少女は既に虚実を使う
いつもありがとうございます。
昨日累計総合評価が200ptを超えたことをご報告させていただいたのですが、妖怪「ブクマ外し」に遭遇し、199ptに下がってしまいました(笑)
その方だけでなく、まだ登録していただいている方、読んでくださっている方に、少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
エドワルドとソエルは、弓と短剣を合わせた瞬間に、お互いの力量を正確に読み取った。
即ち――
(この子供、かなりやるな)
(このエルフ、少しはマシなエルフね)
互いの相手が強者であるということを。
ソエルの二対の短剣を受け止めた弓を押して、エドワルドは少女と距離を取ろうとする。
「はあ――!」
逆にソエルは、距離を取らせないようにと、弓を両断するかの如く、左右の短剣を叩きつける。
縦横無尽のソエルの連撃を、エドワルドは近距離に不利なはずの長い弓を、巧みに使って捌いていく。
「フッ――!」
連撃の僅かな隙間に、弓とバックステップを使って、エドワルドが僅かな距離を取ったかと思った次の瞬間――既に、彼の弓からは矢が放たれていた。
「――! くっ!」
そのあまりの射る速さに、さすがのソエルも半身を反らして、躱すのが精一杯だった。
だが、ソエルが反らした半身を戻す前に、既にエドワルドから第二射が放たれていた。
(速い――!)
その矢は、正確にソエルの心臓目掛けて飛んできていた。
ソエルは咄嗟に、反らした半身を戻すことを止め、そのまま勢いよく後ろに倒れ込んだ。
そこには普段ヴィクトリアが使っているベットがあった。
ソエルはそこに倒れ込むようにして第二射をすんでのところで躱すと、右手の短剣を即座に放し、代わりに掴んだ枕を、三射目を番えようとしていたエドワルドに向けて放り投げた。
だが――
(そのまま枕ごと射貫く!)
自分の弓はその程度の妨害では防げないと、エドワルドはそのまま、弓を射る動作を続けた。
しかし、そんなことはソエルも見抜いていた。
弓を番い、引き絞ろうとしたエドワルドより僅かに速く、ソエルが倒れ込んだ姿勢のまま、左手の短剣を投擲する為、大きく振りかぶっていた。
「――!」
一瞬、枕の影となってソエルの姿の大部分が視界から消えていたエドワルドだったが、運良く、彼女の左手が振り下ろされたのだけは、視界の端に捉えることが出来た。
枕の影に隠れて、短剣が飛んでくると思ったエドワルドは、瞬時に矢の発射を中止し、枕を避けるように、右へと身体を動かした。
その視界に、枕に隠れていたソエルの右半身が映った。
(――! しまった!)
その瞬間エドワルドは、ソエルのフェイントに自分が引っかかったことを悟った。
ソエルは左手の短剣を投げていなかった。
左手を振りかぶった時に、素早く右手に短剣を渡し、空いた左手を振り下ろしただけだったのだ。
一方その時、エルフの優れた視力で、ソエルが振り下ろした左手の中に短剣がないことを、エドワルドは正確に捕捉していた。
そこまで見えていたからこそ、既に短剣が投げ放たれたと判断し、回避行動に移ったのだ。
だが実際は、左手に短剣など最初から存在しなかった。
では、右手に渡した短剣はその後どうなったのか?
答えは、回避した先のエドワルドの視界の中にあった。
短剣は、枕を躱すために移動したエドワルドの、胸を目掛けて飛んできていた。
エドワルドの回避行動を誘発し、その到達点を予測し、その場所へと、ソエルが右手から放ったのだ。
(捉えた!)
とソエルは思った。
致命傷にはならずとも、その動きは止められると。
故に、そこを追撃する為に、ベットに放り出していたもう一本の短剣を彼女は手に取った。
だが、身体を起こそうとしたところで、その動きは追撃から回避へとその目的を変えることになった。
ソエルは、エルフの目の良さとエドワルドの技術の高さを見誤っていたのだ。
エドワルドは、短剣の軌道を正確に読み取ることが出来た。
かなりの速度で飛来する短剣が、完璧に見えていて、その動き全てを捉えていた。
エドワルドは慎重に弓を移動させ、弓の下半分――下姫反が短剣の軌道上に来るようにすると、中断していた射の動作を再開した。
ソエルの短剣が弓に刺さった瞬間――エドワルドは矢を放った。
短剣が刺さった衝撃で、僅かに狙いは逸れたが、それはソエルの目掛けて飛んでいき、慌てて回避しようとしていたソエルの右腕を僅かに掠めた。
ソエルは回避行動の勢いそのままに、ベットから飛び降りると、腕の痛みに動じることもなく、体勢を立て直し、反撃を試みるように身構えた。
一方エドワルドは、短剣を弓に刺したまま次の矢を番え、ソエルに向けて射る機会を窺っていた。
「……」
「……」
次の攻防に向けて、二人の間の緊張が高まっていく
その時――
ゴーン! ゴーン! ゴーン! ゴーン!
と、両者の高まる間を外すように、天井から鐘の音が聞こえた。
ルシールが子供達と共に部屋を出て、鐘を鳴らすまでの、刹那の攻防であった。




