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そして少女の悲鳴は戦いの始まりを告げる

いつもありがとうございます。


いつの間にか累計PVが二万を超え、ブックマーク登録も80件になりました。

これもいつも読んでくださっている皆様のおかげです。


これからも、少しでも楽しんでいただけるように頑張りますので、よろしくお願いします。



2015/07/26 22時

冒頭の文章を少し変更しました。

 

 雨が徐々に強くなり、風もその強さを刻一刻と高めていく――その夜、アールブ大森林は嵐になった。


 そんな嵐の夜に、ゆっくりと忍び寄る森の異変に、いち早く気付いたのはヴィクトリアだった。


 夕食の時の出来事が、未だに頭から離れず、寝付くことの出来ない彼女は、窓の外を見ていた。

 隣では、アランドルが静かな寝息を立てていた。

 姉同様、ショックを受けていた彼であったが、眠気には勝てず、少し前に夢の世界に旅立ったところだった。


 ヴィクトリアは、ゆっくりとベットから起き上がり、窓辺の椅子へと身体を移した。

 眠れぬ夜はそこで、月明かりを頼りに本を読むのが、彼女の習慣だった。

 だが、嵐の夜には、外の光はほとんど入ってこない。


「……」


 ヴィクトリアはただ静かに、夜を見つめながら、雨音を聞いていた。

 風が、強く窓を揺さぶる音を聞いていた。



(……?)


 不意に、ヴィクトリアは違和感を覚えた。

 何に対しての違和感なのかは判らなかったが、とにかく何かを感じた。


(森の様子がいつもと違う?)


 嵐の中、辺りの様子がはっきりと見えない視界の悪さではあったが、ヴィクトリアは何かを感じていた。

 生まれてから今まで、多くの時間をこの窓からの景色を見て過ごした彼女だからこそ気付ける些細な違和感。

 彼女の、その生い立ちから卓越せざるおえなかった観察力を用いて、初めて感じることの出来る些細な差異。

 それが今、ヴィクトリアの目の前にあった。


(一体何? すごく嫌な感じがする……)


 だが、それが何かはまだ判らなかった。



 ゆっくりと村を包囲する兵士達。

 ただ一人、一軒ずつエルフを殺していく緋色の瞳の亜人斬り。

 そんな存在が、今この視界の中にいるなど、どうしてこの少女が想像出来ようか。



 その時、ヴィクトリアの黒の視界に、突然白が混じった。


 森の奥、少し先の家から誰かが出てきたようだった。

 エルフ特有の、高い視力を持つヴィクトリアだからこそ、嵐の中でもその姿を確認することが出来た。


(誰? 女の子?)


 家から出てきた少女は、ヴィクトリアに半身を見せたまま、雨を浴びるように空を見ていた。

 銀色の美しい髪、文字が書かれる紙のように白い肌、着ている服も白を基調とした物のようで、闇の中で、その少女だけが白く瞬く星の様に、ヴィクトリアには見えた。


「綺麗……」


 自然と、ヴィクトリアは声をこぼした。

 すると、その声が聞こえたかの様に、少女がヴィクトリアを見た。

 遠く離れているのに、ヴィクトリアは少女と目が合ったと思った。



 黒の中に、白以外の色が付いた。

 少女の瞳の、血のような緋色。

 少女が手に持っている何かの金色。

 金色の先にある肌色。

 肌色の下から流れ落ちる血の朱色。



 少女――ソエルは、エルフの生首をぶら下げていた。

 その金の髪を掴んで。


「――きゃぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!」


 それを認識した時、ヴィクトリアは生まれて初めて悲鳴を上げた。



 その悲鳴で、アランドルは飛び起きた。

 一瞬で少年の意識は覚醒した。

 寝ぼけることなど許されないと、その悲鳴が言外に伝えていたからだ。

 だが、幼いアランドルがそんなことを理解できるはずがない。

 ただ、一人のエルフの恐怖の奔流が、同じくエルフの少年を押し流しただけだ。



 そしてそれは、夫婦の寝室で自己嫌悪に苛まれていた少女の父親と、それを慰めていた少年の母親にも届いた。



 そして――白亜の亜人斬りにも。



 ソエルは、ヴィクトリアに向かって走り出した。


 ヴィクトリアは悲鳴を上げたままアランドルに飛びかかり、ベットから引き摺り落とした。


「ああ! あぁぁ! ぁぁああああああああああああああああああああああ!」


 その目は、アランドルを見ていなかった。

 ヴィクトリアの目は、窓の外のソエルを見たままだった。

 あまりの恐怖が、目を背けることを許さないのだ。


「!」


 アランドルは声にならない声を上げた。

 自分より力がないと思っていた姉に、少年は為す術もなく引き摺られていた。

 自分に何が、姉に何が起こっているのか、アランドルには全く判らなかった。

 だが、いつも病気をしているか弱い姉が、こんなにも必死で何かから逃げようとしていることだけは、何となく理解できた。

 何か怖いことが起こっているのだと、アランドルは思った。



 もうすぐ部屋の入口というところで、その扉が勢いよく開いた。


 エドワルドとルシールが、娘の悲鳴を聞いて駆け付けたのだ。

 エドワルドの手には、黒い長弓が握られていた。

 既に彼らの警戒心は最大まで高まっていた。


「どうした!? だいじょ――」


 窓をバリーンとぶち破り、ソエルが室内に飛び込んできた。


 エドワルドは瞬時にそれに反応した。

 一射、二射、三射と、立て続けにソエルに向かって弓を放った。


 それが年端も行かぬ少女だと、一射目を放つ前には気付いていたが、エドワルドは容赦しなかった。

 油断や侮り、情けや憐れみが、味方に死をもたらす事をエドワルドは知っていた。

 争いを嫌ってはいるが、彼は一流の戦士なのだ。


 だが、そのエドワルドの稲妻のように鋭い矢を、ソエルは難なく三射とも躱し、反撃の体勢を一瞬で整えた。


 その一瞬の間隙に、ルシールは二人の子供達を引き寄せ、素早く部屋を飛び出した。

 彼女もまた、どんな局面にも冷静に素早く対応出来る、全面戦争を戦い抜いた戦士であった。


 三人の身体が部屋の入口を通過する正にその後ろで、エドワルドはソエルの二対の短剣を長弓で受け止めていた。



 電光石火――今ここに防衛戦の火蓋は切って落とされた。


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