死を忘れた者たちの末路
人間の脳を電脳が出来るようになった時代には、もう年齢や寿命という概念は存在しなかった。
体の何処かが使い物にならなくなったなら、新しい部品を取り付けるだけ。
手足だけでなく、内臓も血液も全て人口の物に取り換えられ、病気は無くなり稀にあるのは体の何処かが故障する程度。
人は死なずに増える一方で、新しい命というものは生まれなくなった。
自分のコピーを作る人も居れば、完全機械化をしたカップルは自分たちの好きな性格や個性、外見などを選択して人間によく似たAIを育てる。
生まれる場所は女性の体から培養ポッドに変わり、知識は親が教える物から直接電脳に書き込むようになった。
何もかもが電子の海に沈んでいく中、1人の学者はある疑問を抱いた。
「母の胎内から生まれ、数多くの経験から知識を覚える。そんな限り無く人間らしいAIは作れない物か・・」と、
学者は沢山の試作品を作ったが、何百年、何千年と掛けても人間モドキしか作れなかった。
そして何万回と失敗を続けた後に学者は1つの結論に行きついた。
「人間と言う生物はもう存在しない。生死と言う生物の理から外れてしまった我々には二度と純粋な人間は作り出せない」
学者は白衣を脱ぎ捨てて研究室から出ると、ある事に気が付いた。
「なぜだ、なぜ何も変わっていない…」
何十世紀も回っているというのに、外の世界は学者の記憶から全く変わっていなかった。
人々は自分たちが永遠と同じ生活を繰り返している事に気が付いていない。
「そうか、これが死という限界を越えてしまった我々の末路か…」
学者は踵を返して研究室に戻ると自らの電脳を端末に繋げて…
自らの脳を焼き切った。
お読みいただきありがとうございました!
この即興小説シリーズ(日刊)の他にも2作品書いてます!
「自己犠牲錬装術師の冒険譚」(仮題)
「人形の彼女と紡ぎ手の僕」
是非お読みください!(上記の2作品は連載・非日刊です)