“血を流させる”ということほど、人斬りにとって得意なことはない
いつもありがとうございます。
一章の終わりがだいぶ近付いてきました。
これからもよろしくお願いします。
二匹の獣が闇の中で対峙していた。
その内の一匹は豺という亜獣で、もう一匹はライ・アーサーボルトという年端も行かぬ少年であった。
豺という巨躯を持った獣は、獰猛な唸り声を漏らし、少年を威嚇していた。
対して少年は、平然と獣を見ているだけであった。
「……」
だが、その瞳や身体からは、豺の巨体を覆い尽くす程の不可視の圧力が放たれていた。
――いつでもお前を殺せるぞ。
その無言の圧力は、確かに獣にそう伝えていた。
そして、それを正確に受け取った獣は、自身にのしかかるその重みに耐えかねたように、四肢を広げ、這いつくばるかのように身体を低くした。
つまり、この場を支配しているのは少年の方であった。
『……グヌゥ、ナンダ、コノコゾウ。ジュウベイノハナシト、チガウデハナイカ。アーサーボルトノオサナイコドモノソウサクダトキイタノニ、コレデハマルデ、ナガイネンゲツヲイキタ、イチリュウノカリュウドノヨウダ』
獣は、嗄れた声で言葉を喋った。
それは、《イリス》住人たる、人も亜人も理解出来ない、この世界には存在しない言語であった。
亜獣の中だけで、使われる言語――それも知性を持つに至った、一部の亜獣だけが使える言葉だった。
《イリス》の者が聞いたら、意味を成さない唸り声にしか聞こえないだろう。
『――ほう。お前、日の本の言葉を喋れるのか?』
だが、《イリス》以外の星なら、その言語が伝わる世界は確かに存在する。
『――ナンダト!? イマナントイッタコゾウ!?』
豺はその驚愕のあまりの大きさに、思わずライの顔の寸前まで飛び掛かった。
『……この言葉を話せるのかと言ったんだ。それより……唾を飛ばすな』
顔に飛んでくる獣の涎を拭いながら、ライが言った。
『――! マ、マチガイナイ! ソレハワレラガ、イリスサマヨリタマワッタ、イリスサマトワレラダケノコトバ! ナゼキサマガシャベレル、コゾウ!』
豺の牙と舌が覗く横に裂けた口から、更なる飛沫がライに降り注ぐ。
『だから唾を飛ばすなと……。イリス? お前、あの女神さんの知り合いか?』
『イ、イリス!? ヒトゴトキガ、イリスサマヲ、ヨビステニスルナ!』
多量の飛沫が、もう一度ライに降りかかった。
『……とにかく、一度落ち着け』
ライは豺の鼻先を殴りつけた。
突然の痛みに、豺は思わず目をつぶってしまった。
その瞬間、ライは豺の巨大な頭部に横殴りの一撃を加えた。
脳を直接揺らすような、内側に響くこめかみへの掌底打ち――六歳の小さな子供の一撃であったはずのそれは、雷蔵として培った技術により、吸盤のように吸い付く、完成された掌打であった。
吸い付きからの反発で、脳を完璧に揺らされた豺は、ドウンッという音と共に、その場に倒れた。
『――』
豺は自分の身に何が起こったのか、全く判らなかった。
それどころか、脳が完璧に揺らされたせいで、その身体はぴくりとも動かなかった。
『まずは話をしようか?』
倒れた豺の眼前に、ライが静かに腰を下ろした。
(ナンダコノコドモハ!?)
この豺が人に恐怖するのは、これが初めてであった。
『……』
ライは、豺が脳震盪から回復するのを静かに待っていた。
『……』
豺も、この得体の知れない子供に対して、最大限の警戒を働かせていた。
こんな子供に遅れを取るはずがないというのが、それまでのこの豺の常識であったが、それは今横たわっている自身の姿が否定していた。
先程の死の圧力といい、この子供が自身より格上の存在であると、獣は本能的に理解していた。
弱肉強食――世界が違えど、それは共通のルールだった。
(コノシュンカンモ、ワレヲコロソウトオモエバ、コロセルハズダ。シカシ、コゾウハソレヲシナイ。……トニカク、マズハナナシヲスルシカナイカ……)
“弱者は強者に従う”、豺は獣だからこそ、人よりさらにそれを重視していた。
しばらくすると、豺の身体に徐々に自由が戻ってきた。
やがてそれらが完全に戻ると、豺はゆっくりと身体を動かし、ライの向かいにお座りした。
その顔は、ライの一挙手一投足を窺っていた。
『……突然悪かったな。だがお前も、人の顔に唾を吐きかけ過ぎだ』
ライは強者の余裕と自信を漲らせ、豺と対峙していた。
だが、これははっきり言って、見せかけだけのものだ。
獣は本能的に強者には逆らわないということを、雷蔵は自身の経験から知っていた。
だからこそ、強者の振る舞いをしなければいけない。
弱いところは見せられない。
見せてはいけない。
何故なら、ライの今の力では、この獣に及ばないのだから。
そして、それを一番よく理解しているのもライであった。
最初の気当ても、まともに戦っては勝てないことが解っていたので、無知な獣と思われた存在に恐怖で対しようとした、ただの示威行為であった。
あれで退けば良し、退かなければ次は更なる剣気をぶつけようと思っていた。
とにかく、あの時点で、単純に身体能力だけの戦いになると、ライは自分が目の前の獣に食われていた可能性が高いと思っていた。
その可能性を改めさせたのは、獣が圧力に屈したからではなく、獣が言葉を話した事とその内容からだった。
つまりは――
『まずはこちらの質問に答えてもらおうか。ジュウベイに俺の捜索を頼まれたのか?』
知っている者の名前と目的が、その獣の口から発せられたからだ。
言葉を話す獣というのをライは初めてみたが、ラミア族のメイドのアリスなど、半分獣のような亜人もいるので、そういう獣もいるのかもしれないと、ただ目の前の存在を受け入れた。
そして、意思疎通が図れるなら、他に遣り様はいくらでもあった。
『アア。ジュウベイニタノマレタ』
その一つが、先程の二度の攻撃であった。
身体能力が違う相手に対するとき、一番難しいのは、どうやって自身の攻撃範囲に敵を捉えるかである。
接近する、あるいはさせるにしても、そこには身体能力の差が高い壁として立ちはだかる。
例えばライが獣に、今の全力で突進したとしても、それは楽々と躱されたことだろう。
もちろん、ライであれば、そこに巧みな虚実を交えただろうが、それでも、おそらく接近は出来なかっただろう。
不意打ちであれば仕留められたかもしれないが、視線を交わし合う距離で相対した獣に対して、ライの今の身体能力では、単純に手はなかった。
『この言葉を話せるのは、女神……様とお前達亜獣だけだと言っていたな?』
では、逆に相手を自分の攻撃範囲に誘い込むならどうであろうか。
ライとしては、こちらの方がまだ可能性が高かったが、正直、突進してくる巨大な獣をいなせる力が、今のライにはなかった。
精々、突っ込んできた瞬間に、獣の目に寸鉄を放ち、怯んだところを包丁で仕留めに掛かる程度のことしか出来ないだろうと思っていた。
だが、ライの技術を持ってしても、それが成功するかどうかは判らなかった。
それほどまでに、六歳の子供という今の状況は、ライに弱体化をもたらしていた。
『ソウダ。コノコトバハ、イリスサマトワレラダケノモノノハズダ。ソレヲナゼ、ヒトノキサマガハナセルノダ?』
だが、相手が無防備にライに近づき、さらには他の事に気をやっているのであれば、それはライの敵ではなかった。
例え相手が遥かに巨大な獣だとしても、ライが一度“斬れる”と判断したのであれば、それは決して倒せない相手ではない。
それ程までに、雷蔵の戦闘技術は、人智を超越した遥か先の高みに到達しているのだ。
もっとも、今の子供の身体では、それを十全に発揮することは困難であったが。
『お前の質問には後でまとめて答えてやる。それより、では、どうやってジュウベイと意思疎通を図っている?』
『……』
『……答えぬのか?』
ライの身体から、最初よりもかなり鋭い剣気が放たれる。
『――マ、マテ! マッテクレ! ソレヲコタエルニハ、サキニコチラノシツモンニ、ヒトツダケコタエテクレ!』
『……良いだろう。何が聞きたい?』
ライは、今の獣の態度で、もうこの獣が自分に逆らうことがないのを確信した。
ライが敢えて止めを刺さなかったのは、これが狙いであった。
この獣は服従させることが出来ると、ライはあの瞬間に見極めていたのだ。
(そういう瞳の色を、この獣はしていたからの)
それは雷蔵が、戦場で幾度も見た感情の発露であった。
すなわち――絶対的な強者に対する恐れ。
『オ、オマエハ、イリスサマト、ドウイウカンケイナノダ? マサカ、イリスサマノツカイナノカ? アーサーボルトノコドモデハナイノカ?』
『両方間違ってはいない。アーサーボルトの子供として生まれた、女神……様の遣いだ』
ライは一切の躊躇無く、女神の遣いだと嘘をついた。
ただ、前世の記憶を持っていることだけは黙っておいた。
元々、誰にも話すつもりはないことではあるが、獣とジュウベイとの意思疎通の方法が判らない今の段階で、前世の事を話すのは、ジュウベイの耳に入る可能性があるからだ。
(それに、あながち遣いという表現も間違っていないしな……)
何故自分は生まれ変われたのか? 何故自分だったのか?――ライは父カイルとの会話などから、朧気ながらその理由を感じ取っていた。
『ヤハリソウカ……。ソウデアレバ、ソノツヨサモナットクデキル。ワレラノコトバヲハナセルコトモナ……。イリスサマガオマエヲツカワシタモクテキハナンダ? ワレラトオナジカ?』
『黙れ。まずはこちらの質問から答えろと言っただろう?』
ライは、尊大な態度を崩さない。
目の前の獣が今の自分より強い以上、逆らわない確信があっても、油断してはいけないとライは知っていた。
どんな強者、どんな有利な状態でも、油断は死を招くことを、雷蔵は骨身に染みて解ったいた。
『ウッ――! ワ、ワカッタ。ジュウベイト、ドウヤッテイシソツウヲハカッテイルカダッタナ?』
『そうだ』
『ソレハカンタンダ。ワレラアジュウハヒトヤアジンガツカッテイルコトバガリカイデキル。ダガ、ハナスコトハデキナイ。ソレハイリスサマカラキンジラレテイルカラナ。ダカラ、イッポウテキニムコウノヨウケンヲキクダケダ。ウナヅクトコサエシナイ。ワレラハキホンテキニ、アジュウイガイトハ、イシノソツウヲハカッテハイケナイノダ』
『何故だ?』
『ワレラニ、コトバヤイシガツウジルコトガワカルト、ワレラヲタタカイノドウグトシテツカオウトスルモノガ、カナラズデテクルカラダ。ソレハ、アラソイヲナクソウトイウ、イリスサマノオカンガエニハンスル。ダカラ、ソレハイリスサマニヨッテキンジラレテイルノダ』
(争いをなくす、か……。やっぱりあの神さんの真意はその辺かの。それならそうと、言えばよかろうに。儂は真意を隠すもんを“様”付けでなど、呼びたくないのう。やはりこれからも、“さん”付けじゃな)
何処か遠くで、女神が「はうー」と泣いている気がした。
『しかしそれでは、何故ジュウベイには応じる? それもある意味、意思疎通を図っていることになるだろう?』
『コレモイリスサマガオキメニナッタコトノヒトツダ。アジンノシュゾクノゾクチョウダケハ、キメラレタアジュウヲシエキスルコトガデキル。オニハワレラ“サイ”。コノサキノエルフハ“ショウ”ダナ』
『猩? たしか巨大な猿みたいな奴だな。そして、お前らが豺か……。そういえば、お前に他の名前はあるのか?』
『コベツノナ、トイウイミデハナイ。ワレラハ、ホカノドウゾクノナカマモスベテフクメテ“サイ”トイウナダケダ。コレハイリスサマカライタダイタ、ワレラダケノトクベツナナダカラナ』
(イリス、イリスと五月蠅いのう。だが、それだけこやつらにとっては特別な存在というわけか……)
ライの脳裏に、あの見目麗しい女神の姿が浮かんでくる。
『ダカラ、デキレバオマエニモ“サイ”トヨンデホシイ。イリスサマガツケテクダサッタナデヨバレルコトハ、ワレラノクフクダカラナ。ダカラ、ワレモオマエヲナデヨボウ。ソノホウガ、イリスサマノツカイデアルオマエモ、イイダロウ?』
『……ああ、そうだな。俺の名前はライという』
とりあえず、ライは話を合わせておいた。
『ライ! ワレラ“サイ”ト、ヒビキガニテイルデハナイカ! コレモ、イリスサマガモタラシテクダサッタエンカモシレンノウ!』
(……さっきから気になっていたが、儂が女神の遣いだと言ってから、やけに友好的じゃな)
ライからは巨大な身体に遮られて見えないが、豺は尻尾を振っていた。
『お互いの自己紹介が済んだところで更に訊くが、つまりサイ達はジュウベイの言葉であれば何だって指示通りに動くということか?』
『ナンデモ、トイウワケデハナイ。ワレラハキホンテキニ、ジブンノミヲマモルトキイガイハ、ヒトトアジンヲキズツケルコトヲ、キンジラレテイル。ツマリ、ソウイウコトデハウゴカナイトイウコトダ。モットモ、ソウイウコトヲメイジルゾクチョウデアレバ、ワレラハソノイノチヲウバウコトニモナッテイルガナ』
(……なんだか、かなりの数の掟に縛られているようじゃな)
『そうか。……最初に俺に答えるのを渋ったのは、今話したことが亜獣の掟で他言を禁じられているからか?』
『ソノトオリダ。ワレラトノカンケイヲシッテイルノモ、アジンノカクゾクチョウダケニカギラレテイル。ヒツヨウイジョウノモノガシルト、ドンナワザワイニマキコマレルカワカラナイカラナ。ワレガライニココマデハナスノハ、シュゾクハチガエド、オナジイリスサマニツカワサレタモノダカラダ』
(……それが嘘だと判ったら、こやつとは殺し合うことになりそうじゃな)
『……ちなみに、俺にはないんだが、豺、いや亜獣達には、禁を破ると何か罰のようなものはあるのか? 例えば地獄に堕ちるとか……』
『モチロンワレラニモ、バツナドアルワケガナイ。イリスサマガワレラヲシンジテクダサルカラコソ、ワレラモイリスサマトノヤクソクヲマモルノダ。ソコニハイリスサマガリソウトサレル、シンライガアルダケダ』
(信頼、ねえ。儂にはあの女神さんは、色んな事を隠しているんじゃないかと思えるがな……。だがまあ、罰がないならこのまま嘘を突き通しても大丈夫じゃな)
『……そういえば、亜獣はどんな目的で遣わされたんだ? 何故、亜人にだけ手を貸す?』
『アジントイウ、シュノヨワサユエダ。アジンハヒトヨリガズガスクナク、コライヨリアラソイノギセイニナッテキタ。ソレヲフビンニオモッタイリスサマガ、アジンノタスケトナルベクワレラヲオツクリニナッタノダ』
『亜人を助けるために、か……。さっき、争いに亜獣を使おうとする族長は始末するとか言ってなかったか?』
『アア。ライモシッテイルダロウ? イリスサマハアラソイヲキラウ。ソノイリスサマカラツカワサレタワレラヲ、アラソイニツカオウナドゴンゴドウダンダ。ソンナゾクチョウハ、ナカマヲタタカイニマキコムダケダ。ダカラ、アラソイノヒガモエアガルマエニ、ワレラガシマツスル』
(……争いを嫌うが故に、争いの火種の命を奪うか……。儂に目をつけた理由も、その辺りにありそうじゃな……)
血を流さずに平和が訪れるなんてことは絶対に有り得ないと、ライは知っていた。
そして、それはもちろんイリスも知っていた。
嫌になるほど経験していた。
雷蔵より遥かに長い、永遠ともいうべき時間を女神は過ごしているのだ。
(どうやら、儂は神さんのお眼鏡にかなったようじゃな――)
雷蔵は心の中でにやりと笑った。
(“血を流させる”ということほど、この人斬りにとって得意なことはない)
むしろそれが全て、と雷蔵は自身の信念を誇った。
(可愛いおなごじゃったが、なかなかどうして曲者じゃのう……)
神に対して、あまりに厚顔不遜なことを雷蔵は思った。
しかし、これこそ万夫不当の人斬りらしい態度でもある。
『……ワレカラモライニキイテイイカ?』
何やら考え込んでいるライに、豺はおずおずと言った。
『……ああ。何だ?』
『イリスサマガライヲツカワセタリユウハナンダ?』
『ああ、それは――』
ライは昨日の父カイルとの会話を思い出した。
『昔から続く永き戦いに終止符を打ち、人と亜人に調和をもたらすためだ』
たぶんな、とライは心の中で続けた。
『オオ――! ツイニ、ツイニ、セカイニヘイワガオトヅレルノカ!』
豺は跳ね回って喜びをあらわにした。
その様子を見て、ライは、すまんな、と豺に心の中で謝った。
『……一つ訊きたいんだが、豺は足が速いか?』
『モチロンダ。ワレラサイハコノチデイチバンハヤイ』
『そうか。使命の為に、その力を貸してくれないか?』
『マカセロ! ワレラサイニカギラズ、イリスサマノシメイノタメナラバ、アジュウノスベテガライニチカラヲカスゾ!』
『ありがとう。では、俺をこの先のアールヴ大森林まで運んでほしい』
『アノノロシカ。ジュウベイモイッテイタ。ヤハリアールヴデナニカアッタンダナ?』
『おそらくだがな。俺も一刻も早く何があったか確かめたいんだ。……そういえば、どうやってジュウベイは豺を呼んだんだ? たまたま近くにいたのか?』
『フダンハ、ケモノニシカキコエナイトクシュナフエデヨバレル。ソノフエノネガトドクハンイニ、ツネニナカマガイッピキハイルノダ。コンカイハ、ワレガズットヤマカラソバニイタ。ライデハナク、ジュウベイノムスメヲサガスタメニナ』
『サクヤか……』
屋敷を出る前に、眠っているサクヤの頭を撫でたことをライは思い出した。
言葉は違えど、主人の名前と同じような音の響きに反応したのか、近くでブルンと、サクヤの愛馬が鳴いた。
ライも豺も今まで意識の外だったが、この馬はこの馬で、豺の出現にかなり怯えていた。
その後のライには、それ以上に怯えていたが……。
『そういえば、サクヤの馬がいたな……。豺、まずはこの馬をジュウベイに返す。あの村まで行くぞ』
言うが早いか、ライは手早く荷物をまとめ、馬に飛び乗った。
『ワカッタ!』
ライの怖さを思い知ったからなのか、それまで以上の従順さを見せて、馬は村へと走った。
村の入口まで着くと、ライは手近な所に馬を繋ぎ止め、豺に命じて大きな遠吠えを上げさせた。
豺からジュウベイに連絡を取るときの手段が遠吠えだと、村に着くまでの間に訊いたからだ。
安眠を妨げる獣の大声に、ジュウベイだけでなく、住人や鬼の仲間、カイルの兵士達も飛び起きた。
慌てて声が聞こえた方にジュウベイ達が駆け付けると、そこにはサクヤの白い愛馬が繋がれているだけだった。
「どういう、こと、だ……?」
ジュウベイは夜明けの出発までの間に、皆に隠れて何度か豺を呼ぶ笛を鳴らしたが、獣は一度としてそれに応えなかった。
何故なら、二匹の獣はその時、既に森へと到達していたのだから。
カタカナ、読みにくいし書きにくいですね。
すみませんが、お付き合いください。




