生まれてからの一年
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本当にありがとうございます。
ライが生まれて一年が経った。
この頃にはライの利発さや聡明さを屋敷の誰もが知るところとなっていた。
両親はまず、ライが必要以上に泣かないことに驚き、覚悟していた夜泣きなどの育児の大変さを味わうことがないことを、嬉しくも寂しく思っていた。
アリスをはじめととする幾人かの使用人は、部屋を掃除する時や散歩の時などに話しかけると、まるでこちらの言っていることを解っているかのようなライの反応に、頬を緩ませていた。
そして両親も使用人も、こちらに向けてくるライの優しく温かな微笑みに魅了されていた。
これは将来が楽しみだ、と屋敷の誰もが思っていた。
一方のライは、イリスの言葉の意味や発音が朧気ながら理解できるようになってきたところであった。
この世界のことも周りの会話から少しずつ判明し、アリスたちが“亜人”と呼ばれる、人と同じような存在であることや、このアーサーボルト家が“辺境伯”という立場の家であることなどが漠然と解ってきたところであった。
自分と両親は人で、使用人には人と亜人が半々ぐらい。
さらに父親は大名みたいなもので、どうやらこの辺りでは一番偉いらしいということぐらいだが。
身体の発育が追いついてないので、まだ立ったりすることは出来ないが、這って動くことや、ママやパパなどの簡単な言葉なら話せるようになっていた。
もっとも、前世で雷蔵として齢七十になろうかというまで生きたライには、両親に呼びかけることに相応の恥ずかしさがあって、最初は照れくさい思いがあったが。
「ライー!」
「ハーイー!」
満面の笑みで自分を呼ぶリースに、同じく満面の笑みで応え、ライは這ってその胸に飛び込んでいった。
この人斬り、甘える演技に今はノリノリであった。
もちろん、こうなるまでに多くの葛藤がライの中であったが、こちらが応えないと悲しそうな顔をするリースに勝てず、ライは現状を受け入れた。
戦場以外では非情に徹せないのが、雷蔵が周囲の人間に愛された所以でもあった。
「ライ様-!」
「ハーイー!」
今度はアリスに飛び込んでいった。
亜人と言っても、人と変わらぬその心根を知り、今ではすっかり心を許していた。
「そーれー!」
ライの最近のお気に入り、はアリスの蛇の尾に巻かれ振り回される遊びであった。
「キャッ! キャッ!」
これは本当に面白い――それはライの偽らざる本心でもあった。
この人斬り、周囲の環境に恐ろしく早く適応する。
カイルが辺境伯という立場にあるため、この屋敷には多くの人や亜人が訪れる。
その中で、ライが印象深く感じた亜人が二人いた。
一人は、カイルと同じぐらいの背格好で、エドワルドと呼ばれていた。耳が長く尖り、月のように美しい黄金色の髪を持ったエルフという亜人の一族の長だった。
もう一人は、岩のような大きな身体を持った筋骨隆々の男で、名をジュウベイといった。
頭に見事な角を二本生やした、鬼と呼ばれる亜人の一族の、こちらも長だった。
二人は特にカイルと親しげで、よく訪ねてきたこともあって、ライの印象に残っていた。ライの見立てでは二人とも一角の武人であることが見てとれた。
カイルも相当の腕前を持っていると感じるが、おそらくこの二人もそれと同等の腕前であることを感じた。
特にジュウベイは腰に大小を手挟んでいたこともあり、ますますライの気になるところではあった。
しかし、ライの興味を惹いたのはそればかりではない。
それぞれの父と一緒に屋敷にやってくる二人の子供――エドワルドの息子“アランドル”とジュウベイの娘“サクヤ”という知己を得たからだ。
ライが言葉を少しずつ理解できるようになってきたということで、《イリス》世界の住人の会話を『』から「」へと変更しました。
同じく発音も正しく理解できるようになってきたので、会話の中でカタカナの言葉を話せるようになりました。
よろしくお願いします。