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新たな人生の始まり

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本当にありがとうございます。

 

(あったけえなあ……)


 再び意識が闇へと沈んだ雷蔵が目を覚ましたのは、どこか薄ぼんやりとした暖かい空間の中だった。


(なんだこりゃ? すげえ落ち着くじゃねえか……)


 雷蔵は、目には見えない大きなものに護られているような感じを受けていた。


(良いねえ……)


 何処か遠くから、雷蔵が耳にしたこともない言葉が聞こえる。

 大きな声で誰かを呼んでいるようだ。

 やがて雷蔵を包んでいた空間が大きくうねり、徐々に頭の方から吸い出されていく。


(まさかこりゃ……)


 イリスと名乗った女神は言った。貴方はとある夫婦の赤ん坊として生まれ変わる、と。


(う、うおい! 俺は今から産まれるのかよ!!)


 焦って言葉遣いが昔に戻る。

 むぐぐ、と狭い穴を出るとそこは光の溢れた世界だった。

 あまりの眩しさに雷蔵は目を閉じた。


『ほうら、頭が出たよ! もう少しだから頑張りな!』


 まだ目がはっきり開けれない雷蔵の顔の前から、聞き慣れない言葉が聞こえる。


『ふうぐぐぐ――!』


『頑張れ、リース! もう少しだ!』


『奥様! 頑張ってください!』


 他にもいくつかの声が聞こえる。

 どうやら話す言葉が違うらしいと感じた雷蔵は、すぐさま辺りの気配を探る。


(今いる空間の広さは畳五十畳程。部屋には俺の他に四人。この股の持ち主の女――母親が一人。その女の手を握っている男が、おそらく父親。目の前で俺の頭を抱えてるのが、産婆で、もう一人――父親の近くに女がいやがる)


 その全員に敵意や、帯びている武器がないのを確認すると、雷蔵は安心したように少し気を緩めた。

 雷蔵はまだ目を開けていない。

 気配だけでそこまで読み取ったのだ。

 その瞬間――ズルッと身体が引っ張り出された。

 そのまま産婆に抱え上げられたかと思うと、雷蔵の背中がバシッバシッと激しく叩かれる。


「ほぎゃあ!(いてえ!)ほぎゃあ!(いてえよ!)ほぎゃあ!(ばばあ!)」


『産まれたよ! 元気な男の子だ!』


 すぐさま雷蔵の身体は産湯で清められ、清潔な布で巻かれて母親のリースに手渡された。


『はあはあはあ……可愛い。私たちの赤ちゃん』


『そうだ! 僕たちの子だ! よくやったリース! ありがとう!』


『おめでとうございます! 旦那様、奥様!』


 周りが喜びに沸き立っているのを感じながら、雷蔵はゆっくりと光の刺激に慣れてきた目を開ける。

 雷蔵の目の前に満面の微笑みと涙を浮かべた、綺麗で優しそうな女性がいた。


『はじめまして。私たちの赤ちゃん。私がお母さんよ』


 その後ろから、整った顔をした男が雷蔵を見下ろす。こちらも満面の笑みを浮かべている。


『僕がお父さんだぞー。よろしくなー』


 少し離れた所から、仕事をやり終えた産婆が満足げに雷蔵を見ている。


『うわぁ、可愛いですねえ。これからよろしくお願いしますね、若様』


 死角から聞こえたその声に目を向けると、


「――! ほぎゃあ!(うおおお!)ほんぎゃあ!(も、物の怪か!)ほんぎゃあ!!」


 雷蔵は突如驚いたように泣き出した。

 その視線の先には、雷蔵が初めて見るメイド服を着た、半人半蛇の亜人――イリスでラミアと呼ばれる種族の女の子が木のように聳え立っていた。


『えっ? ええぇ!? な、なんでわたしを見てそんなに泣くんですか、若様ぁ!?』


「ほんぎゃ! ほんぎゃあ! ほんぎゃ! ほんぎゃあ! ……ほんぎゃ?」


 最初こそ、すわっ、物の怪か! と身構えた雷蔵であったが、こちらを見て目に涙を浮かべている少女が見た目より小さく儚げに見え、いつしか落ち着きを取り戻していった。

 イリスに異なる世界と言われていたので、こういう人間もいるのだろうと考え直せたのだ。

 しかしその根底には、この生き物なら斬れると、その全身を見て、筋肉の付き方や骨格のおおよそを把握、分析し、判断したからでもあった。

 斬れるなら恐れるほどのこともない――熊や狼などの野生の存在に遭遇したときの雷蔵の心構えの一つであった。

 そしてそれは魑魅魍魎にも適応出来ることが今わかった。


『ああ、良かった。泣き止んでくれましたぁ』


『ふふふ。アリスが大きかったからビックリしたのかもしれないわね』


『ラミアは立ち上がると人の倍の大きさはあるからなあ』


『ううー、足が長いだけで上半身は人とそんなに変わらないのに……』


 本当は成人すると上半身も人の三割増しぐらいのサイズになります。


『あら? この子寝ちゃったわ』


 安心した雷蔵は、いつの間にか睡魔に捕らわれていた。

 精神は大人でも、肉体は産まれたばかりの赤ん坊なので、体力が殆どないのだ。


『産まれたばかりで疲れてるのさ。お腹が空いたら起きるだろうからお乳をあげな。それから――』


 産婆は一通りの子育ての説明をすると帰っていった。

 メイドのアリスは他の使用人を呼びに部屋を出て行った。

 残ったのは、まだ三十を迎えていない若い夫婦だけだ。


『この子の名前はどうしようか?』


『私、男の子だったら付けたい名前があったの』


『どんな名前だい?』


『ライって言うの。昔の言葉で雷を表すんですって』


『なるほど。それはうちにピッタリだね』


『良いかしら?』


『もちろんさ』



 こうして戦国最強の人斬り石動雷蔵は、新たに、イリス大陸西南の地を治める辺境伯“疾風迅雷”のカイル・アーサーボルトとその妻リースの長子――ライ・アーサーボルトとして第二の人生を歩むことになったのであった。


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