!何かあった?」

「お茶碗とお箸買い忘れた…」



彼女は料理が得意なようだ。

包丁の音が心地よく聞こえる。


最近会ったばかり

それも二度も危ない目にあった。

それが今、この部屋で料理を作ってる。

鼻歌を歌いながら


とても不思議だ。


「お待たせ」

今日は、彼女の服を買い、忘れた食器を買いに戻り、そして…食材を買いわすれた。


「ごめんな 退院祝いがインスタントラーメンで」

「いいから食べてみな」

いつもは 具も入ってない麺とスープだけ

今日は、冷蔵庫に入ってた在庫整理で具だくさん。


美味(うま)っ!」

「ねっ!一手間かけるだけで美味しくなるんだよ」

お世辞じゃなく本当に美味かった。

ラーメンをすすった瞬間

「あぁ〜〜!」

今度は何?

ってか…麺が器官に…

涙目になりながら

「どうした?」

「布団…」



今年も終わろうとしているこの時期に

ソファに横になりタオルケットとありったけのバスタオルをかけて寝る俺…


彼女に一組しかない布団を提供したのだ。


初めは

「一緒でもいいよ」と言ってくれた彼女

「そんなこと出来ないよ」と断る

「紳士だね」と笑う


さすがに寒くて寝付けない…


彼女も眠れないで居るみたいだ。

いや…泣いている?


「どうした?」

俺は、迷子の子供に尋ねるように 優しく聞いた。

「ごめんね、私 ちょっと前まで、このお腹に他の人の子供居たんだよね。それなのに 二度までも助けてもらった挙げ句に、こんな風に転がり込んでさ…明日 家に帰るね」

「気にしなくていいよ、居たいだけ居ればいいさ」

「何があったかは、大体聞いたし、俺も居てもらった方が助かるなぁ…あんな美味いインスタントラーメン食えなくなるの寂しいからなぁ…ヘックシュン」


彼女は布団を持ってソファに来て、俺の背中にくっついて「ありがとう」と言って寝た。


それから、数ヶ月が過ぎた。

テレビで毎年恒例の 桜の開花宣言 のニュース。

気温が暖かくなって来た証拠だ。


「今度の休みどっか行くか?」

「え〜!どこ?」

「ん〜〜 温泉でもどうだ?」

「いいね〜」


彼女とはあの日以来ずっと一緒に生活している。


彼女にとって 俺 がどんな存在かはわからない。

でも、俺は 彼女の中の 闇 を消してやろうと必死だった。忘れる事なんて出来ないはず…

忘れはしないだろうけど…それ以上の 光 をあてれば 暗闇 も少しは和らぐ!そう思ったのだ。

早い話…俺が 惚れて いた。

他の人の子供を宿し、裏切られ、その子供もこの世に生を受けなかった過去がある女性

そんなの全然気にする事ではない。



仲居さんの案内で部屋に入る。

安アパートとは違い広い部屋。


「うゎ〜!海が綺麗」

確かに…スゴイ景色だ。

半年前に 命を絶とうと した人は もう そこには居なかった。

それでいい


夕食前に海辺を二人で歩いた。

誰が見ても 俺達は 恋人 同士に見えるだろう。

打ち寄せるさざ波を追いかけ、逃げる、幸せそうな彼女を眺めている。


部屋に戻るとテーブルいっぱいに料理が並んでいる。

「よ〜し!食べるぞ〜!」

ここに来てからずっと笑顔を絶やさない。


闇に光が届いてるのか?

俺は光になってるのだろうか?

そんな事を考えていた。



「あぁ〜〜食べた〜!もう無理」

テーブルにはまだ、料理が沢山余っているが、もう入らない。


料理を下げに来た仲居さんが

「お布団敷きますんで、お二人で家族風呂でもどうですか?」

「家族風呂あるんですか?」

「お二階の方に、今日はご利用されるお客様が居ないんでいつでもご利用になれますよ」

「行こう!」彼女が誘う


ちょっと躊躇った…

一緒に生活はしている…けど…今まで一度も一緒に風呂なんて入った事もなければ 肌に触れた事すらなかった。


彼女が、「ほら、早く」と言わんばかりに 俺の腕を引っ張る。


なんの 躊躇もないみたいだ…


「先 入ってて、トイレ行ってくるから」

俺は、急いで服を脱ぎ体を流して湯船に浸かった。

安アパートの風呂とは違い、足を伸ばしても お釣りがくるほど広い。


彼女が入ってくる…

タオルで隠す事をせず そのまま の姿で

そこには いやらしさ というものはなかった…

ただ 綺麗だった。


「あまり見ないでよ」

照れてる

(なら何故隠さない…)

そう思いながら目を晒す


体を流し湯船に入って来た。

「気持ちいいね〜」

「のぼせそう…」

「そんなに魅力ある?」

彼女が笑いながら言う。

違う!いや…違うくないけど…入ってくるの遅過ぎなんだよ…俺入ってから時間がかかり過ぎていた。

俺はあまり長風呂が出来ないのだ…


窓を開けると そこには 手が届くほど近くに海が広がっている。

彼女も覗き込む

俺の背中に彼女の肌の感触が…

「ありがとう こんな素敵な旅館に連れて来てくれて」

そう言いながら後ろから抱きしめられた…

本気でのぼせそうになった…


部屋に戻ると広い部屋に布団が二組…

隙間なく並んで敷いてあった。


「私達どう思われてんだろう?」

「?」

「恋人同士?夫婦に見られてんのかなぁ?」

「さぁ〜どうだろうね」

「どう思ってる?」

「?…何が?」

「私達の関係…」

何が正解なんだろう?

俺的にはもう惹かれている…ただ…

彼女は暗い過去を持っている…別に それ を 俺は気にしてはいないけど…

彼女の気持ちはどうなんだろう?

下手に そこ に触れては彼女を苦しめることになってしまう。


「だ〜い好き!」

彼女が抱きついてくる。

「迷惑?」

「全然」

「ありがとう」と言ってキスをされた。


別々の布団に入り、布団の中で手を繋いで寝た。

それだけでよかった。



狭い部屋に帰ってきた。

「やっぱり、こっちの方が落ち着くなぁ」

「そうだね」


二人だけの空間

それだけで幸せを感じていた。



「もうこんな時間だ、急いで御飯の用意するね」

「あっ…そっか、御飯食べて来れば良かったね…」

「ううん、いっぱい贅沢したから」

「簡単でいいからね」

「OK」

楽しそうに台所に向かう彼女。


俺は この人 の 闇 を消してやろうとしていたが、いつも この人 から 光 をもらっているのは、俺だった。



今年も、暮れが押し迫ってきていた。


今日は、ちょっと遅めのボーナス日。

仕事が終わって、急いで帰る。

部屋の灯りが点いていない…


部屋の鍵は開いている。

中に入り灯りを点けようとスイッチを探す…

いつも、灯りが点いているので、スイッチの場所を忘れていた。

暗闇の中 スイッチを探していると

誰かに手を掴まれ暗闇の中へ引きずり込まれる。


「おかえり」

彼女だ。

「ただいま、居たの?」

「居たよ」

「なんで電気点けないの?」

黙ってる。

「電気点けよう」

「待って…」

「ん?」

「そろそろ一年だね…私が転がり込んでから」

そう言えば、そろそろ一年になる。

あの 事件 から…

「一年間ありがとう」

「どうしたの?改まって…」

「私さ 男って すぐ 求めてくるもんだと思ってた」

「ん?何言ってんの?」

「少なくとも 私が付き合う人はそうだった」


「私は、それが嫌で 求められるとその人から離れていたんだ」

俺は黙って聞いていた。

「やっとこの人ならって思った人が現れてさ…結局、その人は 子供が出来たら消えた…」

去年の話をしている。

「貴方は違った…私の裸をみても求めてこなかった…一年も一緒に生活しても求めてこなかった 今までの人とは明らかに違うの…それは、遠慮をしてるって感じでもない 大事にされてるって言うか…それとも、私…魅力ない?」と笑った。


「いや…魅力はあり過ぎるくらいだよ」

「俺さ…そういうの大事にしたいっていうか…好きになればなるほど大切にしたいって思うんだよ」

「上手く説明出来ないけど…求めるってのはさ、相手を軽く見てるって言うか…自分を軽く見せてるって言うか…なんかそれが嫌なんだよなぁ」

「上手く伝えられないけど…」


暗さに目が慣れて来た。

彼女が…裸…?

「ねぇ…抱いて…」

そう言うと彼女は、俺にキスをし身を委ねた。

初めて結ばれた…


俺だって過去に何人かの女性と そういう関係 になった事はある。

若さってのも有ったし、興味ってのもあった。

しかし、それは、後に 虚しさ だけを残していた。


今は、虚しさ はなかった。

自分が好きになった人と 自分を好きになってくれた人と…

もちろん、過去にそうなった人達を好きじゃなかった訳ではない

でも、過去のそれとは違う 何かが あった。


彼女が泣いている。

「どうしたの?」

「私、幸せだなぁって思って」

「そっか…」

「私さ 一緒に暮らすようになってから 何度か泣いたけど…悲しくて泣いた事ないから 全部が嬉しくて…」

「そっか…」

「まだ一年しか経ってないのに…あの子を忘れちゃいけないのに…たまに忘れそうになる」

俺の 光 が届いてた。

「ダメだよ!忘れちゃ…一人でも産もうと思った 母親になろうとしたんだから 忘れちゃダメなんだよ」

「うん」




今日はクリスマス。

二人で出掛けた。

街中、至る所にカップルがいる。


俺は、彼女へのプレゼントと称して

ホテルの最上階のレストランを予約していた。


「また〜!こんな贅沢して〜!」

「いいじゃん!年に一度だし」

本当は、彼女も喜んでいる。


二人でちょっと贅沢な食事を済ませて外に出る。


ケーキ屋に立ち寄る。

「今 ケーキも食べたじゃん」

「まだ食べてない人居るよ」

彼女は、? って顔をしている。

小さなクリスマスケーキを一つ買って店を出た。


俺は、彼女を連れてお寺に来た。

ここには、彼女の子供 水子地蔵を祀っていた。

彼女の子供にさっき買ったケーキを供える。

「美味いか?」

俺は 聞いた。

彼女は また 泣いている。


俺は 手を合わせ

「お母さんを幸せにするから、結婚してもいいかな?」と声に出して言った。


彼女の方を見ると涙で化粧が落ちている。

「ダメか?」

今度は彼女に聞く。

何も言わず 首を横に振った。


今度は彼女が手を合わせる

「お母さんこの人と幸せになるからね!もちろん あなた の事は一生忘れない ずっと一緒だからね」


しばらく沈黙が続く…


彼女は立ち上がると

「幸せになって!だって」

と笑った。


「もう喋るのか?スゲーな」

と俺も笑う。


俺は、ポケットから 本当 のプレゼントを出した。

「本当に俺でいいのか?」

彼女は頷きながら

「あなたじゃなきゃダメ」


俺は プレゼント を指に嵌めてやった。




あれから数年が経ち

小さいながらも、庭付きの家を購入した。


その庭では 小春日和の中 子供と遊ぶ あいつ が…


(とりあえずお母さんは今、幸せそうだぞ!だから、お母さんと お前の兄弟 をそこから見守ってやってくれ)


「お〜い!寺行くぞ!」

「は〜〜い!」

「ほら お兄ちゃんのとこ行くってよ」


俺達は 勝手に男の子だったって設定にしていた…


まだ、足が覚束ない 次男坊 は、甘えるように両手を広げて あいつ の所に走り 転んで泣いている。


笑顔で、抱き起こしてる あいつ を 俺は、微笑んで見ていた。










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