ぐさり
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「――」
ソエルの一言にエドワルドは反応出来なかった。
「……」
それを見てゴンザは、会話の主導権を握られた、と思った。
それまでのエドワルドとソエルの、掴み所がないやり取りを、一種の鍔迫り合いを見るような気持ちで見ていたゴンザにとって、ソエルの一言は、エドワルドを切り捨てるような強さを持っていた。
事実――
「お、王が敵になったのか……?」
エドワルドは、力ない声を発するだけの、自問の海に捕らわれてしまった。
「……争い、避けられないな?」
誰も言葉を発せない空気の中、ゴンザが口を開いた。
「あら? 話せるのね?」
「……」
ゴンザは何も応えない。
彼は、必要なことだけしか話さないと決めていた。
「……避けてほしいの?」
「必要、ない。お前、必ず、ここで、殺す」
そう言い放つと、ゴンザは踵を返して去っていった。
少し遅れて、他の三人もそれに続く。
「そう……。さようなら。また明日」
ソエルもその一言を最後に、船の中へと入っていった。
そのやり取りを、周りの兵士達は呆然と見ているだけだった。
「ゴンザ、助かりました。ありがとう」
森へと帰る途中で、エドワルドが言った。
この二人は、種族を超えた友人同士であった。
「お前、言い負かす、手強い」
「言い負かされたというよりは、グサリと刺された気分です。まさか、王の血縁とは……」
「真実?」
「少なくとも、葬儀の時に遠目から見た少女とは似ていましたね。顔まではっきりとは覚えていませんが、髪の色は印象的だったので覚えています。同じ白銀の髪でした」
「……どちら、にしろ、アーサーボルトの、確認、必要」
「そうですね。本当に王まで関与しているなら、今度こそ永き戦いに決着がつくかもしれない。その辺りも含めて、早急に話し合う必要があります」
「うむ」
「……しかし、あれでまだ十歳とは、末恐ろしい」
謎の少女が、本当にソエル・テクシスリウスならその年齢だと、エドワルドは知っていた。
「末恐ろしい、それなら、アーサーボルトの息子」
ゴンザは、山に時々遊びに来る、少年のことを思い浮かべた。
「ああ、ライくんですね? 確かに、あの子も凄く優秀な子ですよね」
「サクヤ、ライに、夢中」
「ははは、それならウチの二人の子供もそうですよ」
鬼とエルフが静かに笑い合う。
「……守らねば、な」
「ええ、また子供達をライくんと遊ばせてあげないといけませんからね」
「今夜、来るぞ」
「奇遇ですね。私もそう思います」
二人は静かに視線を合わせた。
「今夜出るわ。よろしく」
ソエルは兵士にそれだけ言うと、自分の船室に入っていった。
その後ろ姿を見ながら、新参の兵士達が話し始める。
「お、おい、明日じゃなかったのか?」
「あ、ああ、俺もそう思ってた」
そんな二人に古参の兵士が声をかけた。
「いつものことだ。ああやって、いろんなことで敵も味方も翻弄なされる。……それより、早く準備するぞ」
新参の兵士達は戸惑いつつも、準備を始めていく。
夕日がゆっくりと西に沈み、世界に夜が訪れる。
森と船の間で、少しずつ空気が張り詰めていく。
互いの姿は見えないが、互いが戦の空気を感じていた。
最初に動いたのは、船――甲板にソエルと兵士達が姿を現した。
「貴方達は自由に戦いなさい。私は森の奥から、エルフを奪い取ってくるわ」
「なっ!? ま、まさかお一人で!」
「む、無茶です! いくら姫様でも危険過ぎます!」
「……」
ソエルは驚く兵士達に何も答えなかった。
ただ、無言で兵士達の進軍促している。
「……おい、いくぞ!」
やがて、ソエルに初陣から付き従う兵士の何人かが部隊を仕切り、船を下りていく。
その兵士達に紛れて、ソエルも森へと進んでいった。
一方森では、エルフと鬼が待ち構えていた。
「動いたな」
指揮を取るのはエドワルド。
彼は今、樹の上にいた。
その視線の先には、船から陸地に降り立つ兵士達が見える。
「奴らめに、アールヴエルフの矢をご馳走してやる!」
その補佐に、老齢のレハンド。
「へへ、やっと俺の出番か!」
闘志を燃やす若手のエルフ――クラド。
「トシ、ここ、頼んだ」
「はい。ゴンザ、様、ご武運、を」
森の入口にいる鬼達を取りまとめるのは、若輩ながら将来を期待されている、トシ。
ゴンザは、何故か森の奥へと去って行く。
こうして、夜を徹して続くことになる戦が幕を開けた。




