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局所にて、異彩と正統は邂逅する

いつもありがとうございます。


気付けば、いつの間にか累計PVが四万アクセスを超えました。

これも皆様のおかげです。

ありがとうございます。


これからもよろしくお願いします。



 

 弓という武器が、戦で多用されるのには歴とした訳がある。


 それはすなわち“距離”――この一言に尽きる。


 素手から石、石からナイフ、ナイフから刀、刀から槍、槍から弓、弓から銃、銃からミサイルへと、時代と共に、兵器はその距離を広げていく。

 戦いにおいて、距離を制するということはそれだけ重要な意味を持つのだ。


 さらに、距離は武器を扱う側にも大きなメリットを与える。

 それは、命のやり取りが遠いということだ。

 自身に危険が及ばない距離から、一方的に攻撃出来るというのは、それだけで気持ちが優位に立てる。

 さらに、相手を殺す時でも、離れていればいるほど罪悪感や嫌悪感を薄れさせる。


 直接拳で殴るより、石で割るより、ナイフで斬るより、刀で断つより、槍で突くより――ボタンを一つ押すだけで、引き金を一つ引くだけで、弓を一つ射るだけで、遠くで人が死ぬのなら、こんなに楽なことはない。


 さらに、そういった、距離が離れている効果から、初陣の者でもある程度活躍出来る。

 緊張せず、遠くから矢を射るだけでも、貴重な戦力になるからだ。

 そうして、遠くから徐々に戦場に慣れていけるというのも、弓の魅力の一つであった。


 特に、それは彼ら亜人にとってはとても重要なものだった。


 前の戦争から二十年――その間テクシスリウス王国には大きな争いはなかった。


 アーサーボルト領の亜人達は、戦いを想定した訓練や模擬戦、獣を相手にした狩りで、戦いの感覚を磨くだけだった。

 そして、そんなものはやはり実戦たりえないのだと、今、若いエルフと鬼の戦士達は感じていた。

 敵との彼我の距離がゼロとなったこの戦場で。





「うおおおおおお!」


「おらあああああ!」


 それまでの、無言の進軍が嘘のように、ソエルの兵士達は雄叫びを上げてエルフと鬼に襲いかかっている。

 彼らの多くが、既に何度かの亜人との戦場を経験している。

 そのほんの僅かな経験の差が、今この戦場に大きく出ていた。


 敵の思わぬ反撃、そこからもたらされた仲間の死と自身の痛み、突然の至近距離での戦闘――その全てに、若い亜人達は満足な対応が出来ていなかった。

 その隙を、今、敵に突かれていた。


 エルフが斬られ、鬼が突かれ、鬼が射られ、エルフが刺される――そんな光景が、そこかしこで繰り広げられていた。


 だが――それを遮る者達がいた。


「怯むな! 射てぇい!」


 エドワルドの声が響いた。


「エドワルドとワシに続けえい!」


 補佐を務めるレハンドが、凄まじい勢いで矢を放っていく。


「おおう!」


 そして、それに呼応するように、エルフの矢が戦場に戻ってきた。

 二十年前に激しい戦いを繰り広げた古参の戦士達が、若輩の仲間を助けようと、動き出したのだ。

 こうして、若いエルフ達は、古参のフォローを受けながら、徐々に落ち着きを取り戻していった。



 一方鬼は、エルフよりかなり早く落ち着きを取り戻していた。

 刀を主として戦う彼らは、接近戦こそ独壇場であった。

 隙を突かれ、同族の血を見た瞬間、種族通り鬼となって、敵を斬り殺し始めたのだ。

 そこには古参も若輩もなく、ただ我先にと人を斬る鬼の姿があった。


 弓と刀という、扱う武器の距離の差が出た瞬間であった。



 鬼が斬れば、兵士が突き、兵士が射てば、エルフが返す――互いが命を賭けてぶつかり合っていた。


「うぉらあああ!」


「どりゃあああ!」


 少しずつ、少しずつ、絵の具が混じり合うように、入り乱れた敵と味方が、戦場に互いの色を主張していく。

 どちらの色が、その戦場を早く塗り潰すのか競い合っているのだ。



 その中で、まだ薄い色だが精一杯自分の色を主張する、二人の亜人がいた。


 エルフの若輩クラドと、これが初陣ながらゴンザにこの場を任されたトシの二人であった。





 争いを嫌う者が多いエルフにおいて、このクラドという若者は、この先異彩を放つ事になる。

 彼は、戦いを好むエルフであった。

 しかも、遠距離よりも至近距離からの殺し合いを何よりも求める、異質な弓使いであった。

 その片鱗は、初陣となる今日、その姿を見せ始める。


「いいねえ! もっと近くで俺に殺されろ!」


 先程の敵の奇策を受けても、若手のエルフの中で、クラドだけは一切我を失っていなかった。

 それどころか、煙を突き破って敵が現れた瞬間、違う意味で我を失い、敵を射殺しまくっていた。


「そうだよ! 俺が望んだのはこういう戦いなんだよ!」


 兵士の剣や槍が自分を掠める度に、クラドは自身の血が沸き立つのを感じていた。

 相手の攻撃を紙一重で躱し、次の瞬間、至近距離から矢で反撃する。

 弓で射ることもあれば、手に持った矢をそのまま突き刺すこともあった。


「はっはー! 今俺生きてるぅ-!」


 距離が遠く離れることで、人を殺める実感が薄れていくのなら、反対に距離が近づくことで、自身の生を実感することがあるのかもしれない。

 少なくとも、クラドは今それを全身で感じ、歓喜していた。





 一方の鬼のトシは、クラドとは正反対で、まさに鬼の正統のような男だった。

 武骨で、寡黙で、ただ刀の道にのみ生きる――それが“鬼”という種族に生まれた男の本懐で、トシはまさにそういう男だった。


 “鬼”という亜人は、テクシスリウス王国において“仁侠の徒”とされている。

 弱きを助け、強きを挫き、義のためには命を惜しまないという気風を持つ勇猛果敢な種族で、竜族と共に亜人の中では一目置かれる存在である。

 彼らの多くは、生涯の武器を刀のみと決め、ただその道を極めんと日々邁進している。

 侍の気風と、人斬り雷蔵の生き方を、合わせた様な種族であった。


「ふん!」


 トシの大上段からの一刀が、敵を頭から真っ二つに斬り割った。


「ふん!」


 今度は横薙ぎの一刀で、敵を上下に分断した。


「ふん! ふん!」


 袈裟斬り、逆袈裟と、次々に敵を一刀の元に斬り捨てていく。


 まだ若いながら、ゴンザや仲間達に信頼される理由が解る、圧倒的な腕前であった。



 そんなトシの目の前で、一人のエルフが兵士に斬られそうになっていた。

 トシはそれを助けようと、兵士との距離を一気に詰めた。


「うおりゃあああ!」


 兵士の渾身の一撃が目の前のエルフに振り下ろされる。


 トシは「ふん!」と刀を振るって、その腕と首ごと兵士を両断した。

 しかしそれより一瞬早く、斬られそうになっていたエルフがその兵士を射殺していた。


 そのエルフの射を見て、素速い、とトシは思った。


 一方のエルフは、両断されて飛んでいく兵士の腕と頭を見て、すげえ力だな、と思った。

 そのエルフこそクラドであった。


「……」


「……」


 何故か戦場の真っ只中で、トシとクラドは見つめ合ってしまった。


「……けっ! 余計なことしやがって! 俺の邪魔をするんじゃねえよ!」


 基本的に他者には礼儀正しいクラドにしては珍しく、何故かトシには悪態を吐いた。


「……それは、こちらの、台詞。エルフ、遠くで、弓射てばいい」


 そして、こちらも基本的に礼儀正しいはずのトシが、クラドには何故か悪態を返してしまった。


「んだとコラぁ!」


「なんだ」


 両者は睨み合ったが、近付く敵の気配を察知すると、互いが一瞬でその命を奪った。


「だから、邪魔すんな!」


「お前が、邪魔」


 クラドとトシ――互いに同じ歳の、それぞれエルフと鬼の次代を担う者同士の、初めての邂逅であった。


 彼らはまだ若く、未熟なところもあるため薄い色をしているが、これから先その色はどんどん濃くなっていくことだろう。





 そんな混沌とした色が混じり合う戦場から、人知れず白銀色が離れていった。

 ソエルだ。

 彼女は一人、混乱に乗じて、森の奥のエドワルドの家を目指して走っていった。


 エドワルドは、それに気付いていたが、敢えて見逃した。

 その先に、少女では絶対に超えられない壁が聳え立っていることを知っていたから。


 その壁の色は漆黒――鬼の中で、ただ一人だけが冠することを許される〈侍〉の称号を持つ、最強の鬼が待ち構えていた。




最近主人公がまったく登場しなくてすみません。

それなりの見せ場を用意するつもりなので、もうしばらくお待ちいただけると幸いです。

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