困惑と掌握
「片方はお前の知り合いのようだな。」
「そうなん……ですか?」
菅野博士は間を置いて、言葉を発した。
「沢村千尋。……旧姓は西千尋。親が離婚したようだな、秋山、お前の”幼馴染”と聞いている。」
西……いや今は沢村か。共に地球で育った仲であった。陰気な感じの俺と違ってあいつは明るかった。だが、もう俺は彼女と会うことは無いと思っていた……それでよかったはずなんだ。
今更あいつと会う資格なんざ毛頭ないが任務だ。余計な感情を抱くのはやめ、続きを聞くとする。
「……確かに、知り合いです。でも、それだけです。」
「沢村千尋と何があったかは知らんが任務に集中するように。動揺が出ていたぞ。」
「了解。」
やはり動揺は隠せなかった。まだどこかに、あいつを思ってる”モノ”が心にあるのだろう。
「あなたに幼馴染いたなんて初めて知ったわ。」
「……秋山自身に聞いてなかったんですかエイラス博士。」
「私は人の過去をあまり詮索したくないの。プライバシーってものもあるし、忌み嫌ってる過去なんて思い出したくないでしょ?」
「はぁ……それでも少しくらいは本人に聞いたらどうです?」
「秋山くんが話したくなってくれたらいくらでも聞いてあげるわ。」
「ハァ……了解です。話を戻すぞ、沢村千尋は作戦地域の偵察及びマーキング。潜入ミッションを得意にしている。冷静な判断力はチームの中でも一役買っている。」
「潜入任務を……」
ここでも動揺をした。あいつが潜入任務をこなせてる……
「話を続けるぞ。次の日本人は川端玲奈、元はエンジニアだった。最新テクノロジー兵器を主に使い、前衛も後衛もこなす。……以上がリヴァイチームの詳細だ。質問はあるか?」
「いえ、大丈夫です。分からないことがあったら現地で聞くので。」
「そうか、では俺はこれで……エイラス博士。後はお願いします。」
そういって菅野博士は足早に去っていった。そして、エイラス博士に冥王星までの行き方や作戦の詳細を聞くことにした。
「分かったかしら?」
「冥王星に行くのに使うのはJ(Jack)F(Fiery)K(Kill)、最新鋭の宇宙艦を使う。およそ30分程で着く、と。」
「最新鋭の艦に乗れるなんてそうそう無いのよ?まあ私も乗るのは初めてだけど……」
今の言葉から俺は一つの疑問が頭に浮かんだ
「……え?博士も一緒に来るんですか?」
「あ、ごめんなさい。言ってなかったわね、今回の作戦には私が必要なのよ。だから護衛の任務も兼ねるってことよ、いい?」
「いいんですけどね……って、護衛の任務も兼ねる?それって……宇宙艦とか作戦本部の建物の中とかで待機ではなくてリヴァイチームに同行するってことですか……?」
「ええ。」
「ええ……」
「同じ言葉で返さなくていいのよ。同行する理由は言えないわね。」
「…………」
なんだろうか、やるせない気持ちになる。ここまで秘密主義な感じだと……
そんな気持ちを抑えつつ、エイラス博士と共にJFKが滞在中の宇宙港へ行くことにした……
それが果てしなく続く天国と地獄の日々の階段であったことも知らずに……