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出立

いつもありがとうございます。


ブックマーク登録が70件に達しました。

本当にありがとうございます。


これからもよろしくお願いします。

 

 カイルとの話を終えたジュウベイは、四半刻程で身支度と必要な手配を済ませ、サクヤがいる部屋へとやってきた。


「……」


 その部屋にずっといたライは何も言わなかったが、旅支度を整え、腰に大小を差したジュウベイの様子と、今朝の狼煙の一件で騒がしい屋敷の様子から、今何が起こっているのか、ある程度推察していた。

 ジュウベイはサクヤの側まで来ると、優しくその髪を梳いた。


「サクヤ、目、覚ました?」


 サクヤを見下ろすジュウベイの瞳はどこまでも優しかった。


「いえ、まだです」


「そうか……。ライ?」


「はい」


「昨日、本当、ありがとう」


「いえ……」


 自分の為にしたことだと、ライは思っていた。

 ジュウベイが、サクヤからライに視線を移し、二人の目が合った。

 ジュウベイの瞳はどこまでも真剣な色を湛えていた。


「……サクヤ、頼む」


 そう言うと、ジュウベイは踵を返して部屋を後にした。


「……」


 必要以上の言葉を交わさなかったが、ライには解っていた。

 これから、ジュウベイが、戦に行くということが。



「……」


 ライは昨日カイルの部屋で見た地図のことを思い出していた。

 狼煙が上がった方角には――アールヴ大森林があった。

 雷蔵の生きた時代、狼煙といえば火急を知らせるものだった。

 そして、今のジュウベイの様子を見て、ライが至った結論は一つだった。


(アールヴ大森林で戦が起こっている)


 ライにはまだ詳しいことはよくわかっていない。

 この世界にどんな問題があり、辺境領と王国にどんな確執があり、自分がどんな家に生まれたのか、まだ深くは理解していなかった。

 ただ、友に危機が降りかかっていることは理解できた。


(アランドル……、ヴィクトリア……)


 ライの心に、二人の姉弟の笑顔が浮かんだ。

 ライは、この笑顔を守りたいと思った。

 だがそれは――あくまでも自分の為にであった。

 自身が嫌な思いをしたくないからこそ、二人の笑顔を守りたかった。


「……サクヤ」


 ライはサクヤの寝顔を見た。

 とても穏やかな寝顔だった。


 この僅か数時間後、サクヤは目を覚ました。

 その時、部屋にライの姿はなく、サクヤの穏やかな表情は、悲しみへと暗転した。





 カイルが正門で待っていると、馬に乗ったジュウベイが、仲間の鬼と共に厩舎の方から歩いてきた。

 久方ぶりの戦の空気に、カイルもジュウベイも、周りにいた鬼達も、皆一様に表情が硬くなっていた。

 カイルの前でジュウベイ達が止まった。


「ジュウベイ殿、先程、隊舎から連絡がありました。街の門に、精鋭五十人が待機しています。彼らと共に大森林に向かってください」


 不測の事態に備えなければならないことと、鬼族の援軍も見込めることから、カイルが導き出した兵士の数は五十人であった。

 エルフの戦士が助けを求める程の事態に対して、少なすぎる数かとも思ったが、カイルは領内全ての安全と、ジュウベエの力を考慮し、この決断を下した。


「十分、だ」


 カイルの気持ちが解ったのか、ジュウベイはただ一つ頷いた。


「サクヤを頼む」


「ご武運を」


 ジュウベイ達が視界から消えるまで、カイルはその姿を見送った。

 屋敷の中からも、リースやアリス達使用人がその後ろ姿を見送っていた。

 彼女らは安全を考慮して、カイルの命により、事態が落ち着くまで、屋敷の外に出ることを禁じられていた。

 この騒ぎに乗じて、昨日の様な襲撃があることを。カイルは警戒していたのだ。

 だが、これが仇となった。


 屋敷の住人達の視線が、ジュウベイに向けられている裏で、一人の少年は既に動き出していたのだ。

 厩舎にいたサクヤの愛馬と、ライの姿が屋敷から消え、どうやらジュウベイ達の出立に合わせて裏門から抜け出したであろうことが露見するのは、今から半刻後のことであった。



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