五月雨雪月花
いつもありがとうございます。
深夜に書いたということもあり、我ながら厨二病が爆発しております。
生暖かい目で、よろしくお願いします。
アールヴ大森林には樹齢千年を超える巨木が無数に存在する。
下から見上げても、その背の高さが判らない程の大きな樹が林立しているのだ。
これが“大森林”たる所以でもある。
そこに住むエルフ達にはある変わった風習があった。
学習院を卒業した十六歳の若いエルフの男女は、家族を持つまでその巨木の上――樹冠に絡みつくように建てられた家で暮らさなければならない、というものである。
どうしてこういった風習があるのか、外部の者はよく知らない。
エルフの掟で話してはいけないことになっているからだ。
昔あるとき、街に出たエルフが酔客に「お前達は目が良いから、まぐわいを覗かれたり、たまたま見て興奮した奴がすぐに入ってこないように、木の上で生活しているんだろ?」と絡まれたことがあった。
これが笑い話として広まり、今ではそれが理由だと多くの者に思われている。
エルフにとっては笑えない話ではあるが。
だが、確かにそういった、ある種の俗な面もこの風習には存在する。
下にある家に比べ、樹の上の家は数がそこまで多くはない。
その絶対数から、若いエルフ達は、気のあった者同士や、恋人同士などに分かれて、共同生活を営んで暮らさなければならない。
幾人かで一つの家に暮らさなければ、数が足りなくなるのだ。
これにより、下に住んでいた頃からは比べものにならないぐらい、異性間での接触が増える。
それが子孫繁栄の面で、良い効果を生んでいる事は事実としてあるからだ。
エルフを馬鹿にした笑えない話が広まっている事は問題だが、エルフの若者達は、この風習を好意的に受け入れている。
ただ、樹の上の家に住むというだけで、基本的に下とは自由に行き来が出来る。
これにより、当事者の若者達にとって今までの生活とさほど変わりはなく、むしろ同世代の仲間と過ごせる事を喜ぶ者が大半を占めていた。
怪我や病気をしている者、用事がある者などは下で夜を迎えることも認められているので、
そういった融通のきく風習である事も、好意的に受け入れられている要因の一つだ。
昼間は下で仕事をし、夜は上で過ごす――これがエルフの若者達の暮らしであった。
一部、ヴィクトリアの様に病弱な者は、その年齢に達しても下で暮らすことになるが、エルフ特有の美貌故、結婚相手に困ることはない。
行商人や旅行者など、多種族と結婚する者も少数だがいるのだ。
現在の《イリス》において、エルフほど結婚相手に困らない種族はいないと言えるだろう。
だが、だからこそ、彼らは樹の上で暮らす必要があったとも言える。
昔、まだ大地が割れる前の話ではあるが、エルフはその種族特有の美貌から、多くの人や亜人に狙われていた。
故に、幼い子供や女性、高齢で戦えない者などを守る為に、樹の上で匿ったのが、この風習の本当の始まりだ。
アールヴ大森林に限らず、エルフの暮らす土地では、似たような風習が必ず存在する。
それだけ、彼らは犠牲を強いられた種族とも言えるだろう。
だが、これは誰にでも話せる理由だ。
亜人の研究をしている者が書いた本には、エルフの項に、この理由が明記されているし、先の酔客の笑い話を払拭するため、エルフ達自身がこの理由を話すようにもしているほどだ。
アールヴ大森林のエルフが、掟で話すことを禁じているのは、これら二つの理由ではない。
面白可笑しく広まった低俗な理由ではなく、迫害の歴史に起因する、余所暮らすエルフにも共通する真実の理由でもない。
話すことが禁じられているのは、第三の理由について――今から下にいる部隊が思う存分味わうことになる、仕掛けられた罠についてだ。
その罠とは、夜や朝方の奇襲に対する、高所からの一方的な矢の打ち下ろし――
樹の上に伏せた、体力や筋力が充実している若いエルフが、その夜目遠目が自在の視力の良さも相俟って、夜討ち朝駆けを仕掛けてきた敵に、高所から一方的な攻撃をする、下のエルフを餌とした変則的な釣り野伏
――アールブ弓式防衛戦術の一つ〈五月雨雪月花〉のことだ。




