みんなで死のう、仲良くね
あたしは、バイトから帰ると。
冷めかかったご飯を食べて。
なにげなくTVをつけた。
ニュース。
…興味ナイ。
まわす。
ニュース。
まわす。
ニュース。
…これは、ただ事じゃない!
画面のテロップに注目してみる。
なぐり書いたような字で。
「小惑星接近!? あと23時間!!」
・・・・・。
嘘、だと思った。
あたしは、食器を片付けた。
アールグレイを淹れながら。
クラシックを流す。
リラックスした空気の中で。
ベルガモットの香りを楽しむ。
TV。
「エムステ」を見ようとして。
つけてみた。
あんまり好きじゃないけど。
「人類終末のカウントダウン! あと22時間43分!」
・・・・・。
マイペースなあの局だけは、いつもどうり古いアニメの再放送。
なぜか、落ち着く。
あたしは、ふだん見ないNHKにチャンネルをかえた。
NHKなら、そんなふざけた企画に参加しないはずだ。
ニュースデスクに、地味なおっさん。
「小惑星の軌道状況~落下予測地点:インド中部」
…!!!!!!!
これは…!!!!
あたしは、ほとんどみていなかった、うそ臭い番組に。
全神経をかたむけた…!
「米軍、独断で核弾頭発射! 小惑星、軌道変わらず!!」
宇宙望遠鏡から、中継でうつる…核爆発!!
「国連安保理事、核兵器保有国に小惑星攻撃をよびかけ!」
事務総長の緊迫したスピーチ! アメリカ大統領のあせり顔!!
どうやら、本当に…地球に危機が。
「バン・アレン帯・干渉距離まで…あと18時間!!!!」
バン・アレン帯が…なくなったら。
地球はたちまち、放射能の雨。
すなわち。
滅亡…!!
アメリカに反感をもっていたけど。
この時ばかりは、がんばってほしいと思った。
切実に。
数時間後…。
深夜。
そしてついに。TV各局は。
すべての放送を、中止した────。
NHKのみが。
「放射能は、危険です。ふとんを多くかぶり、押入れなどに避難してください」
「核ミサイル着弾における、防災マニュアル番組」を。
色気のない女性の声で、えんえんと繰り返してる…。
何の役にも立たないけど。
本当にこのマニュアルはある。
そしてそれは、あまりにもむなしい。
…外は静か。
静寂をやぶるように、あたしの携帯が鳴った。
「おい、きいたかー?」
友だちの声。
なんとかしてくれるよなぁ…?
アメリカとか、あのディープインパクトみたいにさ!
情報は一切ない。
ふと、ラジオをつける。
どこもやっていない。
しかし、米軍のCNN JAPANだけが。
なにか、英語で言ってる。
「…バン・アレン帯干渉まで。あと12時間…各キャンプのコンディションに関係なく…」
米軍向けのラジオ。
まちがいない。
「…… of the ”Van Allen zone”that is 5:55 of the morning…」
もう…だめだ…!!!
情報のとぎれたなかで。
米軍向けの放送だけが。
日本国民に、状況を正確に伝えていた。
それは、みんなの…
死の宣告…!!!!
平等に。
ああ、これほど平等に。
あと12時間で。
みんな、死ぬ。
死ぬ?
どんな光景だろうか…。
残りの12時間。
どうやって死のうか。
考える。
まて。
生きてるうちに。
…なにをしようか?!
…もう、なにをしても。
…いい気がする。
君は。
なにをして。
のこりの12時間を過ごすんだい…?
あたしはね。
「ありがとう」って。
心の底から。
みんなに。
そう。
みんなに。
伝えたい…。
最後は。
会えなくても。
いいから。
かかわりながら。
君と。
死にたい。
強い光。
気づいた、死。